平成13年度 宣言

地方議会の創造的発展と住民投票の制度化をめざして

 日本国憲法は,我が国において初めて地方自治を基本的制度として制定し,我が国の地方自治と民主主義の実現に画期的な意義をもたらした。
 しかし,地方自治は,「三割自治」の言葉に象徴されるように,強力なる中央集権の下,きわめて不十分にしか発達しなかった。その様な状況の下で権限と役割を強めた首長に対して,議会の権限と住民の権利は,相対的にむしろ弱められていた。それは,機関委任事務を廃止し国と地方自治体との対等化をめざした昨年4月施行の地方分権一括法でも基本的には変わることはなかった。
 上記状況の下でも,住民意識の確立とそれに基づく議会改革への流れはおしとどめられることなく,さらに「自分のことは自分で決める」住民投票も各地で行われるなど,新しい地方自治・地方分権の時代,21世紀を迎えている。

 そこで,地方自治の前進のために,その中心である住民自治の確立にむけて,その核となる「議会の創造的発展」と「住民投票の制度化」をめざし以下のとおり提言する。

1. 21世紀の地方自治の前進にむけて,「地方自治の本旨」である住民自治の発展のためには,地域社会における住民の自己決定権の尊重と,住民の自己責任を基本に考えるべきである。
2. この観点からいえば,昨年4月施行された地方分権一括法(地方自治法等の改正)で制定が見送られた財政自主権の確立=税財源の権限委譲等々も含め,現行地方自治法及び関連諸法令を抜本的に改正すべきである。
3. 議会の改革と住民投票の発展をめざしての共通の前提として,地方に関する権限の国から地方自治体への委譲と自治体自らの情報公開が進められるべきである。
4. 議会の創造的発展にむけて,条例の議決案件の拡大,夜間,土日議会の積極的開催,議会事務局の自立性の確保と充実,議長への議会招集権の付与等を求めるべきである。
5. 住民投票の制度化の実現のために,各地の自治体において,諮問型住民投票の一般条例の制定と実施を進め,さらには法的拘束力のある住民投票が可能となる法的整備を開始すべきである。

 我々弁護士と弁護士会は,主権者である国民として,地方自治体の主役である住民として,住民自治の前進のため,地方議会の創造的発展と住民参加の充実と住民投票の制度化の実現をめざして,それぞれの見識と自覚に基づき奮闘することを誓うものである。
 以上のとおり宣言する。
2001(平成13)年9月28日
関東弁護士会連合会

