平成12年度 決議

法曹一元制度と陪審制度の実現を
−司法制度改革審議会に望む−


 民主国家における司法は,主権者たる「市民の市民による市民のための司法」でなければならず,官僚的司法制度から民主的な司法制度への転換が図られなければならない。そのためには,今回の司法制度改革が既存の諸制度との妥協的改革であってはならず,司法の主体を市民に転換するという制度選択の問題であることを強く認識する必要がある。そして裁判制度においては,今までキャリア裁判官がもっぱら独占してきた裁判に,市民の参加が実現することができるかどうかが改革の大きなポイントである。
 官僚的司法制度から民主的な司法制度への転換を図るための重要な柱として,第一に裁判官を任用するシステムにおいて,広く市民と密接な存在である弁護士を中心とする法律家の中から裁判官を任用する法曹一元制度を実現する必要がある。
 我々が目指す法曹一元制度は,裁判官を官僚的司法行政から解放し,まさに「市民による市民のための司法」を実現するための制度であり,(1)市民も加わった裁判官推薦委員会が社会的経験豊かな弁護士を中心とする法律家の中から,最も適切と思われる人を裁判官として選任するものであり,(2)任命された裁判官はすべて同格とされ,司法行政による不平等な差別待遇や意に反した転勤などを受けることがない自由で独立した身分が実質的に保障されなければならない。
 第二に,「市民による市民のための裁判」を実現する制度として,陪審制度の導入を積極的に実現すべきである。
 陪審制度は,市民が裁判手続の中に参加する制度であり,市民が裁判の客体としてではなく,主体として参加する制度である。このことは市民が民主主義を支える一員として,法的な自律性を取得して社会的責任を自覚する契機ともなり,民主主義の発展に寄与するところ大である。これに対して,「裁判の重要な部分をなす事実認定をすべて素人である一般国民に委ねることに対し,国民の信頼を確保できるのか」等これを直ちに導入することに問題があるとする意見があるが,市民の能力を過小評価するものであり,司法の主体を市民に転換する制度選択の視点より考えるならば,これらの制度を導入する基盤がないという意見は,主権者たる市民に信頼をおかない民主主義の理念に反するものである。
 21世紀の司法は,市民が積極的に裁判に参加することによって,自立した市民による公正で自由な活力ある健全な社会の構築を目指すものである。
 関弁連としては,政府に設置された司法制度改革審議会の中間答申にあたり,今度の司法改革が妥協的な弥縫策に終わることなく, 民主的な司法制度に貢献する法曹一元制度と陪審制度の実現を強く要望すると共に, その実現に向けて積極的に行動することを決意する。
 以上のとおり決議する。
2000年(平成12年)9月22日
関東弁護士会連合会

