シリーズ27


近藤 晋さん
プロデューサー
近藤 晋さん
と き:平成14年4月5日(金)
ところ:都市センターホテル「梅林」
聞き手:窪木登志子会報広報委員会副委員長
  今回のゲストは,皆様も良くご存じのテレビドラマの数々を,今やフジの大多さん,TBSの木島さんに代表されるように花形となった感があるが昔はその名もなかった「プロデューサー」として,制作されてきた,近藤晋さんです。
  近藤さんは,1929年(昭和4年)神戸市生まれ,日本のテレビ草創期である59年に劇団民芸からNHKに入り,以来ドラマの企画・制作一筋に大活躍されました。85年にNHK退職後も,テレビ,映画,演劇など広い分野で,日本にプロデューサーという職能を確立されました。99年には,50回と長い歴史のある芸術選奨・文部大臣賞をテレビプロデューサーとして初めて受賞されました。
  現在も現役バリバリで,テレビ,映画,劇場において,数多くの娯楽性と時事性と新規性を兼ね備えた評判のドラマを世に送り出し続けていらっしゃいます。とても楽しい対談となりました。
○近藤さんは,大河ドラマを3作プロデュースされた初めてのお方とお聞きしています。
近藤さん  「黄金の日々」(78年,市川染五郎(現在の松本幸四郎)・栗原小巻主演),「獅子の時代」(80年,菅原文太・加藤剛・大原麗子主演),そして,日系アメリカ人を描いた「山河燃ゆ」(84年,松本幸四郎・西田敏行主演)も制作しました。
○ 冒険が難しい大河ドラマなのに,いずれも新機軸を打ち出していて,新鮮でしたね。
 まず,「黄金の日々」では,それまでの主人公が著名な武将だったのを,初めて戦国時代の堺商人,呂宋(ルソン)助左衛門としましたね。この方は実在したのですか。
近藤さん ええ,鉄砲硝石の商人で,秀吉に屈しなかっただけでなく,ルソンを圧したイスパニアとも戦ったのですが,それ以外はわかっていません。
 「黄金の日々」では,庶民の立場から,日本経済の国際化という現実を感じ取ってもらえるように描きたかったのです。
 そこで,原作は経済の見地から城山三郎さんに依頼し,構想段階から脚本の市川森一さんとともに加わってもらいました。こうした方式は初めてでした。
 さらに,大河初の海外ロケをして,フィリピンの風物をバックに撮影しました。
○なるほど。大胆で,意欲的ですね。近藤さんの作品はいつもそうですが(笑)。よくあの当時のNHKが・・という感じですね(笑)。
近藤さん  きっと,上司(後にNHK会長となられた川口氏)に恵まれたのでしょうね(笑)。
○ 配役も衝撃的でしたね。当時の若手歌舞伎役者市川染五郎さんの採用も斬新でしたが,石川五右衛門が登場したのにはびっくりしたうえに,それがアングラ出身の根津甚八さんでした。善住坊という特異なキャラクターで最後は「善住坊を殺すな」の声が殺到したという役に,東映で長年切られ役をしていた川谷拓三さん。ふだん,どうやってアンテナを張られているのでしょうか。
近藤さん  それはもう,自分の持っている好奇心ですね。これと思うものは,今でもすぐ見に行きます。流行だけに限らず,本にしても,役者さんにしても,時代にしても,もう人間に関して,好奇心旺盛ですね。
○話はちょっと飛びますが,なかにし礼さんの,直木賞受賞作品「長崎ぶらぶら節」を,近藤さんは,00年に渡哲也さんと吉永小百合さん主演で映画化され,ヒットさせました。あの映画化権は,他社も殺到したと思いますが,よく取れましたね。
近藤さん  本が出てすぐ買って読み,すぐお願いに行きました。
 今の若いプロデューサーが僕に「ある著名な作家や脚本家に依頼したい」と言ってくることがあるのですが,なぜ,ふだんから自分と同じかもっと若い世代のいろんな光る人材を自分で見つけて一緒にやろうとしないのかな,と思います。
○そうすると,プロデューサーとして大切なのは,好奇心・・
近藤さん  そう,まず好奇心があって,次に,何を創るのか,何を見せるのか,を決めること。  とはいえ,プロデューサーの役目の中には,ロケ地の選定やお弁当の手配その他なんでも屋,よろず苦情処理係という時間も大きくあります。例えば,つぶれそうな家の前でロケしたいとき,直接言っては許してくれないでしょから(笑),それをオブラートにうまく表現してお願いしたりね。川口さんが僕をある人に紹介する時に,「こいつは誠心誠意,本当に誠心誠意をもって,人をだましていますから」(笑)と言っていましたけどね。誉め言葉だったらしいですよ(笑)。
○よくわかるような気がします(笑)。
 ところで,プロデューサーと言う職能は日本にはなかったようですね。
 それにもかかわらず,アメリカのように,自らの好奇心から企画し,あるいは原作を探し,資金,保険,役者,美術,ロケ地などをよろず手配し,そして配給収入の分配をするような,プロデューサーになろうとお考えになった?
