第1 総論 |
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現状
現代社会において,ケータイはなくてはならないものとして普及し,大人にとっても子どもにとっても社会生活を営む際のツールとして重要な位置を占めつつある。
日本においては携帯電話は電話機能だけではなく,インターネット機能が付加されることによってインターネットに接続してメールを送信したり,ホームページを閲覧したりすることができる機械(このような電話機能のみに限定されない機械であることを示すため,本宣言においては「ケータイ」という用語を用いる。)として,普及している。
人々は,ケータイのインターネット機能を含む様々なサービスを利用することによって,簡易簡便に有益な情報を受発信したり,ネット上で世界中と双方向的コミュニケーションを行うことが可能となっている。
このケータイの普及は,大人社会のみならず子どもにまで及んでおり,文部科学省が平成21年5月に発表した「子どもの携帯電話の利用に関する調査結果」では,ケータイを所有している子どもが,小学6年生で24.7パーセント,中学2年生で45.9パーセント,高校2年生で95.9パーセントに及んでいるが,この数字も年々増化傾向にあって,ケータイの普及は加速的に進んでいるといえる。
このようにケータイが広く普及する中で,子どものケータイ利用に関しては,「ネットいじめ」等の人権侵害行為,安易に自分の個人情報をインターネット上に流すことによって生じるトラブル,違法・有害なサイト利用によるトラブルや子どもの成長過程に好ましくない情報が安易に得られる弊害,ケータイ依存による健康被害や生活習慣を乱す弊害が指摘され,深刻な問題が生じていることも否めないことから,子どものケータイ所持を全面的に禁止すべきであるとの声が存在する。
しかし,現代社会におけるインターネットは,必要な情報を迅速,かつ容易に収集する手段として欠くべからざるものとなっており,子どもは,ケータイを通じてインターネットを利用し,必要な情報を収集するとともに,ケータイを新たなコミュニケーションツールとし,自己表現の手段として利用しているのであるから,このような子どもによるケータイの利用は,子どもの意見表明権,表現の自由の権利として認められるべきである。
また,ケータイが子どもを含めた社会における新たなコミュニュケーション手段として重要な位置を占めており,将来に向けての子どもの成長発達に重要な役割を果たしていることも考慮するべきである。
従って,子どもがケータイを利用することについて,前記のような問題が生じていることを真摯に受け止めながらも子どものケータイ所持を一律に禁止すべきではない。 |
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ケータイ利用の現状 |
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子どものケータイ利用
子どもの多くは,ケータイを新たなコミュニケーションツールとして用いている。
すなわち,親との連絡など家族内での連絡手段として用いる他,学校や塾等で知り合った友人との間で,家に帰った後や外出先で交流する際に利用している。
また,子どもは,インターネットで知り合った人と連絡を取り合うなど,交友関係を広げることにも利用しており,電話機能よりもむしろメール,掲示板,ブログ等インターネット機能を主として用いていることが多く,ゲーム機能やカメラ機能,ミュージックプレーヤー機能など多機能を使っている子どもも少なくない。 |
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親が子どもにケータイを持たせる理由
親が子どもにケータイを持たせる理由は,子どもと親との連絡をいつでもとれるようにすることによって,子どもの安全や子どもが犯罪に巻き込まれることを未然に防ぐことにある。 |
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問題点
他方で,子どものケータイ利用に関しては,いくつかの問題が生じている。
例えば, |
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ウェブ掲示板へ脅迫・名誉毀損になるような事実を書き込む方法による「ネットいじめ」等の人権侵害行為。 |
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A |
安易に自らの個人情報を流通させることによって生じるトラブル。 |
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B |
出会い系サイト,アダルトサイトなど,子どもの育成に有害な情報を含むサイトにアクセスした子どもが犯罪や事件に巻き込まれるという,違法・有害なサイトの利用によるトラブル。 |
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C |
ケータイを長時間利用するなど,ケータイ依存による,健康被害。 |
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等の問題である。
大人が子どもの直面している現状を具体的に把握できていないことなどから事態が深刻化するケースもあり,早急な対策が必要となる。
