平成7年度 決議

高齢者の財産管理に関する決議

1.わが国における65歳以上の高齢者人口は,1994年(平成6年)に全人口総数の14.0パーセントを超え,2000年(平成12年)には17.0パーセント,2020年(平成32年)には25.5パーセントに達するものと予測され,世界に類をみない急激な速さで高齢化社会が進行しつつある。
 そのような状況のもとで老夫婦やひとり暮らしの老人が急増し,単に意思能力の減退あるいは痴 呆により自ら財産を管理したり活用ができなくなるにとどまらず,財産目当ての親族や悪徳商法など他人によって長年月にわたって築きあげてきた財産を一夜にして失ってしまう,という事態が希 有の事例ではなくなってきている。
2.現行法のもとでは,このような判断能力の減退した高齢者の財産を管理するための制度として禁 治産宣告・後見人制度が存在する。
 ところが,禁治産宣告制度は,意思能力を欠く者の財産を保護しようとする面で有用であるにせよ,一般に社会的不名誉な事態と強く認識されているため,本人も,その周辺の者たちも適用を回避したがる実情にあり,一旦,宣告を受けると,本人の管理権が失われ,禁治産者の財産全てが後見人の管理するところとなる制度であり,形式的・画一的に処理されることになり,いかにも硬直した制度である。
 例えば,ひとくちに痴呆老人といっても,その痴呆の態様や症状の程度は,ひとりひとり異なり,その種類は千差万別であり,個別・具体的な対処が必要である。
3.西欧の高齢化の進んだ国々においては,ハンディキャップを有する人達が社会の一員として普通の生活ができるように環境を整備しようという「ノーマライゼーション」の思想のもと,高齢化社会における高齢者の自己決定権をも尊重しつつ,具体的かつ多様な形でその財産管理を進めていこうとしている。
 そして,1983年にはオーストリアで「世話人法(代弁人法)」制定され,他方,1985年にはイギリスで意思能力喪失後も持続的代理権を認める「持続的代理権授与法」が制定され,1990年にはドイツにおいて「成年者のための後見及び監護法の改正に関する法律」(世話人法)によって,民法典における行為能力剥奪宣告制度(無能力制度)が廃止され,成年後見制度が制定された。
 イギリスの持続的代理権授与法は,自己の意思で,意思能力を減退ないし喪失したときの代理人を事前に選任することができ,オーストリア及びドイツにおける世話人法は,被世話人の精神能力の程度に応じてその行為能力が定められており,それぞれ本人の自己決定権を尊重しつつ個々具体的なケースごとに財産管理の権限を認めている。
4.高齢者の財産管理の問題は,1993年(平成5年)の当連合会人権研究大会,1994年(平成6年)の中部弁護士会運合会及び九州弁護士会連合会の各シンポジウムなどにおいて,さまざまな視点からとりあげられてきた。
 そして,いずれの大会においても禁治産宣告・後見人制度が現代の高齢化社会に適応しないことから,その改正あるいは廃止を目指し,いわゆる成年後見制度の導入を提言している。
 また,法制審議会においても,1995年(平成7年)に成年後見制度の導入のための研究会を設置し,問題点を検討している。
5.私たちは,わが国で他の国以上に事態が切迫していることを認識して,高齢者の財産保護と活用について,各国の成年後見制度をはじめとする諸制度を検討し,わが国にどのような形で導入されるべきなのかを,わが国の国情報や将来的な展望に沿った形で具体的に研究し,国及び地方公共団体などの諸機関が,やがて来る高齢化社会に向けた高齢者の財産管理の問題点について,緊急かつ最優先の課題として取り組むよう強く求めるとともに,その一助となるべく,法制度をはじめとする具体的な施策の検討・提言を行っていくものである。
 右決議する。
1995年9月29日
関東弁護士会連合会