近藤さん  そうですね。幼少の頃から家に「演芸画報」があって,欧米の事情はわりと知っていましたし,戦時中の中学・高校で映画を見て憲兵にこっぴどくやられたり,ただで見ていた方法がばれたりして(笑)停学になったりしていました。もう,こうなったらなるしかないと(笑)。
○近藤さんは,とても細身で上品のように見えて(笑),学習院大学で,とてもそのようには(笑)。
近藤さん  ようやく65年頃,NHKの中でラインとして出世していくのか,スタッフとしていくのかという時に,プロデューサーという職名を作ってもらって,スタッフとしていくことになりました。
○話を大河ドラマに戻しますが,さきほどの「黄金の日々」も”初ものづくし”(笑)でしたが,次の「獅子の時代」もでしたね。
近藤さん  「黄金の日々」は,とにかくこれまでとは違う内容なので,NHKや大河は初めてという人から,テレビ初出演の人まで,”初ものねらい”でしたね(笑)。
 ただ時代は初ものではなかったので,「獅子の時代」では,初めて明治を取り上げました。
 山田太一さんに,薩摩藩下級武士と会津藩下級武士という主人公を創ってもらい,庶民から見た,近代化の光と蔭を描きたかったのです。脚本家の書き下ろしというのも初めてでしたね。
○菅原文太さんがテレビに初出演されたのにも驚きました。
近藤さん  テレビに出ない最後の大物映画スターと言われていましたが,その圧倒的な存在感は素晴らしかったでしょ。その後,テレビでも大活躍されていますが。
○はい。
 そして3本目,「山河燃ゆ」。これは,初めて第2次世界対戦での日米戦争を背景としたものでしたね。
 当時の日米経済摩擦状況もあって,日系米国市民協会が「我々は一つの祖国に忠誠を尽くしている。」とし,新聞でも取り上げられ,テレビドラマが社会問題化したようなことがありました。
近藤さん  プロデューサーが,アメリカ大使館に行ったり,外務省に説明に行ったり,日系アメリカ人と話をしたり,今度は原作者と話したり,新聞に投稿したり・・。制作現場からずいぶん離れていた時期がありましたね。
○重い,暗いテーマでしたが,その割には視聴率20%以上だったとか。
近藤さん  そうでした。特に若者の大河離れが止まったような,現代に興味があるということがわかったような感じでした。大河は,有名な主人公を主役にした安定路線が主流なんですが,どうも僕は新機軸でやらないと気がすまないという感じですね。
○近藤さんは,もちろん,大河ドラマだけじゃなくて,単発ドラマから連続ドラマ,シリーズドラマ,例えば鶴田浩二さんを引っ張り出した,男たちの旅路,などでも,たくさんの賞と評判を得ています。
 テレビに出ないと公言していた,鶴田さんへの出演交渉も大変だったでしょう。ちょっとだけ・・
近藤さん  ええ。鶴田さんがイメージでしたから「鶴田さんがNGならやらない」と言って粘りました。
○NHK退職後も,民放,映画,演劇などをプロデュースされで,評判を上げ,賞を取られたりしておられますが,99年に受賞された芸術選奨・文部大臣賞のお祝いの会は,赤坂プリンスホテル・クリスタルパレスで開かれ,本当にさまざまな方がたくさん駆け付けておられました。  その御人脈の広さ,深さに驚きました。
近藤さん  NHK退職後,先輩面して仕事をもらいに行くのは嫌だったので本当に独立したと思えるまで1回も局内に入りませんでしたが,本当にいろいろな方にお世話になってきました。
○今後,法廷物はいかがですか。
近藤さん  興味も企画もありますが,今は難しいでしょう。陪審になればもう少し描きやすくなるかな。法廷物でも,それぞれの人生を描きたいと思っています。
○テレビドラマとして「死刑囚・永山則夫」を制作されたことがありますが,そのときの意図は?
近藤さん  永山個人へと,その母子関係への関心です。
○著作権や,著作権ビジネスなどについては,御関心がありますか。
近藤さん  勿論です。放映形態がさまざまに発展している中で,今後ますます,コンテンツをいかに持つかが大切になっています。  そして制作物の著作権をどのように保有するか,管理するかが大切ですね。今後制作プロダクションが生き残れるかどうかの分岐点になるかと思います。
○近藤さん御自身は,ドラマなどテレビをよく見られますか。お忙しいでしょうけれども。
近藤さん  ドラマは,ああ,ここ苦労しているな,とか思ってしまうのであまり長くは見ませんね。スポーツ,次にバラエティでしょうか。
○今年は,阪神が突っ走っていますね。(インタビュー時点で)
近藤さん  長年のファンなのですが,もう何度も途中でがっかりさせられていますから,今一番,軽い乗りでいられないのが阪神ファンでしょうねぇ(笑)。
○今日は,さまざまな興味あるお話を有難うございました。

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