平成6年度 宣言

里山の復権を求めて

 雑木林に代表されるような市街地や集落の周辺に存在する森林は,それが人里近くにあるところから,人里離れたところに存在する「奥山」に対し,「里山」と呼ばれている。
 里山は,落葉広葉樹を中心とした多種類の植物から成り,多様な動植物を育む豊かな生態系を構成するとともに,四季折々の変化に富んだ美しい景観によって,日本人の感性と日本の伝統的文化や芸術に多大な影響を与えてきた。このような里山は,もともと自然の状態で存在し続けてきた原生的自然ではなく,人里近くにあって人間の営みと密接な関係を持ち,人為的に維持されてきた2次的自然である。すなわち,里山は,薪炭や堆肥の供給源として適度に人手が加え続けられた結果,荒廃から守られ,潜在自然植生である照葉樹林へ遷移することなく維持されてきたものである。ところが,この約30年間における化石燃料や化学肥料の普及によって,里山はその経済的機能を喪失し,人手が加えられなくなった結果,荒廃し,開発によって急激に減少しつつある。
 しかし,里山は,「人里近くに存在し,落葉広葉樹を中心とした多種類の植物によって構成されている」という特質から,原生的自然に勝るとも劣らない重要な役割を果たしている。第1に,その豊かな生態系ゆえに,多様な生物資源保存機能を持っている。第2に,人家や農地等を洪水や土砂崩壊・流出等の災害から守る役割を果たしている。第3に,気温緩和,大気浄化,防風・防塵,防音等の環境保全機能によって,快適な生活環境を保全するという役割を果たしている。第4に,美しい景観を形成し,保養,レクリエーション,自然環境教育や情操教育,さらには文化的活動の場としての役割を果たしている。
 われわれは,このような里山の重要性を再認識し,その荒廃・減少を防止するとともに,これを積極的に保全・再生していかなければならない。
 自然環境保全に関する現行法制度のなかには,それが有効に機能すれば,ある程度は里山の保全に寄与する制度も存在しないではない。しかし,現行の法制度には,多くの問題点がある。第1に,法律の目的・内容において,保護とならんで利用を掲げるものもあって,現実には利用すなわち開発優先の結果を招来しがちである。また,部分的な限られた地域の開発規制に止まり,全体としての生態系や景観の保全・管理が有効になされない。第2に,各法律によって所轄省庁が異なり,いわゆる縦割り行政のため各省庁間の調整が困難であって,総合的な自然環境保全機能を果たし得ない。第3に,地方自治体の役割が制約されており,地域の特質を生かした個性的な地域作りや保全計画を困難にしている。第4に,環境アセスメントや情報公開,住民参加の制度がほとんどなく,地方自治体の権限の弱いことと相まって,地元住民や自治体による積極的な保全・管理の道を閉ざす結果となっている。第5に,自然保護の手法が「規制的」手法に重点をおいており,里山のような2次的自然の維持に不可欠な管理的手法や経済的手法の採用が不十分である。
 これらの問題点の多くは,既存の個々の法律の部分的改正によって解消することは困難である。
 したがって,われわれは,国に対し,次のような立法措置を求めるものである。
1.里山を中心とした身近な自然における豊かな生態系や景観の保全・管理を目的とした立法措置を講じ,自然環境保全行政の一環として環境庁に所轄させること。
2.右法律においては,各地方自治体が,生態系や景観といった多様な観点からの「環境調査」とこれにもとづく総合的な「環境管理計画」の策定を実施し,きめ細かな「地域指定」と各指定地域の特質に応じた「管理」を行う内容とすること。
3.右「環境管理計画」の内容に関しては,市民の里山へのアクセスを重視したものとすること。
4.右「環境管理計画」の策定に際しては,十分に市民に情報を公開するとともに,計画の策定自体に市民を参加させるシステムをつくること。
5.すべての開発行為について,計画アセスメントを含んだ環境アセスメントを実施すること。
6.右「管理」については,景観の保全に不可欠な伝統産業の保護,里山保全のための税制上の措置,市民による里山保全に対する支援も内容とすること。
 右宣言する。
1994年9月28日
関東弁護士会連合会