○ 太田さんこんにちは。今日は宜しくお願い致します。 経歴を拝見していて,あれっと思ったんですが,太田さんは高校のときはバスケット部に入部しているんですね。 |
太田さん |
そうです。中学まではずっとバスケをしていましたので。だけど,高1の春に膝を怪我して1ヶ月くらい休んでいたとき,ラグビーに誘われて入部したんです。どうもラグビーのほうが向いてたみたいで(笑),その後はラグビー一本です。 |
○ 大学は明治大学に入られたんですね。80年代初頭は,平尾選手率いる同志社大が強かった頃で,85年の明治の優勝は久しぶりの関東の優勝でしたね。 |
太田さん |
このときは,慶応と引き分けで両校優勝でした。今ならトライ数の多いウチの勝ちなんですけどね。当時はそういうルールがなくて,翌日の抽選で慶応が日本選手権に出場しました。 |
○ キック合戦でもなんでもいいから,せめてちょっとでも実力の反映される方式にしてくれないと納得いきませんよね(笑)。高校みたいに両校優勝で終わりじゃなくて,次があるんですから。 |
太田さん |
ほんとですね。サドンデスにするとか。 |
○ それで抽選で当たった慶応がトヨタを破って日本一になってます。大学が社会人を破って日本一になったのはこの後一回だけ。なかなかない機会ですね。 |
太田さん |
明治が出ても勝ってたと思いますよ(笑)。まあ,でも,そういう決まりでやってたんですから,しょうがないですね。 |
○ それで卒業後はNECに就職されて,選手として活躍,W杯にも2回出場されています。90年からはチームの主将になっています。ずいぶん若いですね,25歳ですか。 |
太田さん |
ラグビーは大体25〜6歳の選手が中心ですよ。引退も20代後半から30代前半が殆どですしね。 |
○ やっぱりコンタクトスポーツで消耗が激しいからでしょうかね。 |
太田さん |
もちろんそれもありますし,あと社業がありますからね。当時は今みたいにプロ化はされてませんでしたから,ちゃんと仕事もしなければなりませんでした。 |
○ いわゆるステートアマとは違うのですね。お仕事は9時〜5時ですか。 |
太田さん |
そうです。試合前は午前中だけで午後は免除ということもありましたが,基本は夕方までしっかり仕事,そのあと練習です。私は人事・総務の仕事をしていました。 |
○ そして,98年に引退されて,99年にコーチ留学,2000年からは監督で,指導者としては二度の日本一になられています。2003‐4年シーズンからはトップリーグが開幕して,このときはチームの副部長ですね。 |
太田さん |
そうですね。 |
○ トップリーグの試合を拝見していると,以前と比べてずいぶんスピードやパワー,スキルの面でも向上しているなあ,と感じるのですが,現場の方もそう感じていらっしゃいますか。 |
太田さん |
それはもう,トップリーグの前と後では格段に違います。特にここ数年は,全体のレベルが非常に上がってきています。プロ契約の選手が増えたり,優秀な外国人選手が多くプレーするようになったからですね。また,それがジャパン全体の底上げに大変に役立っています。 |
○ 今年は,トップリーグのリーグ戦1位が東芝,プレーオフ優勝が三洋,日本選手権がサントリーと,それぞれ分かれましたね。実力も高いレベルで拮抗してきているのでしょうか。 |
太田さん |
その3チームにトヨタを加えたトップ4は紙一重です。そのときのチーム状態,例えば主力が怪我で一人いないとか,そういうことで勝敗が左右される状況になっています。 |
○ そういえば,ここ最近は連覇がないですね。2004年から東芝府中が3連覇したのが目立つくらいで,松尾選手の新日鐵釜石や平尾選手の神戸製鋼みたいに7連覇というのはもう難しいのでしょうか。 |
太田さん |
7連覇なんてのはもう出ないと思いますよ。以前の社会人選手権はトーナメントでしたから,実力のあるチームはシードされて,実力が拮抗しているチームとの試合数も少なかったのでピークをもってくるのが難しくなかったんです。今みたいに試合数を多くこなすようになると,突出するのは難しいと思いますよ。 |
○ それで,2005年からはジャパンのGMになられています。30代ですからずいぶんお若いですが,これはやはり選手であった経験と,組織のマネージメントの両方が出来るからということでしょうか。ご自身では口はばったいでしょうけど(笑)。 |
太田さん |
まあ,そんなところではないでしょうか(笑)。 |
○ ジャパンのGMというのは具体的にはどのようなお仕事をされるのですか。 |
太田さん |
一言で言えば代表の環境整備ですね。ユースや女子,セブンズを含めた各カテゴリーのスタッフの選任であるとか,協会全体の予算の確保であるとか,代表戦に向けた選手の選択と契約とか,そういう裏方仕事です。 |
○ 現場での指導はされないのですか。 |
太田さん |
全くやりません。私の仕事は,現場がやりやすいように整えることですから。 |
○ 選手やスタッフの契約もやるんでしょうか。 |
太田さん |
もちろんやりますよ。契約書を作って,上のほうと協議して,条件を交渉したり。 |
○ カーワン監督は,往年のニュージーランド代表オールブラックスの名選手ですが,太田さんは95年の第3回W杯でニュージーランドと対戦されていますね。そのご縁で招聘されたのですか。 |
太田さん |
いや,彼は第3回には出ていません。それに,彼なんて当時,雲の上の存在ですよ(笑)。彼は,その後NECで2年間一緒にプレーしていたので,それで親しいのです。 |
○ 2019年には日本でW杯が開催されますね。ですが,残念ながら,一般の方には殆ど周知されていないようです。 |
太田さん |
