シリーズ95


俳優
六角精児さん
と き:平成22年1月19日
ところ:日本青年館
コーディネーター:第一東京弁護士会 池内稚利弁護士
インタビュアー:会報広報委員会委員長 東條正人

 今回の「わたし」は,俳優の六角精児さんです。六角さんは,テレビドラマの「電車男」の阪神ファンの牛島役,「相棒」シリーズの鑑識・米沢守役,最近では「傍聴マニア」の山さん役など,味わいのある演技をされている方です。この日はなんと宝塚歌劇団による「相棒」が上演されている日本青年館で観劇前にインタビューをさせていただきました。

○俳優を志したきっかけはどのようなことからですか。
六角さん  現在,劇団扉座という団体に所属していますが,高校の先輩が劇団をやると言ったので一緒に始めました。きちんと就職しようと大学にも入ったのですが,世間一般の遊びを覚えてしまったことや体育の単位が取れなかったために進級できなかったのです。そのころ,小劇団の登竜門である紀伊国屋ホールに出演することができるようになったことがあって,この仕事をしてみようかと思い,大学は辞めました。ただし,18才で劇団員になって,まともなギャラをもらえるようになったのは10年経ってからです。劇団で生き残るのは難しいです。劇団だけで食べていけるのは劇団四季と劇団新感線くらいじゃないでしょうか。下北沢の6畳一間で時にはガスや電気も止められたりしながら,アルバイトで食いつないできました。
○劇団を続けてこられて感じることはありますか。
六角さん  やはり人間のつながりで生かされているような気がします。どういう劇団に入ったか,どういう事務所に入ったか,どういう人に会えるかという運,出会いの運で生かされている気がします。高校のとき一つ年上の横内謙介氏(現扉座主宰,劇作家・演出家)に出会い,卒業後,劇団を旗揚げしました。彼は岸田国士戯曲賞を受賞した作家なのですが,彼のおかげで様々な作品に携わることができ,テレビ局に注目されたりして,あいつおもしろいなと思ってもらえる出演機会をいただくことができました。一人の力で何かをやってきたわけではありません。
○さて,六角さんは最近まで「傍聴マニア」というドラマに出演されていましたね。
六角さん  はい。実はこの作品の原作(北尾トロさん「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」)を読んでおり,面白いなと思っていたのです。出演依頼が来たときに,やらせていただきたいと思った作品の一つです。
○実際の裁判も傍聴されたそうですね。
六角さん  このドラマに出るためということもあったのですが,そのリアルさには驚きました。テレビドラマではなく,実際に罪を犯した人や裁く人が実際そこにいるということにです。
○傍聴席から見て法曹三者はどのように見えましたか。
六角さん  検察官も弁護士も犯罪に至った理由などを違った角度の見方で説いていく感じですごいなあと思いました。双方とも傍聴席の気持ちみたいなものを巻き込もうとしているような気がしました。たとえば検察官が被告人の一番よくなかったところを言い出すタイミングはかなり劇的で,裁判官に語っているのですが,傍聴席の気持ちをフィードバックさせて裁判官にまとめて持っていくような感じを受けました。傍聴人たちもマニアの人たちはメモを取ったりして積極的に来ている人たちですから,巻き込みやすいし,巻き込まれやすいのだと思います。この人たちはこのメモを通じて,自分達は何を見出そうとしているのか不明だったのですが・・・(笑)。
○その点ですが,傍聴マニアの最終話で六角さんのセリフの中に「下世話といわれる傍聴のその先にあるものを,お前見て来い」と主人公に語るシーンがありますね。
六角さん  このセリフは,主人公が裁判員に選ばれた時に言うセリフでした。今までの傍聴の経験を最大限に生かし,積極的かつ冷静に裁判に参加してこい,と言う意味の言葉です。決めゼリフでしたね(笑)。
○傍聴人ではなく,六角さんが,ご自身で裁判員になったとしたら,どうでしょうか。
六角さん  たしかに犯罪を犯したことはよくないとは思うんですけれども,犯した人の人生を考えたり,そうなるにはいろいろな理由があると思ったときに,たぶん私は確実に温情のある見方をしてしまうと思います。
 逆に言うとだからこそ検察が必要なんだと思いました。実際に傍聴をするまで,私は検察というのはなぜそこにいるのか分からなかったのです。あの感情を無視した冷血な物言いで,人間の傷口をついてくる,そこまでして言うことがその人にとってなんで必要なのか分からなかった。しかし,私自身が弱い人間だし,犯罪を犯した人のその先にあることを考えたら必ず優しく考えてしまうと思ったとき,厳しくするという存在や罪の事実みたいなものを何のフィルターも通さず直接伝える役目の人は必要だと思いました。
