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平成19年度 | ![]() |
宣言 |
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市民に開かれた家庭裁判所をめざして 家庭裁判所は、1949年、家事審判所と少年審判所を統合して創設された。家庭裁判所は、家裁調査官制度、家事調停制度などによって専門性と市民性を備え、また、司法でありながら福祉・教育的機能を併せ持っている。 家庭裁判所は、個人の尊厳と両性の平等を原則とする家族法の基本理念を戦後の日本に定着させ、また、少年司法を通じて少年の健全な育成に大きな役割を果たしてきた。 戦後60年が経過し、家族の在り方も大きく変わり、家族法と現実の家族関係との間に幾つかの矛盾が現れており、そのことが新しい家族関係の形成を困難にしている事例さえみられる。年間30万件余に至った離婚のうち、家庭裁判所に持ち込まれる割合は、僅か10%程度にとどまっており、その裏には、離婚しても養育費さえ支払われない様な深刻な現実が広がっている。内縁関係の増加、夫婦の別姓など多様化する家族の法的保護の問題、DV法、児童虐待防止法、高齢者虐待防止法など、家庭内の人権問題など新しくて重要な課題が生れてきた。また、現代社会を反映した少年非行の発生の中、少年司法の在り方にも市民の目が向けられている。 関東弁護士会連合会は、家族法の基本理念が市民の隅々まで定着するとともに、多様化する家族の在り方を見据えた家族法とその運用を求め、また、少年の健全な育成を目的とする少年司法の理念が広く市民に理解され健やかな子どもたちの成長がはかられることを願って次のとおり宣言する。
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2007年(平成19年) 9月21日 関東弁護士会連合会 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
法制審議会1996年策定「民法の一部を改正する法律案要綱」の概要
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提案理由 1 市民に開かれた家庭裁判所をめざして 私たちは「市民に開かれた家庭裁判所をめざして」というテーマで、シンポジウムの準備を重ね、このテーマに次のような意味づけをしてきた。 第1に、市民にとって身近で利用し易い家庭裁判所 第2に、市民の声が届き、その声が運営に反映される家庭裁判所 第3に、「個人の尊厳と両性の平等」「少年の健全な育成」という本来の目的が、複雑化した現代社会の中で発展的に貫かれる家庭裁判所 2 戦前の家族制度は「家制度」と「男性上位」の上に成り立っていた。日本国憲法第24条は、個人の尊厳と両性の本質的平等を規定し、これを受け家族法制が根本的に改正された。 戦後地方裁判所の支部として設置された家事審判所と旧少年法下の行政機関であった少年審判所は、1949年(昭和24年)1月1日に統合され、家庭裁判所として新たに創設された。 以来、家庭裁判所は「個人の尊厳と両性の本質的平等を基本として、家庭の平和と健全な親族共同生活の維持」(家事審判法第1条)と「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」こと(少年法第1条)等を目的とし、家庭をめぐる法律的な問題を総合的に扱う機関として出発した。 家庭裁判所は、司法でありながらも福祉・教育的な役割も担っており、また市民の家庭生活に直接関わる機関である。家裁調査官制度や医師の配置、膨大な数の家裁調停委員によって支えられてきた調停制度、そして参与員制度などは、これら家庭裁判所の目的実現に大きな役割を果たしてきた。 3 戦後の家族法制の根本的な改正、その後の都市化、核家族化の流れの中、家族の在り方は大きく変化してきた。 この間、個人の尊厳と両性の本質的平等の理念は、市民の家族生活に着実に定着してきたし、これを司法の面から支えてきた家庭裁判所の役割もまた大きいものがあった。 このようにして、家族法及び家庭裁判所は、戦後の日本の家族のありように全体として積極的な役割を果たしてきた。しかしながら、現実の家族のあり方は、家族法改正時の予想を超えて大きく変わりつつあり、成文法と現実の家族の在り方との矛盾が徐々に拡大している。 4 成文法・司法と現実の家族の在り方との矛盾は以下のとおり指摘することが出来る。
5 民法の一部を改正する法律案要綱に基づく立法化について
6 即決調停・即決和解制度について