提案理由

1. 日本国憲法は,我が国において初めて地方自治を基本的制度として制定した。「地方自治の本旨」であり,それは団体自治と住民自治であり,別の言葉で言えば地方自治体の自己決定と自己責任の原則である。
 また憲法は,住民自治の基本原則に立脚しつつ,我が国の歴史と伝統を加味して,都道府県と市町村制の二層制を採用し,旧内務省勢力などの抵抗を排除して首長の公選制を実現し,同じく直接選挙で選ばれる議員,議会と共に二元制を採用した。これらは,普通選挙制を基礎に,我が国の地方自治と民主主義の実現に画期的な役割を果すはずであった。
2. しかし,憲法と同時に施行された地方自治法は,準備期間が不足していたこと,地方自治に対する国民や政党などの理解の不足もあり,当初から極めて不十分であった。さらにその後の大きな国際情勢の変化と共に,また中央集権体制の強化拡大にともない,地方自治は後退させられ,財政,人事を支配され,機関委任事務により首長自身が国の機関として多くの事務を下請けさせられ,地方自治は「三割自治」と称される事態が長く続いた。その中でも,権限を相対的に強化された首長は,前述の大きな中央政府の力をバックにして,議会や住民に対し強い立場を有し,役割を果たしてきた。
 一方,議会は権限も弱く,また法律上も戦前からの規制等が引き継がれ,期待された役割からはるかに遠かったといわざるをえない。議員自体も地方自治の意義を良く理解せず,首長の応援団的役割に甘んじてきた者や,一部の団体の利益のために活動してきた者が多かったといわざるをえない。
 昨年施行された地方分権一括法は,機関委任事務の廃止という画期的な改革を行い,国と自治体の対等化をめざしたものであるが,中央からの改革の色彩が強いことも反映して,自主財政権−税財源の委譲の先送りや,上からの強い力による合併問題等々,機関委任事務が「法定受託事務」と名称の変更だけに過ぎなくなる恐れ等々の問題点が多いといわざるをえない。分権推進論議と改正法の中で議会の改革のための検討などがほとんど行われなかったことも合わせて見ておかなければならない。
 他方,地方自治の主役である住民は,くらしを守り自治を前進させるため,情報公開,議会の改革,住民投票,選挙等々努力を積み重ねてきた。多くの住民が「自分のことは自分で決める」自治の意識を確立しつつ,21世紀を迎えた。
3. 地方自治の創造的発展のために
(1) 地方自治の前進のために,情報公開の一層の前進,権限委譲・権限の回復もまた不可欠である。  情報公開は,情報公開条例の普及及び情報公開法の施行,オンブズマン等の活躍によって,相当前進しているが一層の充実発展が望まれるところである。
 国から地方へ,法律から条例へ,権限の委譲は分権・自治を前進させるために欠かすことができない。現状では「仏作って魂入れず」といわざるを得ない。
(2) 議会の条例制定権と監視機能という本来の役割を発揮できるようにするために,議会の自主性,自立性を損ない権限を奪っている現行の地方自治法の大幅改正が必要である。
 そして,この大幅改正は,兼職の禁止の解除(国家・地方公務員法等),また選挙権の規定や選挙運動の不当な制限の撤廃等(公職選挙法)の改正をも伴うものとなろう。
4. 議会の創造的発展にむけて−具体的提言
(1) 第一に,地方自治法を改正しなくてもできることで,先進的な議会が取り組み実績を上げつつある事項について提言する。
@ 条例の議決案件を拡大すること
 地方自治法96条2項は条例による議決事件の拡大を認めているので一層の拡大を図ることができる。これを活用すべきである。
A 議会の夜間,土日開催を積極的にすすめること
 幅広い人材が議会に進出できるように,昼間働いている人でも出席できる夜間,土日の議会開催は有効である。また住民の傍聴にも有効である。
B議会事務局の自立性を高め充実させること
 議会のために調査研究できる事務局の体制人数の確保,首長部局からの自立等議会事務局の充実は不可欠である。
(2) 第二に,地方自治法の改正を要する事項につき提言する。
@ 議員定数の上限規制(90,91条)を撤廃すること
 上限も含め議員定数は,各自治体の判断で決めるべき事項であろう。
A 議決事件につき,政令(96条)でなく,「条例で定める基準」によることとすること
 「何が重要か」は全国一律ではなく,各地域の実情によって異なり各地方自治体が,自ら決定してしかるべきものであろう。
B議会の招集権を,首長(110条)から議長に移すこと
 議会は首長を頂点とする執行機関を監視する権限を有しており,自分の権限で議会を招集できないというのは不合理である。
5. 議会と住民投票(住民参加の拡大とともに)
 議会が改革活性化し,住民の代表として執行機関に対する監視機能や立法機能につき本来の期待される役割を発揮するようになると,住民と議会が対立するというパターンの住民投票は減少するであろう。しかし,それでも,議員を選出する選挙がその時の大きな争点が鮮明であったとしても,必ずしも一つの争点で投票せず,さまざまなファクターを考慮して選挙が行われることが通例であろう。
