栃木県大田原市に法律事務所を開設しての報告(平成8年度) |
栃木県弁護士会 室井 淳男 |
T 自己紹介 44期,33歳,妻子有。 大田原支部管内の黒磯市にて出生し,大田原市内の高校卒業。 宇都宮家庭裁判所で2年間裁判所事務官として勤務。 栃木県足利市の小沼洸一郎法律事務所にて3年間の勤務弁護士を経て,平成7年4月より,栃木県大田原市に法律事務所を開設。 U 大田原支部管内の概要 宇都宮地方,家庭裁判所大田原支部,大田原簡易裁判所が設置。 地裁,簡裁に各1人の裁判官が常駐の他,転補の裁判官1人。 管内人口 約28万人。 管内弁護士数 平成7年3月まで1人,同年5月に裁判官を定年退官された方が開業し,現在計3人となる。 V 国選刑事事件 平成7年6月から平成8年1月までに,私が担当した国選は33件である。他の2人の弁護士も同数程度担当されていると聞いている。但し,月によって事件数は相当開きがあり(裁判官の休暇の関係か)平成7年7月には9件,8月は1件であった。また,自分で車を運転する弁護士は私だけのようであるので,遠方の警察署に留置されている追起訴予定の被告人については,(事実上全て)私が担当になる。 これまで(平成7年3月まで)ほとんど1人の弁護士が国選を担当されてきたと聞いているが,かなりのご苦労であったと思われるし,1人で担当する場合には国選以外の民事その他の事件を受任することは非常に囲難になると思われる。他の2人の弁護士は70歳を超える高齢であるので,将来大田原支部管内の弁護士の増員が無かった場合の不安を感じている。 W 当番弁護士 大田原支部管内では私が担当しており,平成7年12月までの出動回数は14件である。48時間以内の接見は今のところクリアできている。私がさしつかえの時には,宇都宮の弁護士方(大田原市まで車で片道約1時間超かかるが,馬頭警察署までは大田原市から更に車で片道40分位かかる)で出動することになっている。今までのところ私が出動できなかったことは無いものの,夏期や正月,ゴールデンウィークの長期休暇中については,私が連日待機することは困難であり,宇都宮の弁護士方の協力抜きには当番弁護士を遂行できない状況にある。 X 法律相談 大田原市,黒磯市が,弁護士会に依頼して実施している法律相談において,毎回相談員を勤めさせてもらっている。 また,当事務所は裁判所の隣にあるためか,裁判所に相談に来たものの,裁判所が中立の立場から踏み込んで相談に応じ切れない場合,当事者が突然相談に訪れるケースも多い。その際に,従前,宇都宮の弁護士会まで相談に行くのは,遠くてなかなか行きにくかったとの声を良く聞いた。 そのほか,弁護士過疎地域において,法律相談について,事実上弁護士の代替機能を求められていた司法書士,行政書士,税理士等から紹介されるケースもある。実際に相談を聞いてみると,これらの司法書士,行政書士,税理士等では当事者のニーズに十分に応じられておらず,やはり法律相談や法律業務は弁護士に遥かに及ばないことがわかった。 特に顕著であったのは,調停が最適の事案について,当事者では調停申立書が書けず,近くの司法書士に依頼したところ,知識も経験も無いとの理由で断られ,私に調停申立書のみを書いて欲しいという相談が少なからずあったことである。 さらに,気がついた事としては,一般市民の相談の中に,非弁活動まがいの行為をしている人達の話が簡単に出てくることが少なからずあり,開業前に多くの先輩弁護士から注意を受けていたものの,弁護士過疎地域においては事件屋や示談屋が一般市民の中で広く活動している事が実感された。 Y 平成8年1月までのその他の活動 破産管財事件については,実際に管財人になったものは現時点(平成8年1月)では1件であるが,担当の書記官等からは今後依頼が増加するであろうと言われている。 また,平成8年度の鑑定委員を勤めることになったが,調停委員などは年齢の関係で依頼は無いものの,弁護士の調停委員が十分というわけではないようである。 さらに,簡単な株式会社の清算人を2件勤めた。 また,黒磯警察署管内の民暴責任者講習会において,1コマ程度の講義をした。 このほか,大田原女子校,黒磯高校から,2コマ程度の講義の依頼があり,身近な法律問題について講義を行なった。 Z 開業10ヶ月目の感想 必然的に1人で活動することが多いし,地域には法的な専門書を扱う本屋は皆無であるうえ,遠方のため弁護士会の委員会活動にもなかなか参加しにくくなっているが,自己の向上の為ひいては地域の法的ニーズに的確,迅速に応じる為,本庁,そのほかの各支部の弁護士方と交流を密にする必要を感じているし,今後も心掛けたい。 また,大田原支部には司法修習生は配属されないし,足利支部のように1日修習も無いが,去年(平成7年)は個人的に2人の修習生に我事務所へ見学に来てもらい,弁護士過疎地域の実情について理解してもらったが,今後も興味のある修習生には是非見学に来てもらい,その中で1人でも大田原支部管内で開業する者が出る事を願ってやまない。 |