7 近年、わが国における外国人登録者数の増加とともに、外国人が家庭裁判所を利用する機会やそのニーズも確実に増大している。 しかしながら、弁護士と調停委員に対するアンケートの結果、外国人が家庭裁判所を利用するにあたり、通訳の手配ができず十分な意思疎通ができない、文化、宗教、慣習上の違いを調停委員が理解してくれない、家庭裁判所に対するアクセス方法がわからない、調停手続などの意味やその効果がわからないなどの不満や問題点が多く存在することが明らかとなった。 日本国憲法は、公正な裁判手続を利用できる権利を外国人にも日本人と等しく保障していることからすると、家庭裁判所は、外国人が家庭裁判所を利用するにあたっての上記障壁を取り除き、外国人にとって利用しやすい家庭裁判所とするため、計画的かつ継続的に取り組んでいくことが必要である。 8 これまで弁護士会が調停委員として推薦した韓国籍の弁護士につき、家庭裁判所は就任を拒否してきた(2003年神戸家庭裁判所、2006年仙台家庭裁判所)。調停委員のみならず、司法に関わる職種については弁護士を除き、事実上外国籍を除外しているのが実情である。これは、1953年の内閣法制局がいう「当然の法理」(公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とするとの見解)によっているとされる。 調停委員は、「専門的知識経験を有する者」「人格的識見の高い」者が任命され、その役割は当事者間の合意形成であり、仮に「当然の法理」を前提としても、調停委員の職務を公権力の行使であると解するのは無理がある。なお、破産管財人への外国人の就任は認められており、そのことと比較しても調停委員への就任拒否は不合理である。司法修習生として修習し、弁護士登録をして、長年にわたり司法に関わってきた人材につき、日本国籍を取得していないという理由のみで調停委員への任用を拒否することは、実質的に見ても著しく不合理な対応である。 9 国際社会においては、男女差別を解消し女性の地位向上のための様々な取り組みがなされ、わが国においても1999年に男女共同参画社会基本法が制定、施行されてから、憲法の保障する両性の平等を実質的に実現するため、社会のあらゆる場面における男女差別の解消及び男女共同参画社会の実現に向けた取り組みが行われている。 しかしながら、ジェンダー・バイアスは、無意識的に社会の伝統や慣習として自然に形成されてきたものであるため、個人によりその認識レベルの差は非常に大きく、ジェンダー問題に対する誤解や偏見も多く生じているのが現状である。このことは、調停委員に対するアンケート結果からも顕著であり、本来、人権救済の最後の砦たるべき司法手続において、ジェンダー・バイアスによる被害が生じているという現状は看過できる問題ではない。 弁護士会としての男女共同参画社会実現に向けた取り組みも決して十分なものとはいえない。弁護士会は、継続して会内部及び司法手続におけるジェンダー・バイアスの除去に向けた取り組みを行うべきであり、弁護士一人一人が、自らの意識や職務遂行過程に潜むジェンダー・バイアスの危険性を認識し、司法に携わる者としての責任を自覚して行動していくことが重要である。 家庭裁判所に対しては、調停委員の選任過程及び継続的な教育研修の場において、司法手続におけるジェンダー・バイアスの除去に向けた取り組みを行うことを求めるものである。 10 近年家裁で扱われる家事事件数は大幅に増加している(家事審判1989年25万件、2004年53万件、家事調停1989年8万5000件、2004年13万3000件、人事訴訟1989年6500件、2004年1万1000件、成年後見2004年2万件)。しかしながら、調停離婚、裁判離婚は全体の10%に過ぎない。家庭裁判所に対する潜在的需要は、はるかに多いが、家庭裁判所が市民にとってまだまだ遠い存在であり、家庭裁判所に出頭して解決すること自体にいまだ抵抗感がある。また、市民にとって家事調停、人事訴訟が面倒で複雑な手続なのである。 このような状況を踏まえ、家庭裁判所に対する市民の信頼を高め、利用を増加させるためには、少なくとも以下の対応が必要である。
11 家庭裁判所委員会は、家庭裁判所内に設置された委員会ではあるが、広く市民の声を反映させるという司法改革の理念に基づいた組織である。家庭裁判所委員会が所期の目的に向かって発展するためには、家庭裁判所はもとより関係者の粘り強い努力が必要である。また、広く市民と手を携えて交流していく中で、家庭裁判所を支えていくことが大切である。 弁護士会は司法の一翼を担うだけでなく、家庭裁判所調停委員などを多く派遣し活動しており、家庭裁判所の目的実現のための活動に協力し、改革の理念実現のため,その責任を果たしていくものである。 12 被害者等にも配慮した付添人活動の実施