 したがって選挙の時の争点として浮かび上がっていなかったテーマや,選挙の後に浮上した新たな争点などについては,やはり住民投票によって,住民の意思を決定すべきときが要請されることも多くあるであろう。
 住民と議会の関係だけでなく,対首長,対国,対大企業等々の関係であるいは議会と協同して住民投票が要請されることもあろう。それらをも考慮すると,住民投票の必要性は高まることはあっても低まることはないと考えられる。
 もちろん,それは住民投票に至るまでに,住民参加の制度が十分整備されその機能を発揮することと合わせて,必要にして十分なる情報公開が実施されていることが前提であることもまた論を待たない。
 しかし,住民投票も万能ではなくまた乱発すべきものでもない。住民投票は,住民自治の最強力かつ直接的な発動として位置づけられるものであろう。
 議会の改革充実発展と住民参加,住民投票制度は住民自治の車の両輪として,地方自治の前進に寄与できるし,寄与しなければならない。
6. 住民投票の制度化にむけての提言
(1)住民投票を以下のように制度化すべきである。
@ 住民投票を,まず諮問型住民投票として一般条例化し,各地方自治体ですすめること
A 実施要件としては,住民が一定数の署名を集めて住民投票を要求した時には,議会の議決等を要せず,当然に,住民投票が実施されることとすること
B投票の対象事項は,その自治体に関連する事項であれば,限定すべきでないこと
C首長,議会は,住民投票の結果につき,高度の尊重義務を有することとすること
D他方,諮問型住民投票の普及とともに,当該地方自治体に決定権限がある事項について,首長・議会に対する法的拘束力がある住民投票が可能となるよう,地方自治法ないし住民投票法の制定によって,法律的な制度の基礎付けを行うこと
(2)住民投票の実際の制度化は,現在進展中の我が国の住民投票の実際に立脚すること,そして,地方自治制度全体の中で位置付け,合わせて現実の政治情勢をも正しく見据えた上で,進めることが必要であろう。
 そこからでてくる基本方向の一つは,住民投票の考え方の整理である。
 住民投票を,「一定の事項について,住民の賛否その他の意見を決するための住民による投票」とする。そして「法的拘束力を有する」住民投票と「法的拘束力を持たない」住民投票(諮問型)に区分する。
 二つの住民投票を統一した制度化と発展が望ましいが,我が国の住民投票の実際から,各地方自治体において,法的拘束力こそもたないが,極めて重大な政治的・道義的な力(もちろんそれは,住民投票の厳正な結果によるが)を発揮する諮問型住民投票の一般条例を制定して,自治体の住民の意思により住民投票をより適切に実施することを提言したい。その住民投票条例においては,実施要件等の具体的事項は,当然のことながら各自治体においてその規模等の実体に合わせて弾力的に決定すべきである。
 法的拘束力を有する住民投票については,諮問型住民投票の普及とともに,より住民自治が成熟してゆく過程の中で,議会の権限の拡大・活性化,地域に関する事項についての自治体への権限の委譲,住民の同意を要件とするための開発関係法令の改正等々の進展と相まって,住民投票の権利を法律で根拠づける地方自治法の改正ないし住民投票法を制定すべきである。それはあくまでも「住民投票規制法」であってはならない。
 もちろん,これらは,住民自治と住民投票制度の充実と前進を望む力とそれに抵抗する力のせめぎあいの中から生まれ,前進してゆくものであろうこともまた間違いないところであろう。
7. 地方自治前進への弁護士と弁護士会の役割,決意
 地方自治,地方分権の時代である21世紀の住民自治の前進にむけて,特に住民自治の飛躍的な前進強化が求められる。そして今,弁護士と弁護士会は司法改革の真っ只中にある。市民のための大きな司法,法曹人口の増大,特に弁護士の飛躍的増加が見込まれる。「0−1」地域等過疎地への弁護士や弁護士事務所の設置等を推進して,弁護士は,全国津々浦々で,法律専門家として活躍することが期待されるわけであるが,同時に弁護士はすべて例外なく地方自治体=市区町村の住民でもある。
 会員弁護士一人一人が,地方自治の主役である住民であることを再確認する必要があるだろう。そして「良き法律家は悪しき隣人」であってはならず,「良き隣人」であり,「頼みになる隣人=住民」であることが期待されるだろう。
 我々弁護士と弁護士会は,以上を深く認識し,主権者である国民として,自治体の主役である住民として,地方自治の前進,住民自治の発展,議会の創造的発展,住民参加と住民投票制度の実現をめざし奮闘することが要請されている。
 我々は,この時代と住民の要請に応えるべく奮闘を決意するものである。
 以上のとおり提案する。