○ うわっ、すごい、社長室にキティちゃんが座ってる。しかも、なんか難しそうな経営戦略の本を読んでますよ(笑)。 |
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A |
まあ、キティはウチの稼ぎ頭ですからね、社長がいないときはいつも社長の代わりに社長の椅子に座ってるんですよ(笑)。 |
○ あはは、そうなんですか。それにしても、こちら、チャーミーキティというんですか、キティちゃんにそっくりですね。 |
A |
ああ、これは、キティのペットですよ。 |
○ ええっ? キティちゃんがペットを飼ってるとは、なにやら矛盾を感じますが…。 |
A |
いいんです! キティは擬人化されたキャラですから、ネコのペットがいても少しもおかしくないんです。 |
○ ううむ、そういうものですか。それじゃ、キティちゃんを入れて表紙の写真を取りますから、皆さんも入ってください。 |
A |
それはダメです。我々は偽物ハンターとして、常に世界を飛び回っているので、面が割れると仕事にならないのです。大変危険ですし。 |
○ そ、そうですか。すみません。気がつきませんでした。
ところで、サンリオさんは、当初は山梨シルクセンターという会社からスタートしたんですよね。シルク製品販売の会社だと思うのですが、それがどうしてキャラクタービジネスに特化されるようになったのでしょう。 |
A |
そうですね、確かに、シルクセンターは現社長の辻が山梨県の職員を退職して、県特産のシルクを販売するために東京で設立した会社です。でも、シルク自体は売れゆきが芳しくなかったようで、そのうち小物雑貨の販売も始めたのですね。そのとき、花柄をつけたゴム草履が大変に売れたことで、「これだ!」とキャラクタービジネスに目覚めたそうです。それで62年に初のオリジナルキャラクターの「いちご」を開発して、グッズ販売を行うようになったのです。今でも、サンリオの新聞は「いちご新聞」と言って、社長が「いちごの王様」としてメッセージをつけてファンに配布しているのですよ。 |
○ ああ、なるほど、いちごが書いてあります。社長自らもキャラクターになっているのですね。もうすぐ80歳になられるとのことですが、さすがのバイタリティーです。ところで、キティちゃんは、もう35年もの間活躍している息の長いキャラクターですが、サンリオさんには、どのくらいの種類のキャラクターがいるのでしょうか。 |
A |
大体400くらいですかね…、常時活躍しているのは十いくつですが。 |
○ 400もいるのですか! 私が知っているのは、シナモロールに、バツ丸に、あと大昔タキシードサムが好きだったのですが、400はとても出てきません。大半の読者もそんなところじゃないでしょうか。 |
A |
時代によって人気は変遷しますからね。キャラにもサイクルがあるのです。例えば、「けろけろけろっぴ」だって「みんなのたあ坊」だって「おさるのもんきち」だっていたでしょう。実際、人気投票をやっても、キティは上位5傑に入るかどうかという位で、トップはその時代の流行のキャラクターになることが多いですよ。90年代は「けろっぴ」がすごく人気ありました。 |
○ そういえば「けろっぴ」いましたね…厳しい世界なんですね。そうやって時代にあったキャラクターのグッズ販売が中心になるわけですが、グッズは自社製品やライセンス生産を含めると、何点くらいになるのですか。 |
A |
そうですね、5万アイテムくらいですか。何から何まで揃っていますから、グッズだけで生活できますよ(笑)。注文生産ですが「キティの家」という家も販売していますし。ないのは生鮮食料品くらいですか。 |
○ ううむ、本当にすごいですね。家まで売ってるんですか。
グッズではなくて、ピューロランドみたいなテーマパークは、全体の売上にはどの程度貢献しているのでしょうか。 |
A |
テーマパークは、売上構成比の0.1%くらいです。こちらは独立採算でやってくれればよいという感じで、広告塔としての役割が大きいですね。テレビ番組の録画もしていますし。やはり、圧倒的にグッズ販売の割合が大きいですよ。グリーディングカード事業も日本ではダントツのシェア第1位ですが、それでも売上の15%程度ですから。 |
○ 私も、こないだ姪っ子のお土産にシナモロールのショルダーとぬいぐるみを買って帰りました。こういった子供向けグッズの需要が中心になるのでしょうか。 |
A |
そうですね。おっしゃるとおり日本では子供向けの単価数千円というあたりがメインターゲットです。ただ、海外では、どちらかと言うと、15歳くらいから30代のヤングアダルトがファッションの一環として購入するとう傾向が強いですね。この間も、銀座で中国の方が100万円もグッズを購入されたのですが、この方は業者ではなくて、「自分が好きなので買って帰る」と言っておられましたよ。これにはビックリしました。 |
○ それはすごい。中国の経済発展は目覚しいですね。海外の市場では、やはりアジアが中心になるのですか。 |
A |
いや、ヨーロッパも多いですよ。フランス、イタリア、ドイツなんかでは大変人気がありますね。アニメとかフィギュアもそうですが、日本のカルチャーに対する関心度が非常に高まっていて、キティはその象徴として捉えられています。そのために80年代にドイツに子会社を設立しています。また、西ヨーロッパで流行しているということで、東欧でも人気が出てグッズの売れゆきが激増していますね。 |
○ 東欧というと、チェコとかハンガリーとかですか。意外な感じですね。それだけキティちゃんというキャラが、普遍性があるというか、ユニバーサルデザインなのでしょうね。 |
A |