しかし,多くの子どもは,適切かつ安全にケータイを使用しているのが現状であり,これらの問題点を過大視すべきではない。 |
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基本となる視点
現代社会において,ケータイは,子どもにとって,表現の自由,意見表明権,知る権利,自己決定権,成長発達権の実現として重要な道具となっており,ケータイによるコミュニケーションは,交友関係を保ち,また世界的視野を広げるためにも,重要な地位を占めつつある。
子どものケータイ所持を禁止し,安易に子どもからケータイを取り上げることは,子どもから,多様な情報を知る権利,インターネット上で自己表現する表現の自由,子どもの意見表明権,多種多様な情報が氾濫するネットワーク社会において自らの意思に基づいて情報を取捨選択する自己決定権,そしてそういった経験により成長発達する権利をも奪うおそれがある。
子どもは,ケータイによって他人とのつながりを求め,現代社会において希薄になりがちな人間関係を補完し,自らの居場所を見つける手段としてケータイを使っていることを考えると,子どもからケータイを取り上げるだけでは,このような子どもの心の問題を根本的に解決することはできない。
加えて,IT立国を目指す日本において,ケータイの正しい利用方法を学ばせることはIT教育の一環ともいえ,日本の未来に好影響を与えることも考えられる。
このようなことから,子どもはケータイによるコミュニケーションを適切かつ安全に使いこなす能力を身につける必要があり,また,子どもは,そのような能力を身につけることができるのであるから,そのための機会を十分に与えられるべきである。
現実的に考えても,例えば子どもにケータイを持たせないというような規制を行ったとしても,大人になった子どもは,そのほとんどがケータイを持つことになるのであって,そうであれば,一律に子どものケータイ所持を禁止し,子どもからケータイを取り上げるのではなく,思春期・成長期の段階からきちんとケータイと向き合った教育をすることが必要であるし,望ましいことである。
ケータイの正しい利用方法は,ケータイを日常的に利用することによって身につけることができるのであって,ケータイを子どもから取り上げた場合,子どもは,インターネット上の情報の受発信を正しく認識することを学ぶ機会を失い,かえってインターネットの有害性にさらされ,事件やトラブルに巻き込まれる危険がある。 |
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問題解決の方向性
従って,前記3において指摘した問題点を子どものケータイ所持を禁止し,子どもからケータイを取り上げる方向での規制によって解決しようとすることは,問題の根本的な解決方法とはいえない。
ケータイの所持・使用方法等については,基本的には家庭内で子どもと保護者が話し合って決定することが望ましい。また,学校教育によって,ケータイの適正かつ安全な利用方法と,関わり合い方を教育すべきであり,行政は,このサポートをすべきである。さらに,事業者も社会的責任を果たす必要があり,弁護士および弁護士会,その他関係各機関もこの課題に積極的に取り組むべきである。
以下,詳述する。 |
第2 規制の是非 |
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ケータイ所持禁止論について
子ども(特に小中学生)のケータイ所持禁止という規制は,子どもの安全や子どもが犯罪に巻き込まれることを防止する一つの手段として有効であるとの考え方もある。
そして,平成21年5月に政府の「教育再生懇談会」が小中学生には必要のない限り,原則としてケータイを持たせないという努力義務を課すという提言をしたように,有識者の中には,子どものケータイ所持禁止を提言する者もいる。また一部の地方公共団体では,子どものケータイ所持禁止のルール作りをするような動きがあり,さらには石川県のように,これを条例化した自治体もある(平成22年1月施行予定)。
しかし,憲法ないし子どもの権利条約では,表現の自由,意見表明権,自己決定権,成長発達権などが認められており,子どもに対してでも,これらの人権を安易に制限することは許されないから,一部の地方公共団体に見られるようなルール作りや石川県のような条例制定による規制は妥当とはいえない。
子どもは,ケータイを使って新たなコミュニケーションを行って居場所を見つけているのであるから,子どもの居場所を提供するなど,子どもが求めていることを実現する方策を講じないまま,子どものケータイ所持を禁止し,子どもから一方的にケータイを取り上げるような規制は,妥当とはいえない。
子どもの大多数は,近い将来ケータイを使うことは必定であるから,ケータイを使いこなすためには,小さい頃から慣れ親しむことが必要であり,ケータイの所持・使用が高校生から解禁された場合には,使い初めに適切かつ安全な利用方法が分からずに,不適切な利用が増えることも考えられる。
このような事情に照らすと,「教育再生懇談会」の,小中学生には一律にケータイを持たせず,高校生になってから所持禁止を解禁するとの提言は,必ずしも妥当とはいえない。
また,ケータイは,高校生以下の子どもの間にも,既に広く普及しており,現段階で,これらの子どもからケータイを取り上げることは現実的に無理がある。
従って,法律および条例等形式の如何を問わず,一律的な子どものケータイ所持禁止といった法規制は行うべきではない。 |
