平成16年度 決議

「食の安全を考える」我々の決議

 食は,全ての人間が生存を維持し,健康な生活を営むために不可欠な条件であり,我々が安全な食品を摂取することは,人として当然有する権利というべきものである。そこで我々関東弁護士会連合会は,全ての人々に,食品についての消費者として次のような権利があることを確立させ,国及び地方自治体に働きかけ,その具体的な実現を求める。
@ 安全な食品の供給を受ける権利
A 食品の安全に関する情報を取得する権利
B 食品行政に参加する権利
 そして,当面の具体的課題として,消費者が安全な食品を選択できるようにするために,現行の食品の表示制度の問題点を検討してその改善を目指すと共に,行政に対する働きかけを可能にするための具体的な措置請求権の確立を求める。
 また,我々消費者が無自覚に便利さ等を求めるあまり,逆に食の安全を脅かしている現実もあることから,我々消費者自身が,自らの消費行動の見直しを図り,責任ある消費者になることを提言する。
 以上のとおり決議する。
2004(平成16)年9月25日
関東弁護士会連合会

提案理由

1.  日本の食卓・スーパー・食堂には世界中から輸入された溢れんばかりの食料が並べられ,季節を問わず,好きなものを,何時でも食べることができる。しかし,その食品が安全であるという保障はない。中国産のほうれんそうから残留農薬が検出されたこともあったし,アメリカで発生したBSE(牛海綿状脳症)問題のために,アメリカからの牛肉の輸入がストップし,牛丼が店頭から消えるという現象も起こっている。一方で,安全性に疑問がある遺伝子組換え食品が輸入され,国内基準より緩やかな農薬基準による食品の輸入も認められている。
2.  このように,我が国の食料事情は,海外の事情に大きく影響を受けている。その原因として,日本の食糧自給率40%という現実が大きく作用している。日本の食糧自給率は主要先進国中最低である。
  もともと日本が食品輸入大国となった原因は,戦後日本がアメリカの余剰生産物の消費国に位置付けられたことに由来し,外国麦への依存体質を備え始めたことがきっかけと言われている。その流れは,経済力を回復した後も工業化と効率化の流れとなって日本の食糧輸入率を増加させてきた。そればかりか,日本はアメリカの余剰農産物を円で購入して海外援助するようになった(ODA)。援助は食糧供給に留まらず,食糧増産援助と称して化学肥料・農薬・農業機械などの無償供給に及ぶ。こうして,急速な工業化は食糧事情を一層効率化させ,世界各国で買い上げられる食糧が日本へ輸入されることとなった。
  他方,ガット・ウルグアイ・ラウンド合意(1993年12月14日)により,日本は最低輸入義務を負うこととなった。そして,このミニマムアクセス(最低輸入義務量)を実現するべく,従前の日本の基準では一切認めていなかった抗生物質や合成抗菌剤の食肉への残留を規準付で許容したり,農薬の残留基準を現行の103品目から200品目を目標に拡大したり,天然添加物の指定制度を設けてまで輸入するようになった。
  現在は,WTO体制の下,食品貿易についても国際規格(コーデックス規格)が定められているが,そこで定められる基準が我が国の従前の基準より緩やかな場合も出てきている。
3.  海外からの食料及び食材の輸入によって,我々は,毎日様々な食品を簡単に手に入れられるようになった。季節を問わず世界中の食材を入手できるという面では,我々の食生活はたしかに豊かになった。しかし,残留農薬や添加物,さらには原材料自体についての安全性にも疑問が出ており,我々消費者には,毎日口にする食品が,どこで,どのようにして生産されたのか,どんな農薬をどれくらい使用されたのか,加工食品なら,どんな原材料を使っているのか,添加物は使用されているのか,など,できるだけ正確でわかりやすい情報が必要となっている。
 しかし,現行の表示制度では,我々が欲しい情報を満たしていないばかりか,表示の意味が分かりにくいという問題もある。現行では,統一した表示制度を規定する法律はなく,農林水産省が所管するJAS法,厚生労働省が所管する食品衛生法,公正取引委員会が所管する景品表示法といった具合に,いわゆる縦割り行政の弊害があるのである。
4.  平成15年5月23日,国はBSE問題を機に食品安全基本法を制定した。しかし同法は,制定過程において消費者団体などから要望のあった「消費者の権利の明文化」がなされておらず,同法に基づいて設立された食品安全委員会も,食品の安全性を確保するためのチェック機能が十分に働く組織となっているかには疑問がある。
 食は,全ての人間が生存を維持し,健康な生活を営むために不可欠な条件であり,我々が安全な食品を摂取することは,人として当然有する権利というべきものである。この安全な食品の供給を受ける権利は,食品が安全か否かを判断する前提として,当然に,食品の安全に関する情報を取得する権利を含むものと考えられるが,さらに,現在,食品の生産・流通・輸入が行政の様々な規制のもとにあることを考えれば,食品行政をチェックし,食品行政に関与する権利をも含むものと捉えることが必要である。我々は,まず,このような食に関する消費者の権利の確立のために,我々自身が消費者としてその権利主体であることを認識すると共に,こうした権利が行政において具体的に実現されるよう求める。
5.  我々は,食品に関する権利の具体化として,まず,消費者が,安全な食品か否かを判断し,安心して摂取できるようにするための表示制度を目指し,現行の食品の表示制度の問題点を検討し,その改善のための提言をする。
 また,我々が食品の安全性をチェックし,それを食品行政に反映させるために,行政庁に対して具体的な措置を義務づける制度(措置請求権)の確立を目指す。この制度は,食品安全基本法には採用されなかったが,他の法律,たとえば「消費生活用製品安全法」や「家庭用用品品質表示法」には認められているもので,食品行政において同様の制度がとれない理由はない。
 さらに,食品行政は,国のみならず地方自治体においても取り組まれるべきものであり,全国の地方自治体が,食品の安全確保のための条例を制定して自治体レベルでも可能な食品行政に積極的に取り組むよう提言する。
 また,食の安全の問題は,行政に対する法規制を求めるだけで解決するものではなく,我々自身の食生活に対する意識・消費行動が変わらなければ,真の解決にならないことも自覚する必要がある。消費者が,いつでもどこでも好きなものを好きなだけ,しかもできる限り安く食べることを求め続け,供給側が市場原理のもとで食の大量生産を行ってきた結果が,現在の食の危機なのである。家畜は病み,圃場は汚染されている。自給率4割の日本人は,食料の約3割を食べずに捨てている。このようなことがいつまでも許されるはずがない。我々の後の世代のためにも,我々消費者は,これまでの消費生活を総点検し,責任感を持った消費行動を取ることを心がける必要があろう。
 そこで,我々関東弁護士会連合会は,国や自治体に,消費者の権利の確立とその実現を求めていくだけではなく,我々消費者自身が自覚と責任をもった消費行動をとるべきことを提言するものである。
  以上