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先ず,復旧・復興との関係でもっとも憂うべきは,福島第一原子力発電所の炉心安定化作業が,必ずしも,当初,東京電力株式会社により公表された工程表のとおり進捗せず,放射能汚染問題がいまなお収束したとは言えない状況にあることである。そのため,避難住民の帰住はもとより発電所周辺区域の原状回復にはいまだほとんど目処がたっていないばかりか,本原発事故がもたらした陸海空における放射能汚染の除去が抜本的に解決せず,それどころか放射能汚染のこれ以上の拡散防止についてさえほとんど出口が見えないといってよい実情が今なお存する。地震・津波の甚大な被害だけでも,歴史上,類をみない厳しいものであるが,今回はその被害に留まることなく,重大な放射能汚染の問題が重要な課題となっている。
このような被害の実態を冷静に分析したとき,従来から語られていた原子力発電の安全性というものは,あくまでも一定の人知の想定を前提とした不確実・不完全なものに過ぎなかったことが明らかになったのである。
また,それだけでなく,既に原発事故から6ヶ月が過ぎようとしているにもかかわらず,未だ事故収束の見通しすらたっていない現状を見ると,従来の危機管理体制も如何に不十分なものであったのかが理解できるところである。
このような人命軽視のあり方,或いは,重大な人権侵害の事実からすれば,全ての原子力発電所を,可及的すみやかに廃止をしなければならない。
特に,福島第一原子力発電所,同第二原子力発電所をはじめとし,中部電力浜岡原子力発電所と同様に,今後,大震災の発生が日本地震学会等の専門家によって指摘されている場所付近に設置されている原子力発電所,例えば,中越沖地震(2007年7月)以上の地震の発生が指摘されている柏崎・刈羽原子力発電所のような原子力発電所や,東海第二原子力発電所のように,運転開始後,既に30年以上経過している原子力発電所に関しては,直ちに廃止すべきである。
そして,国及び東京電力株式会社をはじめとする各電力会社は,原子力発電所の廃止,撤去,原状回復に向けた日程表を早急に作成して国民に公開するとともに,国民が監視する下で,その日程表に従って,廃止等を実施することが必要不可欠である。
なお,例外的に,稼働を継続せざるを得ない場合があるとしても,本件事故の原因を踏まえた上で十分な安全基準を策定し,その安全基準を満たすことが最低限要求されるべきであり、これを満たさない原子力発電所については,直ちに,停止させる必要がある。
他方で,日本経済全体への影響,電力コスト問題,代替エネルギーの不安定要素等々を理由として,原子力発電所の速やかな廃止には反対すると言う意見もあるが,本原発事故により,完璧な安全性というものが存在しないことが明らかになった以上,ことが人命,人権,はたまた人間の尊厳にかかわる問題ゆえに,この考え方には与し得ない。
原子力発電に代わる代替エネルギーをどうすべきかという議論も,原子力発電所廃止の議論と関連した重要なテーマであるが,それは,今後のエネルギー消費生活のあり方を見ながら,国民のコンセンサスを得て決めて行くべきである。ただ,その方向性としては,再生可能な自然エネルギーへの転換を基本原則とすべきである。
更に,国は,原子力発電所の廃止に向けて,原子力基本法,エネルギー政策基本法といった基本法レベルを再検討するほか,本原発事故発生時の検証にかかる情報公開を含めた手続法制を整備すべきであり,国等から独立した事故調査委員会の設置もすべき必要があろう。
また,原子力発電所の被災問題は,地域,国家の垣根を越えた地球規模の放射能汚染をひきおこす国際的な大問題であり,その解決のためには,国際共助の取組が不可欠であるから,国際共助体制も創設すべきである。 |
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次に,国,関係地方公共団体は,東日本大震災の規模等が「想定外」であったことを強調しているが,そのことは国,関係地方公共団体が前提としていた「想定」自体が間違っていたことを認めたことに等しい。自然の脅威は,往々に,人知を凌駕するものであろうが,謙虚に従来の地震及び津波対策を再検討するとともに国の防災基本計画を見直し,地震や津波の規模とその対策を再検討し,新たに施策を実施しなければならない。
そこで,地震防災対策特別措置法に基づいて設置された地震調査研究推進本部並びにその下部組織たる地震調査委員会は,東日本大震災規模の地震を想定していなかったことの反省のもとに,地震や津波の規模,発生確率等の想定を早急に見直すべきである。また,この見直しに基づいて,国,関係地方公共団体は,直ちに災害対策基本法に基づいて作成する防災計画,地域防災計画を見直すべきである。 |
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更に,国,地方公共団体は,今次のような大規模災害に対応するため,現行の地方自治法制の枠組みにとらわれない被災自治体間の連携,被災自治体と被災地域外自治体との連携を可能とする制度,国と自治体間の連携を可能とする法制度を創設しなければならない。
まず,今回痛感されたのは,地方自治法制の枠組みにとらわれない被災自治体間の連携,また,被災自治体と被災地域外自治体との連携を可能とする制度の不備であり,さらには,国と自治体間の連携を可能とする法制度の不備でもあった。
とくに,東日本大震災では,自治体機能が喪失したといってよいほどの窮状に追い込まれた被災自治体が少なくなかった。いわば自治体レベルを超えた大災害を前にして当該自治体の自治機能それ自体が損なわれるというもっとも憂慮される事態が現実のものとなったのである。
しかし,かかる事態が今回だけにとどまる保証はどこにもない。その可能性が今次の東日本大震災により銘記させられたわけである。まさに,かかる状況をあらかじめ想定した地方自治法制の構築が今こそ急務なのである。 |