○弁護士についてはどのように思われましたか。
六角さん  やはり被告人の実情を十分に解く立場の人として必要なんじゃないでしょうか。
 犯罪を犯した人の生きてきたいろいろな系図,経験,周りの環境,教育を十分に受けられなかったとか,つらい思いしかしてこなかった人のものの考え方がこんなふうに変わってきてしまった,それでこういう罪を犯してしまった。その罪については事情があった。人間,突然犯罪を犯すはずはないので,誰かがそれを解いて欲しいと思います。
 そのような人間の人情としての仕事がないと世の中また世界全体がきっともっと悪くなると思います。たとえば会社の中で自分のやったことを認めてもらえない人がいるとして,そのことをなんとなく分かるよという人がいるのといないのとでは,その人が会社の中で生きていく張り合いみたいなものが違ってくると思うのです。
 判決はともかく,自分にまじめに向き合ってくれたということに感謝されるということもあるんじゃないでしょうか。吉村昭さんの小説で,網走監獄を何度か脱走をした男がいて,破獄して,優しかった看守のところに会いに行ってるんですよ。それは優しくされたという記憶が残っているからなんですね。
 分かってもらえるというのはすごく大きいですから,裁判で弁護士さんに会って自分自身のことに気づく人がいるかもしれない。気がついて,俺はこんなことをしてしまったんだなと思ったときに罪を受け入れる気持ちになるかもしれない。そういう意味では,弁護士さんというのは人の心を柔らかくする職業であると僕は思います。
 正直,再犯するにしても悪いことをしているんだという認識を持っている人がどれだけいるか分からないし,公表されている再犯率とか見ると私達が思っているよりも少ないかもしれないと思うのです。それが弁護士さんから話を聞いて自分は悪いことをしたんだと思うようになるというのは大切な事ですよね。社会に自分を分かってくれる人が何人いるかというのがすごく分からない。そういうときに裁判のときに必ず側にそういう人が一人いるというのはとても大切だと思います。人間,そう簡単に変われるものではないので,弁護士さんの手間や労力がそうたやすく報われるとは思いませんが,頑張って頂きたいと思います。
○弁護士の原点に立ち返るようなお話をありがとうございます。さて,裁判官についてはどうですか。
六角さん  検察官や弁護士以上にキャラクターが出るなと思いました。被告人に投げかける言葉で,その人がどんな人なのか垣間見えるし,想像が広がります。年配の裁判官はなにかしら人生経験のせいでしょうか,ものの考え方に柔軟性があるなとか。それと,裁判官は聞く仕事の中にある「間合い」を感じますね。攻めて行く仕事の「間合い」ではない。
 ただ,聞く仕事にせよ,判断をする仕事にせよ,とても大変なことだと思うのです。私が出演している「相棒」のなかで,裁判長のせりふに「あなた方は判決を下す苦味を知らない。」というのがあるのですが,死刑とか重い犯罪であればあるほど厳しいのだと思います。ただ,今回それを裁判員がやるようになるわけですから・・・。それが一般の人に向けられるというのはどうなんでしょうね。裁判員の人生すら左右してしまうような。なんであんな重い判断を一般人にやらせるのかと思います。
○たしかに過酷ですね。さて,今後テレビドラマに出演されて,法曹三者のうちのどれを演じたいですか。
六角さん  う〜ん,やはり弁護士ですかね。なんでこの人はこうなってしまったのかというのを自分を通して説いてみたい。裁判官は難しそうだし,検察官だと僕の物言いではかなり練習しないとならない(笑)。テレビはセリフの練習時間短いですからね。
六角さんのマネージャー  被告人役のほうが多いかもしれないですけどね。
六角さん  余計なことを言わないように(笑)。
○最後に,今後のお仕事についてどのように思われていますか。
六角さん  自分たちが俳優として人を演じる時,本当にその職業をされている方たちのつらさや喜びみたいなものは確実にあるわけで,そういうのを抜きには語れないと思いますし,それを単純に面白おかしく見せることはできないと思います。つらさのなかの喜びや喜びの中にある苦労とか,持っているものをできる限り自分の中に少しでも知っておきながらやっていく作業なんだろうなと思います。自分が面白いと思われるよりもその職業の事やそれに携わる人達の事が分かってもらえたほうがいいですね。
 これは,一緒にお芝居をしていて相手役が良く見えたら自分がうれしいなあと思ったりするのと同じなんです。
○本日はありがとうございました。





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