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青少年ネット規制法について
青少年ネット規制法は,施行後3年以内の見直しが予定されているが,同見直しにあたっては,子どものケータイの所持禁止,利用者へのフィルタリングサービス設定の義務化,罰則の制定など,規制を強める方向での改正を行うべきではない。
同改正においては,利用者に対する規制として,利用者の年齢によってフィルタリングを設定することを義務づけるということも予想されるが,事情が異なる個々の家庭に一律的にフィルタリング設定を義務付けことは,表現の自由・自己決定権などに対する過度な規制になりかねないから,フィルタリングの設定をするか否かは,家庭内のルールによるべきである。 |
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学校におけるケータイ所持に関する校則等によるルール化について |
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学校外でのケータイ使用についてのルール化について
学校外でのケータイ使用については,学校は,家庭内のルール作りに任せるべきであって,一律的に学校外でのケータイ所持を禁止する校則の制定,その他,これに類する規制を行うべきではなく,家庭内のルール作りのサポートに徹すべきである。 |
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学校内へのケータイの持ち込みおよび使用についてのルール化について
学校が,学校内(授業中,休み時間等)でのケータイの使用に関する校則を制定することは,学校が子どもの学習の場であることに鑑みて問題はないといえる。
ただし,高等学校においては,高校生が大人に近い是非の分別を判断する能力を有していることから,休み時間における使用を制約する校則を制定すべきではない。
学校内におけるケータイ使用に関するルールを超えて,「学校への持ち込み禁止」というルールを制定することには慎重であるべきであり,仮に,かかるルールを制定する場合でも,緊急その他必要な場合等,子どもや家庭の個別の事情について十分に配慮すべきであるから,子どもおよび親との十分な協議が必要であり,学校が一方的に校則等のルールを制定すべきではない。 |
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(3) |
放課後および登下校時におけるケータイ利用に関する規制
小中高校生を問わず,放課後および下校時における子どものケータイ利用については,子どもおよびその保護者の自主的な判断にゆだねるべきであって,学校が各家庭の事情を考慮することなく,ケータイの利用を一律的に規制すべきではない。 |
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(4) |
校則等ルール制定のありかた
ケータイ所持ないし利用を規制する校則等ルールの制定に当たっては,学校が一方的に制定することは許されず,校則等ルールを制定する際は,子どもおよび親との十分な協議が必要であるし,また,教育の中でこの措置についてもディスカッションするなどして,理解を深めることが重要である。 |
第3 教育のあり方 |
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トラブルに巻き込まれないための教育
子どもがケータイの特性を十分に理解し,トラブルに巻き込まれないようにするため,子どもに対して,フィルタリングの知識や違法・有害サイトの掲載手法,これに対する対処方法,インターネットにおける個人情報の取扱方法などについて,これらを理解させるために,家庭,学校,地域において十分な教育するための場を設ける必要がある。
現在の教育は,ケータイを子どもから取り上げる方向に向かっており,ケータイの利便性や存在の有意性を認めたうえで,その適切かつ安全な利用方法について教育するという方向には必ずしも向いていない。
現在の学習指導要領では,インターネットに関する教育は「情報モラル教育」として扱われているが,これはインターネットの構造や一般的なマナーなどについて触れるに止まっており,現在,インターネットないしケータイによって起きている様々な問題について,実態に即した統一的なしっかりとした教育がなされているとは言えず,学校ごと,あるいは,個々の教師の関心と能力にゆだねられているのが現状である。
子どもに対し,ケータイを巡るトラブルに巻き込まれないための教育を十分に意識したうえ行うことが必要である。 |
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メディアリテラシー教育
子どもがケータイやそれを使ってアクセスするインターネットを問題なく利用できるようになるためには,メディアリテラシーを身につけることが必要不可欠である。
メディアリテラシーとは,多義的な言葉であるが,ここでは,ケータイやインターネットを含む「メディア」(すなわち情報の媒体)に関する基本的理解能力を意味し,メディアから,または,メディアを介して受信した情報を的確に読み取り,またメディアをうまく使いこなして自分の考えや感情などを表現・発信する能力のことを言う。
