シリーズ65


お笑い法廷ウオッチャー
阿曽山大噴火さん
と き 平成18年6月30日
ところ 関弁連会議室 弁護士会館14階
聞き手:
会報広報委員会副委員長   鈴木周

 今回の「私」は、お笑い法廷ウォッチャーの阿曽山大噴火さんです。
 阿曽山さんは、昭和49年山形県米沢市で生まれ、千代田工科芸術専門学校を卒業後、テレビ局のADを経て、平成9年、お笑いの名門大川興業に入られました。大川興業に入ってからは、若手芸人としてテレビ、Vシネマ等で活躍する一方で、連日のように東京地裁に通い詰め、熱心に法廷傍聴をされ、それをネタに裁判ライブを行っています。日本で唯一のプロのお笑い法廷ウォッチャーです。
 2004年には、河出書房から、「裁判大噴火」を出版され一部の弁護士に衝撃を与えたほか、現在では雑誌や新聞で5本の記事を連載し、またTBSラジオ「ストリーム」でも裁判ネタで人気を博しておられます。東京地裁の一階ロビーで、公判開廷予定表を見ながら熱心にメモを取っている、ヒゲにスカート姿の一見怪しい男性を見かけた方も多いと思いますが、それが阿曽山さんです。

○はじめまして、「裁判大噴火」読みました。面白いですねえ。特に、サイパン旅行ならぬ「サイバン旅行松本編」の司法博物館の下りが。本の表紙にもなってますね。
阿曽山さん そうそう、どういうわけかプロの人はそこに食いつくんですよね。素人さんは、裁判の中味の話を読んで「ここが面白かった」とか言うのに、どうしてでしょうね。
○私も一昨年、松本に行くついでがあって、車で走っていたら「司法博物館ここ入る→」とか書いてあるので、気になってずーっと入っていったら、いつまでたっても着かないんですよ。そのうち、どこかの中学校に突き当たって諦めたんですけど。
阿曽山さん あそこは、全然有名じゃないようですよ。私も松本駅からタクシーに乗って「司法博物館」って言ったら、「いやー、お客さん、ワタシ随分長く運転手やってて観光地ならどこでも行けるんだけど、司法博物館は初めて聞きましたワ」とか言われましたよ(笑)。まあ、行ってみるとラジカセでおばあちゃんのアナウンスが流れてたりして、力の抜ける内容ではありましたが。
○私もそれを読んで、ああ行かなくてよかったと思いました。
ちなみにこの本はどこでも売ってるんでしょうか。
阿曽山さん 大きい書店ならだいたい売ってますね。なのに裁判所地下にも弁護士会地下にも売ってないんですよ! 純然たる司法関連本なのに、ひどい話です(笑)。今でもライブをやると持っていった分は完売するんですが、書店での売れ行きはあまり芳しくなくて、初版の7000部がまだはけてません。もっと弁護士さんみたいなプロの人も読んで下さいと言いたいです。
○わかりました。ちゃんと写真を載せときます。
それで、そもそも阿曽山さんはどうして法廷ウォッチャーになられたのですか。
阿曽山さん 私が大川興業に入ったときに、丁度オウム裁判があって、大川総裁に言われて若手芸人が傍聴席取るための抽選に並んだんですよ。それで10人中4人くらいが当選したんですが、総裁が「じゃ、お前は坊主頭だから傍聴しろ」とかワケわかんない理由で傍聴させられたんです。正直イヤイヤだったんですが、見てみると、これが非常に面白かった。別に笑えるわけじゃないんですが、悲喜こもごもの人間ドラマとして、こんなに面白いものがあったのかって、いっぺんに目覚めてしまいました。
○以来、熱心に法廷傍聴をして、ご自分のライブや執筆活動に活用しているのですね。
阿曽山さん そうです。特にほかの用事がない限り、東京地裁には毎日通っています。通勤定期も持っています(笑)。そうしないとネタがもたないんですよ。毎週水曜日に翌週の予定が発表されるのですが、それを見て、どの事件を見るかタイムスケジュールを組んで、効率よく回れるようにしています。
○今日はなにかいい裁判がありましたか。
阿曽山さん ありましたありました! 窃盗の事件です。その被告人は神田で古本盗んで、よそで売って生計を立てている人だったんですが、あるとき本じゃなくて運良く寺山修司の生原稿を盗めたらしいんですよ。「密通チェス」とかいう作品で、45万円くらいするらしいんです。でも、どこも「いやー、ウチは生原稿扱ってないんだよね。」とか言われて買ってくれなかったんですって。それで、「うーむ、やっぱり価値のわかる人のところにもって行かなきゃダメだな。」って思って、あろうことか翌朝一番に、原稿盗んだその店に売りに行ちゃって、あえなく御用になったっていう事件に巡りあいました。
○あはははは! それすごく面白いですねえ。
