シリーズ62


ソムリエ
田崎真也さん
と き:平成18年1月10日
ところ:田崎真也ワインサロン
聞き手:
東條正人会報広報委員会委員長   前田直哉司法修習生

 今回の「わたし」は1995年にソムリエ世界一となられた田崎真也さんです。ソムリエのサービスとはどのようなものかという点を中心にお聞きしました。法曹界に通ずるお話も多く,参考にさせていただきました。

○ソムリエの仕事とはどのようなものですか?
田崎さん  私どもの仕事ですが、プロフェッショナルとして、サービスを提供して代価をいただくということなのです。ソムリエというとワインを売る仕事と思われがちですが、たとえばお客様から「ワインがおいしかった」とほめていただいても、それはワインを造った人達の仕事がすばらしかったのです。私どもの仕事とすれば、そのワインを飲んでいただくという時間がすばらしかったと感じていただけるかどうかがポイントなのです。このワインをここで飲むとどうしてこんなにおいしく感ずるのだろうと思っていただけるかです。弁護士さんが、勉強したことそのものや六法全書を売るわけではないのと同じですね。
 ワインの知識やテイスティングというのはソムリエにとって基礎的なものにすぎず、私の一商品にすぎません。たしかに、ワインは知っているほうが、より愉しむことができます。ですが、やっかいな知識については私どもが勉強しておきますから、あとは楽しむだけに集中してくださいというように、「サービス」とはアシスタントのプロであるということだと思っています。
○田崎さんは1995年の世界ソムリエコンクールで1位になられましたね。
田崎さん  ソムリエのコンクールというのは筆記試験とブラインドテイスティングが重要ですが、それではソムリエの技能コンクールにすぎません。それは基礎的な部分で、加えてソムリエのサービス業としての本質を理解するための課題のほうがむしろ重要なのです。フィギュアスケートの美術点みたいなものでしょうか。世界各国の審査員が、選手についてこのソムリエをサービスマンとして雇った場合にどうだろうかということを、実技試験の中で審査するわけです。基本的には世界各国に通ずるサービスでなければなりません。そのために語学が必要で、母国語以外での受験が条件となります。テイスティングでは1年間に1万アイテム以上をこなします。そのために外国に行って試飲しなければなりませんし、知識面で資料がなければ外国から取り寄せ、それを翻訳して学習するわけです。10年間はそのようなトレーニングを重ねました。
○1万アイテム毎年飲むことで、それらのワインがどこのどんなワインか分かるようになるのでしょうか。
田崎さん  分かるようにならないですね(笑)。世界中には500万アイテムのワインがあるといわれます。しかも同時期に存在するわけで、もし飲んだというなら同じ日に同じ場所で500万アイテム並べてテイスティングするほかないのです。結局、頭の中でデータを整理できるかですね。その意味で数(かず)飲めばいいというわけでもないのです。記憶をして整理して引き出しを作ってデータを引き出しやすいようにするわけです。たとえば1本ある地域のワインを飲んだとします。そのワインをデータ化して頭の中にインプットする。そして、2本目その地域の別のワインを飲んだとします。1本目との共通項があればそれをインプットします。そのようにして徐々にいろいろな個性や共通項が分かっていくようになるのですね。
○接客業として一番気を使うことは何ですか。
田崎さん  お客様に快い時間を過ごしていただくためにも、お客様の情報の把握に努めることですね。たとえば料亭で、一見さんお断りというところもありますよね。横柄なイメージを持たれる方もいるかもしれないけど、情報をもらってこそ、初めて受け入れることのできるいいサービスをしたいから生まれたスタイルなのですね。ご紹介をいただいて初めて十分なサービスができるというわけなのです。
 逆に、ホテルやレストランにとって、常連さんよりも初めてのお客様のほうが数的にははるかに多いわけです。まったくそのお客様の情報がないなかで、この初めてのお客様がどのようにして常連客になっていただけるかが大事なのですね。往々にして、常連客は経験者が、初めてのお客様は見習いや新人が接客するというスタイルがありがちですが、それではだめですね。初めて見えられるお客様に確実に常連客になっていただくというのは、まず見習いではできない仕事です。プロフェッショナルとしての勘・経験、チャンスを物にできるタイミングの使い方ができる人が応対しなければなりません。
○話は変わりますが、田崎さんはロケとかで旅行に出られることが多いと思います。私たち弁護士もいろいろな大会などで旅行が多いのですが、旅先でいいお店を探すこつ、ありますか。
田崎さん  いいお店であること自体は当然必要ですが、それと同時にお客の側からお店に対し、いい客だなと思われることも第2に大切ですね。この人に本当においしいものを出してあげたいと思うと出てくるものが違ってくるものです。その意味で、この店に来て本当においしいものを食べたいという意思表示を客側からすることも大切です。そのほかは、看板や店構えで決めますね。メニューに情熱を感ずるかもあります。印刷されたメニューを貼り出しているところにはまず入りません。食べ物には旬がありますし、日々、おいしいものは変わるわけですし。また、玄関回りが汚いところには入りません。玄関とはお客様が心地よく入ってくるところなのに、ビール瓶が積んであるとか。また、お店に入ったときにカウンター内のご主人が、こちらの顔を見て「いらっしゃいませ、ようこそ」という顔をしてくれるかもポイントです。座っていたり、職場のなかでたばこを吸ってるようならだめですね。そんなときは中に入らず引き揚げます。
○なるほど参考になりました。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
前田修習生  分厚い本をかばんから出して・・。「すみません、これにサインをいただきたいのですが」
田崎さん  「あはは、僕もいろいろなものにサインをしてきたけど、六法全書にサインをするのは初めてだなあ」(一同、笑)。




シリーズ一覧に戻る >>