このメディアリテラシーを高める教育がメディアリテラシー教育であり,様々なメディアが発達した現代社会においては,メディアリテラシーは,例えて言うなら読み書き能力のように,社会生活を送るために必要不可欠な基本的理解能力である。
ケータイやインターネットというメディアの特性を学び,受信した情報をどのような視点で受け止めればよいのか,自分が情報を発信する場合には,どのような表現やメディアの使い方をすればよいのか,といったことを的確に判断し,メディアの向こうにいる相手方は,どのような考えや気持ちを持っているのか想像できるようになることで,子どもは,ケータイ利用から生じるトラブルを未然に回避できるようになるはずである。
そのためには,ケータイを使わせないのではなく,むしろケータイを使わせて,その特性を理解させ,自分の頭でどのように使いこなすべきなのかを考えさせ,学ばせることが大切である。
行政は,学習指導要領にメディアリテラシー教育を盛り込み,技術の進歩に合わせた教材を用意するなどして,小学校・中学校・高等学校の各教育課程において,子どもがその発達に合わせた適切なレベルのメディアリテラシー教育を受けられるようにすべきである。
また,教育関係者は,メディアリテラシー教育の取り組みを教育現場で実践するべきである。 |
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教育の前提としての課題
以上の教育の前提として,親・教育機関といった大人側がケータイの特性について十分理解したうえで,子どもがどのようにケータイを利用しているかなどの現状を把握し,これに基づき適切な教育をすることが必要である。
学校その他教育関係者と親は,子どものケータイをめぐる問題について十分な情報交換をし,適切な指導のため情報を共有することが必要であり,学校は,親に対し,家庭における子どもの十分かつ適切な教育を可能にすべく,様々な問題点(その地域で起きている特有の問題を含む。)についての情報を提供することを惜しむべきではなく,行政は,これらの教育および情報共有を側面から積極的に支援すべきである。
また事業者は,子どもがケータイの特性を十分に理解し,不用意にトラブルに巻き込まれないよう,親および子どもに対する啓発活動を積極的に行うべきである。 |
第4 家庭におけるルール作り |
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親によるコントロールの必要性
ケータイ利用については,親によるコントロール(ペアレンタルコントロール)を及ぼすことが重要であり,第一義的には,家庭内におけるルール作りが最も重要である。
すなわち,ケータイの使用場所,使用時間,使用量などについて,家庭内でよく話し合って,取り決めをするべきであり,その際には,違法・有害サイトを利用しないことや名誉毀損的書き込みをしないこと,個人情報を安易に書き込まないことなどの点について定める他,子どもの健康被害に至るような依存的利用をしないなどの視点も必要になる。
このことによって,ある程度のケータイについてのトラブルは未然に防ぐことができると考えられる。
また,行政,学校,事業者において,家庭におけるルール作りを支援する取り組みがなされるべきであり,家庭内におけるルールの一案を示すことや,ルール作りを促すための啓発活動への取組が望まれる。 |
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実効性を確保するための仕組み作り
家庭内でのルール作りが実効性を持つような仕組みも必要になる。
すなわち,ルールを作っても子どもが守らないことがあり,これに親が対抗し,ある程度コントロールできるよう,つまりペアレンタルコントロールを実効化するために,事業者は,様々なシステム作りやサービスの提供を行うべきである。
例えば,1ヵ月のパケット使用量や通信時間の限度を定め,それを超えた場合にはケータイからインターネットへのアクセスができなくなるなどの仕組みや,ウェブ閲覧ないしメール機能を1日のうちの特定の時間のみに制限するという仕組み,契約者である親が子どもの受発信履歴(メールアドレス)やネット接続のアクセス先履歴を閲覧できるといった仕組み作りなどが考えられる。
また,事業者は,利用者がこれらのサービスの内容を簡単かつ十分に理解でき,また,容易に必要なサービスを選択できるような工夫と環境作りをすべきである。 |
第5 子どもを保護するための環境整備 |
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フィルタリングサービスについて
青少年ネット規制法は,ケータイ事業者に対して,フィルタリングサービスを提供するよう求めている。
子どもを違法・有害情報等から保護するため,事業者によって提供されたフィルタリングサービスを利用させ,フィルタリングを設けることの必要性,その内容について,親や子どもなどの利用者に判断させるという現在の方法は,基本的な方向性としては間違っていないが,現在のフィルタリングの具体的な方法には問題がある。
本来フィルタリングは受信者側で情報の取捨選択を行うものであるにもかかわらず,現状のケータイインターネットにおけるフィルタリングでは,その取捨選択をケータイ事業者が個々の利用者の特性を考慮することのないまま行っており,その結果,パソコンにおけるフィルタリングに比べて,アクセス制限が過度に広範囲にわたってしまっている。