阿曽山さん でしょう? こんなの限りなく自首に近いですよね。毎日通っていると週に一つくらいはこういう上ネタが見つかるんです。やっぱり刑事裁判は基本的に失敗談ですからね、お笑い向けの事件も多いのです。もちろん、深刻な事情のある事件もあるから、ライブのネタに使えるのをセレクトしてお客さんに笑って貰うのです。
○なるほど、それは面白そうですね。今度是非見に行きます。
しかし、毎日の法廷傍聴が仕事ということになると、昼間他の仕事ができないわけですから、失礼ながらプロとして生計を立てるのは結構大変なのではないですか。
阿曽山さん そりゃもう大変です。法廷傍聴の時間をバイトに向けられたら随分楽になりますが、これが仕事ですからそういうわけにも行きません。今は友人の部屋に居候していますからなんとかやっていますが、自分で部屋を借りたらカツカツになるでしょうね。
○なるほど。まあ傍聴はお金がかからないし、お昼なんかも地下食で食べれば安いですから、そういった意味ではあんまり経費はかからないですしね。
阿曽山さん えー? 裁判所の地下食は、とくに値段も安くないし、味もそんなによくないですよ。今日は、サラダ取り放題の日だったので随分よかったですけど、これもいつもというわけではないですから。
○サラダ取り放題なんて、やっぱり地下食を愛用してるんじゃないですか(笑)。あれも昔に比べると随分よくなったんですよ。
阿曽山さん まあ、そうは言っても、地下食bPは農水省じゃないですか。味、値段、量とも高いレベルでまとまっています。実は、私は、官庁や大学の食堂めぐりもやっていて、以前「霞ヶ関食通無宿」という特集記事を書いた事もありますよ。
○「霞ヶ関食通無宿」ですか! それは魅力的ですね。是非拝見したいところです。
阿曽山さん いやあ、もう廃刊になった「GAG BANK」という雑誌の記事だったので、ちょっと入手は難しいのではないですかね。
○そうですか、それは大変残念です。
そういえば、2009年から裁判員制度が導入されますよね。阿曽山さんなんて非常に興味がおありなんじゃないんですか。
阿曽山さん そりゃもう、裁判員制度については激しく興味があります。裁判員制度のシンポジウムなんかにも積極的に参加しています。知識量では日本でも3本の指に入る自信があります! 裁判員制度が導入されて、量刑なんかの傾向がどのように変化していくのか、とても興味がありますね。裁判官も単独事件は、裁判員4人を相手にするわけじゃないですか、意見が対立したときにどうやって説得するのかなとか、じゃあオレだったらどうやって裁判官に意見しようとか、今からワクワクしますよ。
○いや、そんなに勉強されていたんですか。私はちょっと勉強不足で…。
阿曽山さん 何言ってるんですか、検察庁なんて裁判員制度を見据えて、こないだから起訴状とか冒陳を口頭化しましたよ。
○えー? それは知らなかった。そうなんですか。
阿曽山さん そう、ちょうど口頭化を試験的に導入した裁判の傍聴をしてたんですが、傍聴席にはズラーッと検察官が座って見学してましたよ。それで公判検事が、裁判所ほっといて、傍聴席の方を向いて、「いや、皆さん、この事件はね、スナックで泥酔した被告人が、女のお客さんの髪掴んで引きずって叩きつけたっていう、ホントにもうひどい事件なんですよ!」なんてアピールしてましたよ(笑)。傍聴席で、同業者の検察官が、「フムフム」なんて皆でうなずいてましたね。
○そうですか。そうすると弁護士も裁判員にアピールするための方法を考えないといけませんね。いろいろセミナーとか研修も開催されているようではありますが。
阿曽山さん これは裁判員制度の導入に関わらない話ですが、私個人としては、弁護人は弁論のときに求刑を具体的に言うべきだと思いますね。まあ弁護士が言うので正確には求刑というかどうかわかりませんが、検察官が力強く「5年!」とか言ってるのに、弁護人が「ご寛大な判決を…」では、ズルッと力が抜ける感じですよ(笑)。やっぱり印象付けは大事ですから、具体的に「私は何年が適切だと思う。」というのをしっかり言うべきだと思いますね。裁判員制度が導入されたら随分違うと思いますよ。
○なるほど、毎日傍聴されている方ならではのご意見ですね。そんなこと考えたこともなかったです。
それじゃ、再来年の秋に作成される裁判員名簿に載るといいですね。
阿曽山さん と思っているのですが、そのためには来年中に家を探さないとダメなのです…
○毎日一生懸命法廷傍聴して、沢山ライブやってお金を稼ぐんですよ!
阿曽山さん アルバイトした方が効率いいような気もしますが(笑)、頑張ります。
○これからも頑張って下さい。本日はどうもありがとうございました。




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