平成12年度
    「犯罪被害者支援と弁護士・弁護士会の役割」


あ ら ま し

  シンポジウムは,2000年9月22日午前9時30分から千葉市美浜区の幕張プリンスホテル「プリンスホール」において,500名を超える参加者のもと開催された。
  松本新太郎シンポジウム委員会委員長の開会の辞で開始されたシンポジウムは,前半は「調査結果の報告」,後半は「対談と討論」で構成された。

  司会は,中根洋一委員(東弁)と鈴木牧子委員(千葉県)が担当した。 調査・研究結果を発表 前半は,シンポジウム委員が各10分間ずつ,4つの事項について調査・研究のエッセンスを報告した。

 堀内寿人委員(山梨県)は,「犯罪被害者のおかれている実情」について,アンケート結果に基づいて報告し,弁護士の支援を求める被害者の声を紹介すると共に弁護士による二次被害発生の危険性も指摘した。

 黒岩海映委員(二弁)佐藤恒史委員(千葉県)は,スライドを使いながら,アメリカにおいて犯罪発生直後から加害者の服役・出所までの間になされる官民の各種団体の被害者支援制度やストーカー犯罪に効果的とされる保護命令の制度などについて説明した。酒井宏幸委員(長野県)は,やはりスライドを使いながら,ドイツにおける民間支援組織「白い環」やイギリスの「証人サービス」制度についての視察結果を報告したが,被害者に経済的援助を行う「白い環」の活動は,財源の点も含めて興味深いものであった。

 最後に,蓬田勝美委員(栃木県)と渡辺寛之委員(千葉県)が,問答形式で各地で奮闘する弁護士会の支援活動の実情を紹介した。 これらの詳細は,シンポジウム報告書を参照頂きたい(関弁連事務局に余部あり)。

 対談と討論 後半は,「対談と討論」であったが,先ず桶川事件の被害者の遺族である猪野憲一氏と中根洋一委員の対談から始められた。 冒頭,桶川事件の概要についてナレーションによる紹介がなされ,次いで中根委員の質問に答える形で猪野氏から被害の実情が生々しく語られた。

 猪野氏は,事件前に加害者のストーカー行為が繰り返される中で救いを求めた警察の対応の不適切さ,事件発生直後のマスコミの取材攻勢による惨状,弁護士に依頼して取材攻勢が即時に改善されたこと,法廷傍聴の問題点(「被害者としては,傍聴席ではなくバーの内側―検察官・弁護人・被告人のいるエリアの意―で裁判に参加したい」という言葉が印象的であった),被害者の自助組織の意味と役割などについて述べたが,その落ち着いた口調が,むしろ氏の深い悲しみを印象づけた。会場には,猪野夫人も参加していたが,予定外ではあったが司会の求めに応じて現在の心境を語り,参加者からは期せずして励ましの拍手がおくられた。

 その後の討論は,コメンテイターとして,諸沢英道常磐大学学長・白井孝一弁護士(静岡県)・高井康行委員(一弁)の3名に猪野氏にも加わってもらい,鈴木牧子委員の司会で行われた。 諸沢教授は,「被害者の支援が一番必要なときに警察は捜査を優先させ,遺族の感情を無視した対応をすることが多い。現在の刑事司法システムでは,被害者処遇の部分が欠落しているが,この穴を埋めるのは弁護士や弁護士会の活動しかない」と述べ,「当面は弁護士の無償のボランティア活動がこれを担うべきである。」とした。

 白井弁護士は,「ストーカー的犯罪は,相談当初の段階では,その後の予測が難しい場合が多く,特に男女関係が関係すると,より困難になる。しかし,早期の介入によって深刻な事態の回避が出来た例もあり,複数の担当者による相談とか継続的な相談などの工夫が必要ではないか。」と述べ,弁護士会における被害者相談窓口の充実と担当者の研修・経験交流の必要性を訴えた。

 高井委員は,「犯罪被害の予防的な側面では,いかに警察にプレッシャーをかけて,真面目な捜査をさせるかであり,弁護士はこの点で活動すべき余地が多いのではないか。」としたが,いわゆる修復的司法については,「被害者や遺族は,これまでの刑事司法においては,色々な意味において加害者から遮断されて来た。議論のある修復的司法についてもこの遮断を取り払う手段の選択肢の一つと考えることが出来るのではないか。」と述べ,「20世紀は加害者の権利が確立された時代であったが,21世紀は被害者の権利が確立される世紀にしなければならない。」と訴えた。

 猪野氏は,弁護士への期待について,「マスコミ対策などを弁護士さんがやってくれるなど,今回のことがあるまで知らなかったが,もっと身近に弁護士さんがいて,いつでも相談できたらと思う。」と自己の体験からの感想を語った。