提案理由
 昨年7月に政府に設置された司法制度改革審議会もすでに1年以上が経過し,昨年12月に発表された「司法制度改革に向けて−論点整理−」を指針として,精力的に審議を重ね,今秋にも中間答申が出されようとしている。これに対して多方面からの意見書が公表されているが,関弁連としては,21世紀を展望した法曹一元制度と陪審制度の実現を,以下のように提言するものである。
 即ち,我々は今までの司法が国家の役割の中で行政主導型の「小さな司法」であり,市民のための十分な「法の支配」を果たしてこなかった点を反省し,憲法の理念とする「法の支配」が市民の隅々まで行きわたる「市民の市民による市民のため」の「大きな司法」をめざすべきであり,今回の司法制度改革においても市民を司法の客体とする官僚的司法制度から市民が参加する民主的な司法制度への抜本的な転換を図る制度選択の問題であることを強く認識すべきである。
 第一に,市民の司法を実現するためには,その権利を擁護する使命を担う弁護士を中心とする法律家の中から裁判官を選ぶ法曹一元制度の実現が不可欠である。
 関弁連としては昨年の第46回定期大会において「法曹一元制度の実現に向け,行動する」大会決議を行なった。自由民主党の本年5月18日「21世紀の司法の確かな一歩」と題した司法制度調査会報告の中で「裁判官の育成・任用制度についても検討を加え,多様な経験を積み,広い視野と高い識見を備えた者を裁判官に登用していく工夫が必要であ」るとしながらも,臨時司法制度調査会の意見書を引用し,そのためには「まずは,弁護士人口の大幅な増加,弁護士偏在の解消や弁護士事務所の共同化を進めるなどの諸条件が整備される必要があるし,臨司の意見書でも指摘されている弁護士に対する国民の信頼度の向上,弁護士倫理の高揚や弁護士会の体質改善等の弁護士の公共的性格の強化等について,弁護士や弁護士会の自己改革が期待され」ると述べている。ところで,日弁連は昨年度「ひまわり基金」を創設して,弁護士過疎地域に法律相談センターや公設事務所を開設するなどその解消に努め,また国費による被疑者弁護制度の先駆けとして法律扶助が利用可能な当番弁護士制度を創設するなどして自己改革の努力を行ってきた。一方,法律事務所の共同化に向けて法人化の実現に積極的に取り組み,また法曹人口の適正な増加を提言するとともに,法曹養成制度としてロースクール構想など前向きの提言を行なっている。また,各地の弁護士会が公益活動である法律相談や国選弁護,当番弁護士制度を積極的に推進し, それらの活動を会員に義務付けるなどの努力を行っている。
 これらの弁護士会の姿勢は,弁護士に対する市民の信頼を向上させる努力の一環であり,弁護士会の自己改革の努力によって法曹一元制度導入の基盤は整備されつつある。司法制度改革審議会は,弁護士会の努力を真摯に受けとめ,法曹一元制度の実現に向けての具体的なスケジュールを提案すべきである。
 第二に,陪審制の導入についてであるが,市民の司法参加の観点から,以下の理由により,陪審制度を実現することを強く要望するものである。
 陪審法は,大正12年(1923年),第一次世界大戦後の国民の統治主体意識が高揚した中,普通選挙制度にも先だって成立し,昭和3年(1928年)から実施された。しかし,昭和18年(1943年),議会の機能と国民の権利自由が共に失われる中で,「陪審法ノ停止ニ関スル法律」により,その附則で「陪審法ハ今次ノ戦争終了後再施行スルモノ」とされてその施行が停止された。ところが,再施行の期日は定められることなく,半世紀を越える年月が経過した。
 日弁連では,本年3月17日陪審制こそは国民に統治客体意識から統治主体意識への変化を促す司法制度であるとの認識に基づき,まず選択的刑事陪審制度を導入し,続いて一定の民事事件・行政事件及び刑事軽罪事件についても導入を拡大していくべきとする「陪審制度の実現に向けての提言」を発表した。
 また,自由民主党の司法制度調査会報告の中で,陪審制度は「事実認定を一般国民から選ばれた陪審員のみが行う点で,国民の司法参加という意味では,最も徹底した制度である。」とその意義を正しく評価した。
 民主党は,本年7月12日「市民が主役の司法へ」と題する提言の中において,陪審制についても「多くの国々で現に行われており,わが国のみが行い得ないはずがない。司法制度改革の重要課題として,早期の実現をめざす。」という明確な政策を発表した。
 両政党の意見に共通して認められるのは,国民の司法参加という観点からの陪審制に対する高い評価である。これに対して,自由民主党の調査会報告の中には「裁判の重要部分をなす事実認定をすべて素人である一般国民に委ねることに対し,国民の信頼を確保できるのか,我が国の国民が,陪審員の重責を受け入れこれを果たすことができるのか等,これを直ちに導入することには少なからぬ問題があると言わざるを得ない」との指摘がある。しかし,この指摘は,陪審員による事実認定が,裁判官の訴訟指揮の下で両当事者の説明・説得活動を受けて行われることを看過し,戦前に於ける陪審裁判の実績や市民に信頼を置く民主主義の理念に反するものとなる。
 民主的な司法とは,市民が裁判官の任用に参加するなど司法行政に参画することであり,市民が裁判に参加して適正な手続による裁判を実現することである。司法に市民が参加することに懐疑的な自由民主党の司法制度調査会の意見は,市民の能力を過小評価するものであり,司法制度の改革を停滞させるものである。
 司法制度改革審議会は,今回の司法改革が司法の主体を市民に転換するという制度選択の問題であることを認識して,21世紀に向けた「市民の市民による市民のための司法制度」を提言すべきであり,そのためには改革の重要な柱である法曹一元制度と陪審制度の実現を図るべきである。これに関して,同審議会は先般8月7日ないし9日の集中審議に於いて, (1)給源の多様性・多元性をはかることとし,質の高い裁判官を安定的に供給できるための制度を整備し, (2)裁判官への国民の信頼を高めるために任用制度を工夫し, (3)人事の透明性・客観性を図ることで大方の意見が一致したとのことである。しかし,判事補制度の廃止という重要な点において明言するには至らなかった。
 関弁連としては, 司法制度改革審議会に対して,今度の司法改革が既存の制度との妥協的弥縫策に終わることなく, 法曹一元制度と陪審制度の導入を強く要望すると共に, これらの制度改革が真に実現できるように, 引き続き市民や関係諸機関に積極的に働きかけ, 行動することを決意する。
 よって,本提案をする次第である。