○最近どんなことにご関心がありますか?
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宮崎さん |
地域文化を見つめることですね。例えばクローン人間は是か非か,ゲノムはどこまでビジネスにしてよいのか,等といった問題は,テクノロジーだけでは解決できません。背景の倫理,価値観,それを形成する土台の文化が大きく力を及ぼしています。
パレスチナやチェチェンといった紛争も,異なる「正義」がぶつかった結果でしょう。どちらの正義が正しいか殺し合いで決めるという虚しい行為から,人類はなかなか脱却できないでいます。
しかも,激しい時代の変化の中で,その文化そのもののアイデンティティーが世界的に揺らいでいます。そうした中で,ますます,足元の文化を見つめる大切さを思うのです。
私は今,2001年秋,奄美大島にできた県の文化施設の館長を承りまして,奄美通いをしております。地域文化の情報発信拠点「奄美パーク」と申しまして,いわゆる民族資料館と,日本のゴーギャンと称される孤高の日本画家,「田中一村の記念美術館」を中核施設としています。
奄美は,大島本島から加計呂摩,喜界,徳之島,沖永良部,与論に至る群島で,地政学的にも文化的にも琉球と薩摩の狭間で苦悩してきた歴史があります。
ウチナンチュでもヤマトンチュでもない,シマンチュとしての独自な文化をどう見つめ,どう守り,次の世代にどう引き継いでいくか,まさにアイデンティティーを見つめる場として奄美パークが機能するよう,目指しているところです。
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○弁護士のあり方についてどう思われますか。
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宮崎さん |
最近は,日常生活のレベルで弁護士が見えやすくなってきましたから,ブラックボックスの中で仕事をしているという意識は捨てられたほうがいいと思います。
また,国際比較も簡単にできるようになりましたよね。M&Aや司法取引などみんな知っていることだったりするじゃないですか。
そこでどのような「正義」の軸を貫くか。弁護士が,見える場面で活躍するのは,とても重要なことだと思います。まさに存在感を問われていると思います。
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○弁護士に対する要望はありますか?
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宮崎さん |
法で運営できる世界と,文化や家庭生活等のように決まりごとですまない世界があるということ,また,始めに条文ありきではなく人間が先にあるということを踏まえた上で,どの法を使えばいいか考えて欲しいと思います。
このところ法と社会の実態のずれがたくさん出てきていますよね。現場の目で,そうしたことをどんどん発言して欲しいです。
法が世の中に遅れたら意味が無いのです。税制,選挙のありかた,少年の取扱い方等いろんな分野があります。めまぐるしく変わっていく世の中に沿った法体系になるように現場で監視をして声を挙げて下さることが大事だと思います。
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○アメリカでは弁護士がもっと立法に関わっていて,弁護士資格を持った国会議員がたくさんいますが,日本はまだそこまでいっていないですね。
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宮崎さん |
そうですね。プロフェッショナルな集団が常に世の中を見つめて発言することは,とても大事なことだと思います。
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○今,現在されている大学での活動はどのようなものですか。
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宮崎さん |
政策情報学です。20世紀までの学問は,専門化,細分化されて,1つ1つは研ぎすまされたけれど,「木を見て森を見ず」というところがあったと思います。「森」がわしづかみで見えるような学問的な受け皿がなければ新しい時代の対応はできないであろうという考えから今学術会議等でもアカデミズムの再編が課題になっています。そこで,新しく作られたのが政策情報学です。
政策情報学部というのは日本では初めての学部です。物事に対するアプローチが様々な角度から行われ,斬新なことをすることが可能です。「政策」情報学と言っていますが,これは,公的機関の意思決定だけではなくて,企業でもいいし,個人のポリシーでもいいんです。意思決定全てが対象です。
私は「国際メディア論」や「情報と社会」等の授業を担当しています。今の研究対象は政策決定過程とメディア情報とのかかわりです。テロの前と後でメディアはどう変わったか等です。
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○今後はどういう活動をしていかれる予定ですか?
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宮崎さん |
このペースで自分なりのテーマを追いかけていきたいと思っています。今,学生のなかには,ベンチャーを立ち上げようと頑張っている人もいます。
高いところにあるものを取ろうとして手を伸ばしても届かない時に,踏み台を貸してあげるのが私達の役目です。代わりに取ってあげたのでは意味がありません。踏み台を貸してあげても,手を伸ばす努力をしない子は取れないのですから。
また,税制にも興味があります。企業にとっても個人にとっても現在の税制には非常に問題が多いと思います。まず分配の仕方に問題がありますね。今,世の中は行き詰まっていますが,税制を変えればこの国はかなり立ち直れると思います。 国家建設,社会建設というのはみんなでやるものです。政治家にまかせてばかりではいけないと思います。
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○本日はお忙しいところどうもありがとうございました。
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