13 関係機関と協力連携し保護主義・福祉主義に立脚した付添人活動の実施 非行を犯した少年が立ち直り、健全に成長発達していくためには、少年の保護者、教師、雇い主など少年を取り巻く人的環境を調整し、社会資源を開拓することが必要である。 そのために、付添人は、保護者等に接触して十分に協議し、働きかけ、少年と保護者等との関係調整的活動を行っていかなければならない。 また、ケースワーク的機能を持つ少年審判において、少年の要保護性を的確に把握し、かつ、その解消を図るためには、心理学、教育学、社会学などの専門的な知識に基づく調査が必要であるし、立場の異なった者の多角的な視点も必要である。さらに、例えば、近時取り上げられている発達障害を少年が抱えている場合などでは、発達障害と非行が直接結びつくものではないものの、付添人活動の上では、弁護士だけでは不十分で、児童精神科医などの専門家の協力が不可欠なケースもあると思われる。 このような少年の要保護性解消のための関係調整的活動の必要性は、原則逆送対象事件といった重大事件でも異なるところはない。2000年改正少年法施行後の原則逆送対象事件の逆送率は、施行前に比べ大幅に増加しているが、付添人としては、逆送決定後の地裁における刑事裁判で少年法第55条による家裁への移送が認められた事案等も踏まえつつ、家裁に対し少年の資質や環境に関する十分な調査を求めるとともに、自らも少年の更生の可能性を信じ、関係者と協力連携した付添人活動により、安易な逆送決定がなされないよう努めるべきである。 また、2007年少年法等改正により、少年院送致可能年齢の下限が従前の14歳以上から「おおむね12歳以上」に引き下げられた。しかし、例えば小学生を閉鎖的施設である少年院に収容する必要性を裏付ける立法事実は乏しいというべきであり、付添人としては、14歳未満の触法少年について、今後とも開放的施設である児童自立支援施設における「疑似家族」モデルによる福祉的処遇が有効であることを家裁に訴えていく必要がある。 14 当番付添人制度の全国的実施と国選付添人制度の拡充 少年に対して適正手続を保障するためには、弁護士付添人の選任が不可欠である。しかしながら、長年にわたり、弁護士付添人の選任率は低調を極め、1992年までは1%にも満たないという状況であった。 このような状況下、日弁連は、1998年全国会員による特別会費を財源とした付添人扶助制度を発足させた。福岡県弁護士会は、2001年に、それまでの扶助的付添いを一歩進め、少年身柄事件全件付添活動を開始した。現在では、全件付添いに踏み切った東京三弁護士会を含め、ほとんどの弁護士会が何らかの形で当番付添人制度を導入している。関弁連管内では、近く実施予定の静岡、茨城を含めると全弁護士会が当番付添人制度を実施することとなる。 弁護士会の粘り強い取り組みによって弁護士付添人は急速に増加しており、2006年には観護措置決定を受けた少年事件(14124件)のうち弁護士付添人が選任されたのは3744件(選任率は26.5%)となっている。それでも、成人の刑事事件における弁護人選任率が90%を優に超えるものであることからすれば、まだまだ不十分な状態と言わざるを得ない。また少年の権利である付添人活動が全国の弁護士の拠出金と採算さえ度外視した弁護士の尽力によって支えられていること自体は、弁護士の職責に関連する貴重な活動といえるが、少年付添いはあくまで国によって保障されるべき権利であり、速やかな改善が求められる。また、2007年の少年法改正により、国選付添人制度が拡充されたが、その範囲は、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪又は死刑、無期若しくは短期2年以上の懲役・禁固にあたる罪の事件において、鑑別所送致の観護措置決定がされた場合で、かつ、裁判官が必要と認めたときと、極めて限定されたものにすぎない。2005年において、短期2年以上の懲役・禁固にあたる罪の少年保護事件は、1113人であり、観護措置決定を受けた少年1万5476人のわずか7.1%にすぎない。 さらに、2009年には、被疑者国選弁護制度の対象事件が、いわゆる必要的弁護事件にまで拡大されるが、そうなると、被疑者段階では国選弁護人が選任されていた少年の大半が、家庭裁判所送致後は弁護士の援助を受けられないという事態に陥ることになる。少年事件における適正手続を保障する意味でも、このような事態は何としても避けなければならない。 このような状況を打破し、少年の付添人選任権を実質的に保障するために、弁護士及び弁護士会は、今後、当番付添人制度の全国的実施の実現に努めるとともに、国選付添人制度の対象範囲を拡充する法改正が早急にされるよう粘り強く働きかけていく必要がある。 以上
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