市民に開かれた家庭裁判所をめざして
家庭裁判所は、1949年、家事審判所と少年審判所を統合して創設された。家庭裁判所は、家裁調査官制度、家事調停制度などによって専門性と市民性を備え、また、司法でありながら福祉・教育的機能を併せ持っている。
家庭裁判所は、個人の尊厳と両性の平等を原則とする家族法の基本理念を戦後の日本に定着させ、また、少年司法を通じて少年の健全な育成に大きな役割を果たしてきた。
戦後60年が経過し、家族の在り方も大きく変わり、家族法と現実の家族関係との間に幾つかの矛盾が現れており、そのことが新しい家族関係の形成を困難にしている事例さえみられる。年間30万件余に至った離婚のうち、家庭裁判所に持ち込まれる割合は、僅か10%程度にとどまっており、その裏には、離婚しても養育費さえ支払われない様な深刻な現実が広がっている。内縁関係の増加、夫婦の別姓など多様化する家族の法的保護の問題、DV法、児童虐待防止法、高齢者虐待防止法など、家庭内の人権問題など新しくて重要な課題が生れてきた。また、現代社会を反映した少年非行の発生の中、少年司法の在り方にも市民の目が向けられている。
関東弁護士会連合会は、家族法の基本理念が市民の隅々まで定着するとともに、多様化する家族の在り方を見据えた家族法とその運用を求め、また、少年の健全な育成を目的とする少年司法の理念が広く市民に理解され健やかな子どもたちの成長がはかられることを願って次のとおり宣言する。
第1 家事関係など
- 多様化する家族関係と家庭内の人権保護に配慮し、増加する離婚の中で、子どもなど弱者が充分保護されていない現実を考慮し、以下の法改正を求める。
- (1) 法制審議会が1996年に策定した別掲の「民法の一部を改正する法律案要綱」を実現すること。
- (2) 離婚における家庭裁判所利用率を向上させ、離婚給付・養育費等の取決めを広めるため、家庭裁判所に即決調停・即決和解的な離婚手続を導入すること。
- 近年、外国人の家庭裁判所の利用が高まっており、家庭裁判所手続において外国人の権利が正当に護られるよう、次の施策を求める。
- (1) 専門調停委員の拡充と通訳の確保
- (2) 外国の文化・慣習等の違いについてのマニュアルの整備や、裁判所庁舎設備やパンフレット等における多言語化の実現
- (3) 外国籍調停委員の採用の実現
- 会内研修や各弁護士の職務遂行を通じてジェンダー・バイアスの解消に取り組むとともに、家庭裁判所に対し、その手続におけるジェンダー・バイアスを除去するため、調停委員の教育研修などの継続的実施を求める。
- 広く市民が家族法の保護を受けられるよう、会内に家事問題委員会を設置するなどして家事に関する啓発活動や家事相談を積極的に展開し、家庭裁判所係属案件の弁護士代理活動を飛躍的に伸ばすと共に、将来的には家事問題ADR等の活動を強化する。
- 家庭裁判所委員会につき、以下の配慮がされることを求める。
- (1) 委員が交代しても、規則に基づく運営がなされるよう、すべての家庭裁判所委員会で運営細則等を策定し、書面で備置し、委員委嘱時に交付すること。
- (2) これまでの家庭裁判所の関係者の範囲を超えて広く市民の声を反映させるため、行政で採用されている公募委員制度を導入すること。
- (3) 家庭裁判所委員会の議事と議事録を市民に公開するよう努めること。
- 家庭裁判所は急速に利用が増加しており、市民の潜在的需要は、非常に大きく、市民生活にとって不可欠な存在であることにかんがみ、家庭裁判所がもっと市民に利用し易くなるために、手続の簡易化・合理化を図るとともに、人的・物的面での飛躍的整備・拡充が必要であり、その早期の実現を求める。
第2 少年関係
- 弁護士は、少年の健全育成を目的とする少年法の下においても、被害者やその家族(以下「被害者等」という)の権利や心情にも配慮した付添人活動を実践する。
弁護士及び弁護士会は、被害者等からの意見聴取等の現行少年法に定められた被害者等へ配慮した保護の諸制度が今後も維持され、かつ、これが適正に運用されるよう、家庭裁判所に対して、市民への制度周知を促すとともに、被害者等に対応する家庭裁判所調査官、書記官の増員などの施策を講ずるよう求める。
- 弁護士及び弁護士会は、少年司法の持つ福祉的機能こそが少年の成長発達に資することを十分理解し、これが維持拡大されるよう努める。
そのため弁護士は、少年の保護者、教師、雇い主、補導委託先、家庭裁判所調査官、鑑別所技官、児童相談所職員などの関係者と協力連携し、少年司法の福祉的機能が十分に発揮されるよう付添人活動を行う。
また、弁護士及び弁護士会は、家庭裁判所に対しても、少年司法における福祉的機能の回復、拡大を強く求め、これに反して安易な検察官送致や低年齢者の少年院送致が行われないよう求める。
- 少年に認められた付添人選任権を実質的に保障するため、当番付添人制度の全国的実施の実現に努めるとともに、国選付添人制度の対象範囲をさらに拡充する法改正が早急にされるよう求める。
2007年(平成19年) 9月21日
関東弁護士会連合会
法制審議会1996年策定「民法の一部を改正する法律案要綱」の概要
- (1) 婚姻適齢を男女とも18歳とする。
- (2) 再婚禁止期間を現在の6か月から100日に短縮する。
- (3) 選択的別姓の導入
- (4) 夫婦間の契約取消権規定の削除
- (5) 面接交渉につき「面会及び交流」として明文を置く。
- (6) 監護費用の分担義務について規定を置く。
- (7) 財産分与の考慮すべき要素を具体に例示し、寄与度が異なることが明らかでない場合は、いわゆる「2分の1ルール」を採用する。
- (8) 裁判離婚原因を見直す(5年間の別居を離婚原因に加える。過酷条項を加える。精神病離婚の規定を削除する。)
- (9) 失踪宣告の効果(取り消されて前婚解消の効力は失われないことを規定する。)
- (10) 嫡出子と非嫡出子の法定相続分を平等にする。