そういうことだと思います。欧米、アジア、南米といった、世界中の企業から使用許諾の申し込みがあって、ライセンス付与の判断だけでも大変な作業量です。 |
○ それで、海外に広がれば広がるほど、知的所有権関係の事件、要するに偽物とか盗作とかの問題も多発してくると思うのですが、どのような体制で対応されているのでしょうか。 |
A |
大きく分けると2つですね。まず、海外の各国の行政機関に取り締まりをしてもらう方法。例えば中国では3つの機関、日本で言えば文化庁、経産省、公取委にあたるのですが、それぞれどこに頼んでも取り締まりをしてくれることになっています。これが年間100件くらいですね。他社さんがコストの問題もあって大体年間10件くらいですから、かなり多いほうと言えるでしょう。 |
○ ですが、中国の行政機関なんて、言ってもなかなか動いてくれないんじゃないですか。知的所有権の理解も進んでなそうですし。 |
A |
いや、そうでもないですよ。我々は現地まで行って、偽物ハンターとして、それこそ路地裏なんかを回って、違反を現認したうえで当局と直接交渉してますから。当局も、それこそ夜中の3時くらいまで取り締まりをしてくれたり、900とか1000の単位の商品でも押えてくれたり、よくやってくれています。これは法務担当者が現地まで行って熱心にやるからできることで、日本で担当部門が現地スタッフにあれこれ指示を出すような企業では難しいかも知れません。なにしろ、中国には合計100回は行ってますから(笑)。もちろん、我々だけでは限界がありますので、調査会社も雇って常に監視の目を光らせています。 |
○ しかし、精巧な偽物を作られたら、現地に行って市場を回ってもなかなか分からなかったりするのではないですか。 |
A |
分かります。我々はプロですから(笑)。キティは独自の世界観を持っていますので、偽物の近くを通りかかると、「むむ、なにかおかしい」と引っかかるんですよ。例えば、先ほど言ったようにキティは擬人化されたキャラですから、2人いっぺんにグッズに登場することはないのです。それが、ひとつのグッズに2人プリントされていたら、それはおかしいわけで、ピンとくるのです。 |
○ なるほど、深い世界ですね。
現地の行政の取り締まりのほかには、どんな方法があるのでしょう。 |
A |
税関による水際の検査です。毎日、世界中の税関から「偽物発見」という情報が飛び込んできますから、その都度確認して処分してもらっています。これは東京に集約してやっていますが、何しろ全世界の税関ですから24時間体制で、日本にいながら毎日海外旅行気分ですよ(笑)。 |
○ 知財案件ですから、違反業者に向けた警告の発送も数多く行っておられるわけですよね。これらは法律事務所に依頼しているのですか。 |
A |
そうです。そして、それらのコントロールは、東京の法務室で一括してやっていまず。大体、年間1000件以上は警告書を出していますね。ただ、反応はなかなか芳しくなくて、中国で言うと上海あたりは「すみませんでした」と回答がありますが、広州なんかは全くのシカトが普通ですね。まだまだ、知財に関する遵法意識が浸透していないようです。」もちろん、悪質な事例では国内外問わず法的手段に訴えるわけですが、その時は弁護士の先生と我々で一緒にやることになります。 |
○ 知財関係で言うと、偽物生産と販売だけではなくて、無断使用の問題も大きいわけですよね。例えば、先日、タイの警察が、懲罰のためにキティちゃんの腕章を貼らせるというのが話題になりましたが、あれにはどう対応されたのでしょうか。どうも無断使用だったようですが。 |
A |
問題発覚時にすぐ書簡を送付して使用の中止を求め、口頭でも連絡しました。「法を守る立場の人がなんですか」っていう感じで(笑)。ただ、どうもブラックジョークの類の話だったらしく、国内でも不謹慎だという声が多くて、書簡が届く前に自主的に中止にしていたので、当方も事を荒立てずにそのまま収束しています。 |
○ ああ、そうだったんですか。やはり懲罰でキティちゃんつけるというのもどうかと思いますからね。では、「ディズニーランドは遠すぎる」で有名な北京の石景山遊楽園はどう対応されたのでしょうか。私もニュースで見てビックリしましたが、これひどいですよねえ(笑)。なんでも独自に作ったニューキャラだそうですよ。 |
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A |
石景山の場合はですね…日本のテレビ等で報道されたあと、相手もさすがに国営のため知財法違反もまずいと思ったのか、自主的に使用を止めたようです。もちろん、当社も警告書を送り、侵害行為を止めるよう要請はしましたが…。今は、サンリオのキャラクターを真似したものは止めているようですが、テレビで見る限り、新しいキャラクターは他社のキャラクターにどことなく似ているような気がするんですが…。 |
○ ははは、全然懲りてないんですねえ。逞しいというか。 |
A |
でもさっきも言いましたが、中国も随分よくなりました。この10年で知財に関しては急速に意識の改革が進んできたと思います。まあ、まだまだ広州なんかでは、偽物の卸業者の集まったビルの中に取締の当局があったなんていう、ウソみたいな実話もありますが(笑)。丁度、20年ぐらい前の日本と同じくらいのレベルじゃないでしょうか。これからどんどん変わっていくと思いますよ。 |
○ 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。これからも世界を股にかけたご活躍を期待しております。 |
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