これでは,ケータイ事業者が一律にサイト規制をしているに等しいと言わざるを得ず,フィルタリングの精度を高めること,また,より段階的な設定を可能にすることなど,内容について見直すべき点が多い。
また,フィルタリングサービス自体の問題に加え,フィルタリングがはたして利用者に分かりやすいものになっているかどうか,という問題も重要であり,利用者にとって容易に選択できるような工夫と環境作りをすべきである。 |
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権利侵害情報の防止および発信者情報の開示について
プロバイダ責任制限法は,プロバイダ等が,権利侵害情報の送信を防止することが技術的に困難であるためにかかる措置を講じなかった場合の被害者に対する賠償責任制限,プロバイダ等が権利侵害情報を防止する措置を講じた場合の発信者に対する賠償責任制限をそれぞれ定めている。
事業者としては,この法律の趣旨を踏まえて,適切な対応をすべきであり,特に,明らかに違法・有害なサイトないし書き込みについては放置すべきではなく,速やかに違法・有害な情報の削除を含む情報の送信を防止する措置を講じるなど,違法・有害な情報から生じる弊害を防止するため,迅速な対応をとるべきである。
また,権利侵害情報の送信を防止するための措置を講じた場合,または,同措置を講じなかった場合について,それを争う簡易な方法(異議申立機関の設置等)が検討されるべきである。
加えて,プロバイダ責任制限法には,発信者情報の開示に関する規定が存在するけれども,任意に開示されない場合には,裁判所への開示請求が必要になり,現状では,この手続が十分に機能しているとは言い難く,任意に開示されない場合の簡易な判断機関の設置も検討されるべきであるし,特に子どもが被害者となる場合は,簡易かつ迅速な手続が求められる。
以上の点について,プロバイダ責任制限法の改正も含めて,検討されるべきである。 |
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相談窓口の設置
行政は,ネットをめぐって生じたトラブルについて,子どもからの相談を受ける窓口を設けるべきであり,この窓口は,心理学,教育学の各専門家,弁護士などが協力して総合的に相談を受け付けるものでなければならない。
子どもがインターネットでトラブルに巻き込まれた場合に,親に相談できればいいが,事情により,必ずしも親に相談することができないことがあり得る。
例えば,アダルトサイトを見た経験のある子どもが,後に架空請求のメールを受けた場合に,親に相談できないまま支払ってしまうことがあり得るが,このような場合に,行政等が設置した相談窓口があれば,当該子どもの被害を防ぐことも可能である。
また,子どもが「インターネットいじめ」などの人権侵害行為によって被害を受けた場合,この相談窓口を設置することによって,子どもの心のケアができる可能性もあるから,消費生活センターのような相談窓口を設けることが必要であり,この場合,メールで気軽に相談できるような環境を整えることも必要であるし,また心理学および教育学の専門家,弁護士などが対応できるような体制をとるべきである。 |
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弁護士会における相談窓口の設置
これまで,子どもの人権問題に関わってきた弁護士および弁護士会は,法律の専門家として,子どもとケータイの問題についても,積極的に関与すべきである。
具体的には,子どもの人権問題についての相談窓口を各弁護士会で設けているが,これに加え,あるいはその中に,子どもとケータイコミュニケーションに関するトラブルについての相談窓口も設けるべきである。
相談担当弁護士は,この相談に適切に対応できるような知識を身につけるよう研鑽に努めるべきである。 |
第6 各所連携の仕組み作り |
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府省庁間の連絡について
子どもとケータイをめぐる問題について,府省庁間の連絡をより一層密にし,統一的な施策をとることが必要であるが,現在,内閣府,総務省,文部科学省,経済産業省,警察庁などで,それぞれ独自にこの問題に対応し,また,政策立案をしており,子どもとケータイの問題についての対応や施策の方向性について必ずしも統一されているとは言いがたい。
従って,各省庁間で統一的な施策をとることが求められるが,この点,総務省によって立ち上げられた「安心ネットづくり促進プログラム」などによる連携の取組が期待される。 |
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地域における連絡協議会の設置
地域において,行政,教育関係者,保護者などの間で連絡協議会を作り,子どものケータイをめぐる問題等について,協議を行う場を設けるべきである。
子どもを見守る地域関係者が協働してこの問題に当たることが望まれるが,現在は,地域におけるコミュニティが希薄になっており,地域における子どもの居場所がないことが,子どものケータイによるコミュニケーションを促進させている側面があり,地域コミュニティの再生は,子どもの居場所を作るという意味でも重要である。
従って,地域における連絡協議会の協議においては,ケータイをめぐる地域のトラブルについて話し合う他,自らの居場所に乏しい子どもがケータイに依存しがちであるという実態に鑑み,地域において子どもの居場所を作るように努めるべきである。 |