○最近はどういうことにご関心をお持ちですか。
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大前さん |
日本の将来について関心があります。日本は大事なことを全て先延ばしにして,たくさんのものを失ってきました。
現在のシステムを維持しようとして無駄な労力と金を費やしすぎたと思います。このようなことをしていると,きっとどこかで破綻が生じると思います。 しかし,むしろ生じたほうがいいと思っています。何らかの形で明確な破綻のきざしが出てくるとむしろ日本の改革は早まると思うからです。
ここまで傷が深まるまでほうっておくのはまさに日本病だと思います。この日本病をみんなもう少し研究しなければならないでしょう。戦争も,本土が焼け焦げるまでやめませんでしたね。これと一緒です。
今の時代は金利もほとんどゼロで,年金も破綻してますね。ということは同時に我々の老後も破綻しているわけです。つまり日本は実質的に破綻国家になってきているのです。対処が早ければ,このようなことにはならずにすんだはずです。
この点について,私は早くから提言していました。日本という国は,危機が見えているのに,最悪の状態にまで自虐的に突っ込んでいくという性格がありますね。
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○最近は,もっと日本の弁護士も立法に関わらなければならないのではないかという問題意識を持つ人々が弁護士の中に増えていると思いますが,それについてどうお考えですか。
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大前さん |
今の日本の法律には明治以来のものがたくさん残っています。しかし,私は,法律の寿命は10年だと思っています。ですから,今ある法律を全部見直し,残すものと修正するものを分けなければならないと思います。
時代に合わなくなった法律がこれだけ多いのですから,法律の専門家である弁護士が厳しい批判精神,旺盛な知的好奇心を持って,法律を直さなければならないという危機感を持たなければならないし,早くそれにとりかからなければならないと思います。
ところが,弁護士は,今ある法律の解釈ばかりしていて,法律そのものが時代に適合しているのかということを考えていないように思います。
司法試験ほどの難関試験を突破してきた人々に批判精神が無くなっていることはこの国の不幸だと思います。やはり日本の弁護士は社会経験がないことが問題ですね。少し,世間からずれてしまっているように思います。
私はサイバー法(1998)を作るためにマレーシアの法律を全て見直しました。2年くらいかかりましたが,200以上の法律を書き直しました。このように白紙から法律を作り直すというところから始めないと日本という国はだめになると思うのです。
たとえば,弁護士会の中で分科会を作るなどして,時代にあわなくなった法律は役人にまかせずに自分達でドラフトを作るべきだと思います。
21世紀というサイバー社会になったのですから,明治時代から続いている法律は,一度法律の専門家である弁護士に全部書き直してもらいたいんです。これが私の弁護士に対する提言です。
本来弁護士を志した信念,志は一体何だったのかということをもう一度見つめなおして欲しいのです。間違った法律,時代に合わなくなった法律を解釈していくだけでいいのでしょうか。
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○若い弁護士に何か言いたいことはありますか?
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大前さん |
Family Lawyerという98ドルのCD-ROMがありますが,これからは,記憶して法律を覚えたくらいではCD-ROMに負けてしまいます。
困った人を助けるには,頭に法律を詰め込むだけではなく,法律を超えた,人間,社会に対する理解を持たなければならないと思います。
国家試験に受かったからといって一生食べていけると思ってはいけません。国家に頼ってだめになった企業,産業がたくさんありますね。弁護士も場合によってはそういう職業になりかねないと思います。
インターネットやCD-ROMに置き換えられないような,付加価値のつくサービスを提供できないのなら意味がなく,司法試験に受かった時点はまだ98ドルの価値がついたにすぎません。
弁護士はコンサルタントです。それぞれの状況に応じて様々なものを組み合わせ,個別の状況におけるアドバイスができなければなりません。自分にしか言えないことを言っていかなければならないのです。
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○本日はお忙しいところどうもありがとうございました。
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