平成14年度
    「子どものための法教育」
       〜21世紀を生きる子ども達のために〜」


あらまし刊行に寄せてはじめに目次総論書籍紹介

あ ら ま し
 定期大会に先立ち,平成14年9月27日(金)午前10時から,恒例のシンポジウムがつくば国際会議場で開かれた。
 以下では,当日の様子などを報告する。

1 シンポジウムの進行 
 会場は,とても近代的な建物であり,多くの収容人員を誇るとともに,東京からも高速バスで1時間あまりと交通のアクセス状態も良く,シンポジウムには,管内の弁護士だけではなく,教育関係者を含め多くの方々の参加をいただいた。
 会場入り口には,法教育関連の書籍の紹介・販売の他,シンポジウム委員会が報告書作成に使用した品々なども展示され,さらに会場内では同時通訳設備を導入するなど,施設面においても,法教育の理解を促すための十分な環境が整えられていた。
 山形学茨城弁護士会副会長の総合司会で始まり,水口二良シンポジウム委員会委員長による開会の辞と,北村忠彦関東弁護士連合会理事長の挨拶,そして,文部科学大臣からの法教育へのメッセージ紹介とシンポジウムは進行した。

2 各報告等
 まず,根本信義委員(茨城県弁護士会)から,法教育の概要についての説明がなされた。ここでは,法教育の内容についての説明がされるとともに,自由で公正な民主主義社会において,法が基本的枠組みとしての公正なルールを提供するものである以上,法の価値・原理・ルール・手続の意義を認め,それに従って行動する能力,そのための技術としての法的資質が不可欠であることなどの説明がなされた。
 次に,法教育における国内の現状についての報告が杉山博亮委員(東京弁護士会),松村剛委員(横浜弁護士会)からなされた。ここでは,現行の教科書の記述の紹介とその分析結果の発表と,法教育に関する生徒の意識を明らかにするためのアンケートの実施方法とその結果についての紹介がなされたが,教科書の分析においては,知識面・技能面・意欲面のそれぞれについて詳細な検討がなされており,子供達へのアンケートでは掃除当番をさぼった生徒への罰などの身近な素材を用いたアンケートとその結果報告がなされた。
 続いて,筑波大学教授江口勇治氏より,法教育の必要性と可能性についての説明がなされた。江口氏は,「法教育の可能性」などの著書があり,現在の法教育の第一人者といえる地位にある学者であるが,シンポジウム委員会としてもその発足当初から同氏の著作物等を参考にして活動をしてきたという経緯がある。
 その後,短時間の休憩をはさんで,現場の教師の意見として,筑波大学附属中学教諭館潤二氏に対するインタビューが行われた。インタビューアーは阿久津正晴委員(茨城県弁護士会)と,栗山学委員(茨城県弁護士会)であった。館氏からは,現在の教育の現状と法教育を実施するにあたっての障害となっている事実などについて説明があった。
 さらに,外国からの招待者としてアメリカからCente for Civic Education(CCE,公民教育センター)特別研究顧問Norma Wright(ノーマライト)氏に対するインタビューが行われた。インタビューアーは,角田雄彦委員(第二東京弁護士会)と斎藤泰史委員(長野弁護士会)であった。また,台湾からは律師黄旭田氏と張澤平氏を招きインタビューを行い,その際は,田部知江子委員(東京弁護士会)と竹若栄吾郎委員(茨城県弁護士会)であった。
 Norma Wright氏や黄旭田氏らは,多忙の中にもかかわらずシンポジウムへの参加を依頼したところ,快く参加を承諾してくださり,必ずしも十分な時間がとれないにもかかわらず,インタビューアーとの綿密な打ち合わせのもと,密度の濃い説明をしていただいた。アメリカにおいて法教育を行う必要性の高まりとその切っ掛けや,日本においても法教育を定着させていくことが十分に可能であること,台湾・日本などの従来からの道徳観と法教育とが併存しうるものであって,日本においても法教育の実践が行えるであろうことなどが説明された。
 ちなみに,黄旭田氏らはシンポジウム終了後の慰労会にも参加され,短時間ながらも日本での滞在を満喫していただいたようであった。
 最後に,鈴木啓文委員(第一東京弁護士会)によりシンポジウムの総括がなされシンポジウムは終了した。
 シンポジウムは,アンケート結果の報告やアメリカにおける法教育実践の様子など視覚的に分かりやすい形態で進行し,報告者による口頭の説明やレジュメ等の配布物のみの説明とは異なり,シンポジウムの内容が参加者にも理解しやすいものであり,このことは,参加した教育関係者らが法教育を実践しようとする意欲をかき立てるという点において意味があったものと考えられる。

3 シンポジウムの意義
 今回のシンポジウムで掲げられた法教育の理念は,従来我が国でも行われていた消費者教育などにとどまらない「立憲民主主義を築き支える一員となっていくことを目指す教育」であった。
 もちろん,この理念は抽象的なものであり,委員の内部においてもその指向するところは必ずしも共通のものであったとはいいがたい時期もあった。しかしながら,法教育の先進国たるアメリカへの視察や,幾たびかの会議や合宿を経て委員相互間でも一応の方向性というものが見いだされ,その後,現場の教師らとの座談会や子供達へのアンケートなどを行い日本の法教育の現状を知るにつけ,委員会における法教育の理念は確固たるものとなり,その理解がシンポジウムにおいて発表された。
 シンポジウムにおける発表は,各種の工夫を凝らし参加者にとっても理解の容易なものであったと考えられるが,時間的制約から,委員会における検討事項のすべてが伝えられたといえないことも明白である。
 この点については,シンポジウム委員会の委員を編集委員とした「法教育−21世紀を生きる子供達のために」(関東弁護士連合会編,株式会社現代人文社発行)を御覧いただきたい。同書は,委員会発足から約1年間の研究成果の集大成であるが,これまであまり紹介されることのなかったアメリカにおける法教育の風景をわかりやすく伝えるなど興味を引く記述が多く,この種の書物にありがちな学術的内容に終始することなく,読み物としても楽しめる内容に仕上がっている。今後の日本における法教育の方向性を定め,現場における法教育を行うに際しての基礎的資料となりうるものであると,委員の一人として自負するものである。
 「法教育」という言葉は,現在の日本ではまだ定着しているとは言い難い現状にあるが,今回のシンポジウムを契機として,法曹関係者と各界との強調と連携のもと,法教育の実践と法教育の研究が進むことを願って,平成14年度シンポジウムの報告としたい。
平成14年度シンポジウム委員会副委員長
会報広報委員会
矢田健一(群馬弁護士会)