法テラス多摩法律事務所の現状について(平成18年度)
第二東京弁護士会   香取 めぐみ

T はじめに
 私は,平成18年10月から,法テラス多摩法律事務所の常勤弁護士として勤務しています。法テラスに移籍する前は,第二東京弁護士会の公設事務所である弁護士法人東京フロンティア基金法律事務所に2年間勤務し,主に民事扶助事件や国選弁護事件を行ってきました。法テラス多摩法律事務所は,「多摩の駆け込み寺」として市民のリーガルアクセス障害を解消するために設立された法律事務所です。当事務所は,京王八王子駅前にある八王子ONビル6階にある法テラス多摩支部のフロアの一角にあります。常勤弁護士は,現在,私と東京弁護士会所属の宮本康昭弁護士(13期)の2名で,非常勤の事務職員が2名在籍しています。同じ6階のフロアには法テラス多摩の国選弁護係があり,4階には法テラス多摩の法律相談センターがあります。法テラス多摩法律事務所は,法テラス多摩支部の一部署として位置づけられているようです。
 法テラスの業務開始から約3か月が経過しようとしていますが,私からは法テラス多摩法律事務所の現状についてご報告いたします。

U 業務開始から3か月間の状況
(1) 業務内容
 多摩のスタッフ弁護士の業務内容は,民事扶助事件(民事扶助相談と事件受任)と刑事国選弁護事件のみです。資力基準を超える方からの民事事件の相談・受任や,当番弁護活動は,原則としてできません。委員会活動を行うには地方事務所長の許可が必要です(委員会での活動は,本来業務ではありませんので,委員会活動に一定時間以上を要する場合は,有給休暇の申請を行うことになっています)。
 民事扶助相談は,法テラス多摩・法テラス立川の法律相談センターで実施する場合と,法律事務所で実施する場合があります。扶助相談は資力基準を満たす方が対象ですので,当事務所に直接相談依頼があった場合,電話による受付の時点で資力基準を超えることが判明した場合は,法律相談を実施することができませんので,弁護士会の法律相談センターを案内しています。民事扶助相談を行い弁護士が受任相当な場合は,持込事件として法テラスに申し込みを行いますが,援助決定が出ない場合は,スタッフ弁護士は受任することができませんので,再度,弁護士会の法律相談センターを案内することになります。以前,サラ金からの督促に追われてどうにもならなくなった相談者が,市役所の紹介で当事務所にいらっしゃいました。法律相談を経た後,法テラスに事件を持ち込みましたが,援助決定を出してもらえなかったため,他の法律相談センターを案内せざるを得なくなったことはありました。また,刑事事件に関する相談依頼がありましたが,業務対象外でしたので,他の法律相談センターを案内しました。
 最近は,自治体から相談者を紹介していただくケースが多いのですが,スタッフ弁護士の業務内容が制限されており,当事務所では対応できない案件が出てきますので,相談者をたらい回しにせざるを得ない状況も発生しています。今後は,当事務所が「多摩の駆け込み寺」としての役割を果たしていくためには,スタッフ弁護士の業務内容をもっと広げていく必要があると思います。
 現時点での受任事件数の割合は,民事事件と刑事事件が2対1くらいです。民事事件は,ほぼ9割が債務整理事件で,残りの1割が家事事件(離婚事件)や損害賠償請求事件(男女間のトラブル)です。
(2) 経費等について
 法テラス多摩法律事務所の業務は,原則として民事法律扶助事件,刑事国選事件のみですが,着手金や報酬金等,一般の弁護士が法テラスから受領する費用は基本的には当事務所の口座には送金されません。法テラス多摩法律事務所が受け取るべき着手金・報酬金は,「法テラス」に帰属するので,わざわざ法律事務所には送金しないという運用になっているようです。つまり,当事務所では,事件処理に必要な費用を,経費として支出するだけということになります。当事務所の経費用の口座は,法テラス多摩支部の経費用の口座と同じ口座を利用していますので,事件処理に必要な経費が入っている口座をスタッフ弁護士が自ら管理することは認められていません。
 スタッフ弁護士の収入は,給与制です。今のところ歩合制は導入されていませんので,受任した事件数や実績は給与には反映されていません。資力の乏しい方を対象とした事件が中心であることから,収支のことや受任件数のことを心配せずに,いわゆる公益的な事件を積極的に行うことができるというメリットはあるのかもしれません。
(3) 高齢者・障害者・遠隔地居住者を対象とした活動
 高齢者や障害者の中には,直接法律相談センターに出向けない人がいると聞いています。そういう方にも積極的に当事務所を利用していただきたいと考えています。今後,高齢者や障害者に対する出張相談を検討しています。また,要請があれば遠隔地居住者に対する公民館等での無料法律相談会の実施も検討しています。様々な事情から現段階ではまだ実施には至っていませんが,遅くともこの半年以内に実施することを目標にしています。
(4) スタッフ弁護士の増員について
 2009年から始まる裁判員制度,被疑者国選弁護の対象事件拡大に向けて,多摩でもスタッフ弁護士を増員する必要があるようです。民事事件については,弁護士2名で十分対応できていますので,当面は刑事事件専門のスタッフ弁護士の増員が必要であると考えています。

V 今後のスタッフ弁護士の役割について
 約3ヶ月間,多摩のスタッフ弁護士として勤務してみて感じたことは,業務内容が民事法律扶助事件,国選弁護事件のみであることから,弁護士としての業務がかなり制限されているということです。資力基準を満たさないことを理由に法律相談も一切受け付けないという運用では,市民にとっての駆け込み寺としては機能せず,市民や自治体からの信頼も失いかねません。スタッフ弁護士の活動範囲をもっと広げていく必要があると思います。
 多摩に限らず,今後,裁判員制度の開始に向けてスタッフ弁護士の増員が要請されているところですが,沢山の方にスタッフ弁護士として名乗りをあげていただくためにも,スタッフ弁護士の業務がより魅力的なものになるよう精一杯取り組んでいきたいと考えています。