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平成22年度 | ![]() |
宣言 |
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労働と貧困〜今日の働き方と社会保障 我が国におけるパート・アルバイト,派遣社員,契約社員・嘱託などのいわゆる非正規労働者の数は,2010年第1四半期の平均で1708万人となり,全雇用者の33.7%,全労働力人口の26.2%に達している。非正規労働者は,過去30年以上ほぼ一貫して増加してきたが,特に,バブル崩壊後の1990年代後半から2008年ころにかけて,正規労働者を一部置き換えるかたちで急速に増加した。非正規労働者が急増した背景には,我が国経済の成長率鈍化と構造変化,経済のグローバル化に伴う国際競争の激化,人口の高齢化や非婚化などの社会・家族構造の変化があるが,1990年代後半から進行した有期雇用や派遣労働に関する規制緩和も大きく影響している。非正規労働は,往々にして雇用が不安定で低賃金であり,その増加に照応して社会全体における貧富の差も拡大し,「働く貧困層(ワーキングプア)」が生まれている。2007年時点における我が国の相対的貧困率は,先進国中でも高位の15.7%に達している。 非正規労働者と相対的貧困率の増加は,日本社会におけるセーフティネットの脆弱さを露見させている。もともと我が国の社会保障制度は,終身雇用・企業年金制度など企業を通じたセーフティネットや性的役割分業に基づく家族関係を前提とするものであった。ところが,経済活動の長期低迷,国際競争の激化や人事管理手法の変化の影響で,企業によるセーフティネット機能は次第に失われつつある。また,従来我が国では家族を基礎にした私的な相互扶助がセーフティネット機能を有していたが,少子高齢化や家族関係の変化により,これも揺らぎつつある。その結果,公的なセーフティネットとしての社会保障制度の重要性が高まっているが,社会経済の変化に対応した制度の見直しが行われずにいることから,その恩恵を受けられない人々が急増している。最後のセーフティネットである生活保護も,制度面や内容面の問題に加え,「窓口規制」など運用面での問題があり,その役割を十分に果たしていない。それどころか,生活保護制度を食い物にするいわゆる貧困ビジネスが横行している。 2008年9月のリーマン・ショックに端を発した世界的な金融危機の影響により,2009年の春にかけて,製造業の派遣労働者を中心に,数十万人もの非正規労働者が職を失った(いわゆる「派遣切り」「非正規切り」)。その際,雇用保険や生活保護といった公的セーフティネットは十分に機能せず,収入と住居とを同時に失う労働者が続出し,少なからぬ数の人々が「派遣村」をはじめとする民間ボランティアの支援活動に救いを求めることとなった。 以上のような社会状況は,憲法第13条の幸福追求権,同第14条の法の下の平等,同第25条の生存権の保障,および同第27条の勤労の権利の保障に照らし,人権問題として到底看過できないものである。非正規労働および貧困は,我が国社会を挙げて最優先で取り組むべき重大かつ喫緊の課題である。 関東弁護士会連合会は,日本社会における非正規労働および貧困の現状を見据え,労働法制および社会保障法制の問題点を踏まえて,次の通り,あるべき法制度について提言し,弁護士会および弁護士が取り組むべき活動について宣言する。
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2010年(平成22年)9月25日 関東弁護士会連合会 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
提案理由 大会宣言冒頭で記載したような情勢があり,これらが,人権問題として,弁護士会および弁護士が取り組むべき課題であることは,争いのないところであろう。 そのため,この間,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)も度々労働と貧困にかかる問題について,時機に応じ,提言,発言を行ってきた。2008年10月3日に富山で開催された第51回人権擁護大会において,日弁連は,「貧困の連鎖を断ち切り,全ての人が人間らしく働き生活する権利の確立を求める決議」を採択し,その中で@労働者派遣法の抜本的改正,A同一労働,同一待遇の立法化,B最低賃金の大幅な引き上げ,C使用者による違法行為の摘発・監督体制の強化,D社会保障制度の抜本的改善と職業教育,職業訓練制度の改善,E使用者の社会的責任などを提言した。 その後,2008年9月のリーマン・ショックの影響を受け,大量の派遣切り,非正規切りが行われ,2008年年末から年始および2009年年末から年始にかけて,2年にわたり,首都東京に派遣村が出現する事態が生じた。この情勢の動きは,日弁連の前記決議が適切であり,その実施が必要であることを実証することになった。 そこで,関東弁護士会連合会は,2010年度のシンポジウムを「労働と貧困」をテーマとして開催するとともに,大会宣言各項目の問題について提言するものである。
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