そのとおりですね。まだ時間がありますから,これから広告も行って,盛り上げていきたいと思っています。 |
○ それと,これも一般の方はあまりご存知ないかも知れませんが,ラグビーの場合,外国籍の選手もジャパンで出られるのですよね。どういう理由でこのようなルールになっているのでしょうか。 |
太田さん |
もともとラグビーという競技は,欧米だけではなくて,南アやニュージーランドなどの移民の国でも盛んに行われてきたという土壌があります。だから,同じ地域でも様々な国籍の選手が一緒にプレーしてきたわけです。それで,ある一定の年数を満たせば,国籍にとらわれず,その地域でプレーする,当該地域の代表ということでチームが編成されるのです。 |
○ 今回のジャパンでは何人の外国籍選手が入っていますか。 |
太田さん |
7人ですね。やはり,南半球のプロリーグでの経験値や育成システムがしっかりしている国の出身者の評価が高いです。 |
○ これは方々で言われていることだと思いますが,仮に全員プレーすると15人中7人が外国人になるわけで,応援する立場からすると,一般の日本国民には感情移入しにくい部分もありますね。 |
太田さん |
それはあるかも知れませんね。できれば,2019年には日本人選手のみで代表を編成できるシステムをつくりあげたいとは思っています。ただ,現時点での勝利を考えると,現行ルール(3年在住で他国の代表経験がない選手)の中で,外国人選手も交えて選考するのが妥当だと思います。それに,外国籍と言っても,日本という地域で頑張っている人たちの代表なんですから,そこをご理解頂きたいですね。 |
○ 私個人もジャパンのチームは最後まで諦めないで一生懸命プレーするので大好きなんです。応援したくなるというか。ジャパンが「ブレイブ・ブロッサム」と言われるように,世界的にもそういう評価になっているようです。チームとしての魅力が伝われば,国籍はあまり問題にはならないんでしょうね。 |
太田さん |
本当にそのとおりですね。そのあたりも2019年に向けた課題だと思います。 |
○ それからこれは永遠のジレンマなのかも知れませんが,サイズの問題もずっと言われ続けています。どうも日本人ですと,競技の別はあるにしても,175cm〜180cmくらいの選手がもっともスピードとパワーのバランスが取れているように思います。諸外国との体格差は今でも大きいですか。 |
太田さん |
いや,ここのところ,日本人選手の大型化も進んでいますよ。ラインアウトも190cm級の選手で組めますし,それら大型選手のスピードも以前より上がっています。遠藤という選手ですが186cmのウィングもいます。もちろん,外国人選手はもっと大きいわけですが,サイズ差は確実に縮まっています。それに,もともと敏捷性を含めたスピードでは世界でもトップクラスなのですから,全体のバランスは確実に向上していると思いますよ。低く,早く,激しく,走り勝つラグビーを示せればトップ8も夢ではありません。 |
○ 2019年の日本大会のためにも,今年9月のW杯が重要になりますよね。 |
太田さん |
もちろんです。好成績を収めて盛り上げて行きたいところです。 |
○ 予選では,フランス,ニュージーランド,トンガ,カナダと対戦します。しかし,ジャパンは日程が厳しくて,中5日,4日,5日ですね。どうみても5チーム中,一番下の扱いですね。 |
太田さん |
そうなっていますね。前回はカナダより成績上だったんですけどね(笑)。 |
○ よく,トンガとカナダ,2勝が目標という話を聞きます。これまで日本は通算でもジンバブエに勝った1勝があるだけなので,2勝でも十分快挙だとは思いますが,それだと予選通過できないんですよね。決勝トーナメントがいきなり8強というレギュレーションもどうかと思いますが(笑)。 |
太田さん |
そうですね。だから初戦のフランス戦がキーになります。ここを勝てれば,予選通過も現実的になってくると思います。もっともフランスは北半球ではイングランドに次ぐ強豪ですから容易ではありませんが。 |
○ フランスに勝って3勝。やはりニュージーランドは高い壁ですか。 |
太田さん |
ここはもうチャレンジするしかありません。 |
○ 今回,日程がタイトですから,もしフランス戦に勝ったら,前回のオーストラリア戦みたいに2チーム体制にするとか,メンバー大幅に入れ替えたりして,ニュージーランド戦に臨むのでしょうか。その次のトンガ戦のことを考えて。 |
太田さん |
フランスに勝てれば,その方法もおおいに考えられます。 |
○ 予選通過のためとはいえ,せっかくオールブラックスとガチンコ勝負できるのに勿体ない気もしますね。 |
太田さん |
もちろんメンバー変えたとしても,勝つつもりでチャレンジしていきますよ。それは当然の話です。 |
○ 大変失礼なお話で恐縮なのですが,太田さんが出ておられた第3回では,ニュージーランドに17−145で敗れています。これはW杯の失点レコードになっていますね。 |
太田さん |
そうなんです。それは今でもトラウマになっています(笑)。それを何とかしたいと思って協会に入ったんです! |
○ チーム力は当時より縮まっていますか。 |
太田さん |
もちろんです。当時とは格段に違います。現に2年前パシフィック・ネーションズカップ(大会名)でもニュージーランドマオリ相手に前半はリードできましたしね。現在の世界ランキングも13位です。昨年はサモアに勝って一時過去最高の12位にまでなりました。私が就任した当時が18位だったので確実にチーム力はアップしています。 |
○ そうですか。11月のW杯では,ジャパンの意地を見せてくれることを期待しております。本日はどうもありがとうございました。 |