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東京地家裁立川支部の管内人口は412万人を超え,東京地家裁本庁(851万人),大阪地家裁本庁(634万人),横浜地家裁本庁(485万人)に次ぐ数であり,四国4県の人口に匹敵し,東京都の人口の3分の1にあたる。面積的には東京23区の約2倍に相当する。事件数も全国の地家裁(本庁50,支部203)の中で民事通常事件では8番目,刑事事件では7番目に多く,家事事件では4番目,少年事件では8番目となっている(2006年 東京三弁護士会多摩支部調査による)。
すでに立川支部において実施されている裁判員裁判,労働審判,司法修習等を見るとき,立川支部は限りなく「本庁化」している。
しかしながら,地方自治体と市民との間の行政事件は,「支部」であるために取り扱えず,簡易裁判所の民事控訴事件も取り扱えないため,市民は遠くの霞ヶ関にある本庁まで出向かなければならない。
「支部」には,独立した予算及び人事の権限もなく,決定権は本庁にあり,立川支部も例外ではない。立川支部の本庁は,全国一の膨大な人口と事件数を抱える東京地家裁であり,立川支部管内を含めた東京地域全体の司法行政を司っている。そのため,本庁において立川支部の実情や課題を正確に把握して,解決のための方策を検討し実行するには困難が伴い,立川支部の実情に即した裁判官増,職員増等の対応が不充分なことは否めない。さらに今次の司法改革のなかで実現した地方裁判所委員会及び家庭裁判所委員会も設置されていないため,この地域の市民が主体的に司法に参加し,その声を裁判所運営に反映する途もとざされている。市民のための裁判所とは,その地域毎に身近にある裁判所が人口や事件数に見合った,その地域にふさわしい法的需要に応えられる裁判所であることが不可欠である。多摩地域の市民にとって,この地域にふさわしい裁判所とは,独立した地方裁判所・家庭裁判所本庁以外にはない。
ちなみに,管内の30の地方自治体と東京都議会において,立川支部を本庁とすべきであるとの意見書が採択されており,本庁化は,まさに地域の声なのである。 |
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市川簡易裁判所と千葉家裁市川出張所の管轄区域は,千葉県市川市,船橋市,浦安市であり,この地域は,東京都のベッドタウンとして人口が急増し,管内人口は124万人を超えている。市川市と浦安市は東京都との県境にあり,千葉地方裁判所,千葉家庭裁判所本庁のある千葉市よりも東京都心部の方が近い。また,船橋市は,千葉市と東京都心部のほぼ中間に位置する。
市川出張所は1966年に設置されたが,その実現には市川調停協会による請願活動が力となった。その後,3市の市長による支部昇格の運動があったものの,支部の新設は認められなかった。
市川簡易裁判所が扱う通常民事訴訟は増加している。同簡裁に併設されている市川家裁出張所の家事事件総数の新受件数も急増し,2009年で6446件,同年の調停事件新受件数は1253件であり,同じ人口急増地域である千葉家裁松戸支部の1522件にほぼ匹敵している。にもかかわらず,家事事件を担当する裁判官は常駐していないし,家裁支部はいまだ設置されていない。
この間,この地域に事務所を置く弁護士数は増加し,2011年4月現在,64人である。潜在的な司法需要はきわめて大きい。早急にこの地域に地家裁支部を設置すべきである。 |
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横浜地裁相模原支部の管轄区域は,神奈川県相模原市と座間市であり,管内人口は85万人を超えているのに,同支部は民事・刑事とも合議事件を扱うことができない。同支部で扱う民事通常事件数は増加し,2009年の第一審通常訴訟新受件数は,単独事件しか扱わないにもかかわらず784件もある。同支部の第一審通常訴訟新受件数よりも少ない地裁本庁は,全国で12庁ある。
また,同支部は,刑事合議事件を扱っていないために保釈却下や勾留決定に対する準抗告事件を審理することができない。準抗告が申し立てられると,職員は,電車で1時間もかかる横浜地裁本庁に記録を移動させなければならない。そのため,記録送付だけで1日が経過することも生じており,刑事被告人や被疑者が迅速な裁判を受ける権利が侵害されている。単独事件しか扱わないにもかかわらず,2009年の刑事第一審新受件数は504件であり,同支部の件数よりも少ない地裁本庁は21庁ある。
民事刑事の合議事件を扱っていたとすれば,全国で中位クラスの本庁並みの事件数を扱うことになるはずである。さらに言えば,横浜家裁相模原支部の2009年の家事事件総数(新受)は,5177件であるが,同支部の家事事件総数(新受)よりも少ない家裁本庁は33庁もある。
横浜弁護士会相模原支部に所属する弁護士数は,2011年6月1日現在,55人であり,合議事件を担うことに何ら支障はない。
相模原市は,2010年,政令指定都市となったが,政令市にある地裁支部でありながら,合議事件を扱うことのできないのは全国で横浜地方裁判所相模原支部だけである。相模原市議会は,昨年,全会一致で,横浜地裁相模原支部において,民事刑事事件の合議事件が扱えるように求める決議を行った。地域の意向を踏まえ,今こそ同支部において民事刑事の合議事件が扱えるようにしなければならない。 |
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東京高裁管内には,さいたま地家裁秩父支部,前橋地家裁沼田支部,千葉地家裁館山支部,同佐原支部,水戸地家裁麻生支部,静岡地家裁掛川支部に裁判官が常駐していない。これらの各支部は,明治時代に区裁判所として設置されたが,大正時代の統廃合により廃止され,その後地元の復活運動によって復活したものの,昭和の大不況時代に事務停止となり,また復活したが戦争の激化によって事務停止となり,戦後は,地方裁判所,家庭裁判所支部となり,今に至っている。いずれも地域と結びついた裁判所として,その存在は欠かせない。
しかし,裁判官が非常駐であることもあり,民事家事事件を扱う一方,刑事事件を扱わなかったり(佐原支部),身柄の刑事事件を扱わなかったり(麻生支部),少年事件や執行事件を扱っていない(6支部とも)など,通常の地方裁判所・家庭裁判所の機能を果たし得ていない。麻生支部の民事第一審通常事件新受件数は,日弁連及び当連合会が協力・推進したひまわり公設事務所の開設もあって,2002年の136件が2010年には346件に増加したが,裁判官は今も常駐せず,刑事身柄事件は扱っていない。掛川支部の民事第一審通常事件新受件数も,2002年の72件が2010年には302件に増加したが,裁判官は常駐していない。佐原支部の民事第一審通常事件新受件数は,2002年79件が2010年139件に増加したが,やはり裁判官は常駐していない。
裁判官が常駐していないと,緊急を要するDV事件などに対応できない恐れがあるなど支障が大きく,このような裁判所は,裁判を受ける権利(憲法32条)や法の下の平等(憲法14条)を保障する日本国憲法が予定する司法の姿ではなく,これらの裁判所に,早急に,裁判官が常駐するようにすべきである。 |
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東京高裁管内には後述するように,多くの課題があるが,中でもこれらのうち本決議の1(1)ないし(3)の課題は,弁護士会の運動だけではなく,関係自治体などによる賛同の意見書採択などが行われてきたにもかかわらず,いまだに実現していない課題であり,(4)の課題は,地方裁判所,家庭裁判所のあるべきかたちからすれば「異例」であり,それぞれの地域に居住する市民の視点から見れば,いずれも,放置することが許されない喫緊の課題である。当連合会は,管内に山積する多くの司法課題の突破口として,まず,これらの一刻も早い実現に向けて全力を挙げて行動する覚悟である。 |