平成13年度 決議

「21世紀を生きる子どもたちのために」私たちの決議

 我が国社会が民主国家として健全に発展するためには,その構成員である国民一人一人が自立した人間であらねばならない。
 即ち,国民各人が法の精神,とりわけ我が国の骨格をなす立憲民主制の基本価値・法の支配などの法理を理解し,法規範の根底にある自由・平等・正義・公平などの理念に基づいた価値判断をなし,自律的に自己の権利を行使し,且つ,社会に対する義務を履行していくことが必要である。
 上記のような国民を育成するためには,幼児段階から高等学校に至るまでの教育において,青少年に対し,法形成過程・法システム及びこれらの基礎にある原理や価値に関する充実した教育を速やかに施す必要がある。
 我々は,21世紀の我が国が法の支配による健全な社会となるよう,その構成員たる将来を担う青少年に対し速やかに充実した法教育を実施することを求める。
2001年(平成13年)9月28日
関東弁護士会連合会

提案理由
1. 法教育とは,「法律専門家」ではない人々を対象に,法律,法(形成)過程,法システム及びこれらの基礎にある原理や価値に関する知識,技能を提供する教育のことであり,いいかえると,一般の国民に対し,各人が,さまざまな問題を,主体的に解決をしていけるように,法的な知識,法的な見方や考え方を思考の道具として提供していく教育のことである。これまでなされてきた憲法教育,司法教育,人権教育,消費者教育など各種教育の重要性・必要性はいうまでもないが,これらは,いずれも特定の分野に重きを置くものであると考えられ,法教育はこれら各種教育を包括するものと位置づけられる。
2. ところで,日本の法文化においては,法を縦の関係のものとしてとらえがちであり,法に対する態度は回避的であるか,依存的であり,一般人も,法を,違反すると罰せられるもの,自分とは無関係のものと受け止めがちである。また,日本の初等中等教育の現状においても,憲法を取り上げても,条文などの単なる知識を習得させることにとどまっており,残念ながら憲法の精神や法規範・ルールの精神を教えることはない。そのため,国民は,憲法について抽象的な知識を有しても,それが知識レベルにとどまり,かつ,民法などに代表される市民相互の水平関係での利害調整についての法について,基本知識,技能を持たないことから,日常生活において,法の精神を有効に活用することができないか,あるいは一部において極端な権利主張に陥りがちであったりする。
3. 複雑化した日本の現代社会においては,各人の価値感も多様化し,それに伴い既存の伝統的な道徳価値・規範意識による統制機能が低下し,社会問題 の解決,私人間の紛争処理などあらゆるところで,制定法を含む広い意味での法規範がかかわる,いわゆる法化社会が進展しつつあり,その動きは今後更に加速していくものと考えられる。
 また,司法制度改革審議会は,平成13年6月12日の最終意見書のなかで,各種諸改革は「国民の統治客体意識から統治主体意識への転換を基底的に前提とするとともに,そうした転換を促そうとするものである。」とし,「国民的基盤の確立のための条件整備」において,「学校教育等における司法に関する学習機会を充実させることが望まれる。このため,教育関係者や法曹関係者が積極的役割を果たすことが求められる。」「法や司法制度は,本来,法律専門家のみならず国民全体が支えるべきものである上,今後は,司法の拡充に伴い,国民が司法の様々な領域に能動的に参加しそのための負担を受け入れるという意識改革も求められる。そのためには,学校教育を始めとする様々な場面において,司法の仕組みや働きに関する国民の学習機会の充実を図ることが望まれる。そこでは,教育関係者のみならず,法曹関係者も積極的な役割を果たすことが求められる。」と提言している。
4. 21世紀において,我が国が,自立した国民による公正で自由な活力ある健全な社会を実現するために,各種改革がなされるとともに,社会の根底を,法が要となって支えていくことが必要である。そのためには国民的基盤を有する司法制度改革がすすめられなければならない。そのためには,なによりも,国民の意識改革が求められる。すなわち,国民の一人ひとりが,我が国が依ってたつところの立憲民主制の基本価値,法の精神,法の支配を理解するとともに,それを支える市民社会において,各種法規範の根底にある自由・平等・正義・公平などの規準に基づく価値判断を行い,自律的に権利を行使し,義務を果たしていく姿勢がのぞまれる。
 このような観点から,我が国の初等中等教育における法や司法に関する教育の現状をみると,教科書に若干の記載はあるものの法の基本原理を理解させようという観点からいまだ不十分といえ,また,他方,我々,法律実務家による教育に対する取り組みも不十分であったといわざるを得ない。
5. 我々,関東弁護士会連合会は,我が国の21世紀という明日をになう子どもたちのために,社会で生き抜いていくために必要な知識や技能,とくに法規範における基礎的な概念,たとえば正義,公正,公平,手続などを学習させるとともに,実社会で必要な法的知識について学習機会を提供する必要があると考える次第である。そのために,学校,文部科学省を含む関係各方面に法教育の実施及び充実を強く働きかけるとともに,その実現のために積極的に行動する決意である。