関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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平成20年度 決議

「子どもとインターネットの関わりの適正化をめざして」

  1.  近年の情報技術革新や一般家庭への通信回線の普及に伴い,子ども達の間でも,パソコンや携帯を利用したインターネット上のサイトやネットワークサービスの利用が急速に普及する一方,インターネット上の有害な情報に子ども達がアクセスし,事件やトラブルになる事案も急増している。
  2.  かかる現状を懸念し,昨今は,子ども達を有害情報から守ることに主眼をおいて,情報の発信・受信を規制する動きが加速している。とりわけ,各自治体で条例によって有害情報を規制するなど,行政による規制を設ける動きが活発化しており,平成20年6月には,未成年が契約する携帯のフィルタリングサービス加入の原則化をうたった「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(略称;青少年ネット規制法)が制定されるに至った。こうしたフィルタリング等のインターネットへのアクセスに一定の制約を設ける取り組みは,子ども達を有害情報から守るために有用であるといえる。
  3.  しかし,公権力によるインターネット上の情報の受発信に対する規制の導入は,慎重に検討されるべきである。
     すなわち,本来子どもは,自らの意思で多様な情報にアクセスして取捨選択し,インターネット上で自己表現し,こうした経験から成長する権利があり,規制の導入にはこの権利に対する十分な配慮が必要である。また過度な規制が,逆に子ども達から,ネット上の情報の受発信の危険性を知り,メディアリテラシー*1を身につける機会を奪うおそれがある。有害情報からの保護は家庭,学校,地域等の自主的な取り組みによって図られていくことが重要であり,規制は行うとしても子どもの発達段階に応じて柔軟かつきめ細やかになされるべきものである。
  4.  そのためには,子ども達とインターネットの関わりの現状を十分に把握するとともに,インターネットというツールの有用性を活かしつつその有害性を克服するためにはいかなる取り組みがなされるべきかについて,より多角的な検討がなされる必要がある。
  5.  そこで,関東弁護士会連合会は,子ども達とインターネットの関わりの現状を研究するとともに,子ども達の基本的人権を尊重しつつ,インターネットの有害な側面を克服するために民間と行政においていかなる取り組みがなされるべきか,具体的に提言したいと考える。そして,法律専門家として,関東弁護士会連合会・弁護士会・弁護士がかかる取り組みに積極的に参画していくことを決意し,ここに決議する。

*1 メディアリテラシー:〔media literacy〕多義的に用いられるがここでは,主体的に情報通信機器を使って,インターネットにおいて流通する情報を適切に取捨選択して利用し,適切にインターネットによる情報発信を行う能力のこと。

2008年 (平成20年) 9月26日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1.  近年の情報技術革新や一般家庭へのブロードバンド回線の普及に伴って,インターネットの利用は急速に普及している。総務省「平成20年版情報通信白書」によれば,平成19年度末のインターネット利用人口は8811万人,人口普及率は69.0%,6歳以上のインターネット利用率は74.4%となっている(平成9年度末では利用人口1155万人,人口普及率9.2%)。
     またこれに伴い,子ども達の間でもインターネットの利用が極めて広範に普及している。上記白書によれば,平成19年度末のインターネット利用率は,6歳から12歳までが68.7%,13歳から19歳までは94.7%となっており,中学生以上ではほぼ100%に近い普及率となっている。
  2.  さらに,インターネット上のコンテンツは,膨大なサイトの単なる閲覧にとどまらず,多種多様化している。メール,掲示板,ブログ,プロフ*2,オークション,ゲーム等様々なネットワークサービスが日々開発され,提供され,多くの人達に利用されている。
     こうしたネット上の様々なサービスを利用することで,簡易簡便に有益な情報を受発したり,ネット上で世界中と双方向コミュニケーションを行うことが可能となっており,インターネットというツールの有用性はますます高まっている。
  3.  しかし,その一方で,インターネット上には,いわゆる出会い系サイト,アダルトサイト,自殺サイト,暴力的なサイトなど,子ども達の育成に有害な情報も氾濫し,これらの有害情報にアクセスした子どもが犯罪や事件に巻き込まれるケースも急増している。 また,学校裏サイトを代表とする掲示板への誹謗中傷の書き込みによるいじめ問題や,インターネット上の書き込みが脅迫・名誉毀損等にあたるとして補導される子どもが急増するなど,インターネットならではの事件・トラブルが多発して,深刻な社会問題となりつつある。大人が子ども達の直面している現状を具体的に把握できていないことから事態が深刻化するケースも多く,子どもがインターネット上の有害情報に容易にアクセスしうる現状を憂慮する声が高まっている。
  4.  かかる現状に対し,昨今,子ども達を有害情報から守ることに主眼をおき,情報の発信・受信を規制する動きが加速している。平成20年5月には,政府の教育再生懇談会が小中学生には携帯電話を持たせないことを提言した。また,6月には,未成年が契約する携帯のフィルタリングサービス加入の原則化をうたった「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(いわゆる「青少年ネット規制法」)が制定されるに至った。各自治体において条例で有害情報を規制する動きも活発化している。確かに,フィルタリングサービスの活用などインターネットへのアクセスに一定の制約を課す取り組みは,子ども達を有害情報から守るために有用であると言える。
  5.  しかし,インターネット上の情報の受発信に対する安易な規制,特に行政等公権力による規制の導入は,以下のような問題点があるため,慎重に検討されるべきである。
    1. ① まず,何が有害情報であるかを行政が定めてその受発信を規制することは,インターネットに関わる全ての人の表現の自由や知る権利,学習権や自己決定権などの基本的人権を害するおそれがある。
    2. ② 特に,安易に子ども達を情報から遮断することは,子どもから,多様な情報にアクセスする知る権利,インターネット上で自己表現する表現の自由,多種多様な情報が氾濫するネットワーク社会において自らの意思に基づいて情報を取捨選択して発信・受信する自己決定権,そしてそういった経験により成長発達する権利をも奪うおそれがある。
    3. ③ 規制によっても全てのインターネット上の情報を万全にコントロールできるわけではなく,子ども達がインターネットを利用する以上,その有害性・危険性にさらされる危険を完全に回避することは不可能である。過度な規制は,子ども達から,インターネット上の情報の受発信の危険性を知り,メディアリテラシーを身につける機会を奪うおそれがあり,かえって子ども達が実際にネットの有害性にさらされた時に適切な対応をとることができず,事件やトラブルに巻き込まれることになりかねない。
  6.  こうした行政による規制の弊害を勘案するに,安易に公的規制に頼るだけではなく,家庭,学校,地域等の自主的な取り組みによって,子ども達とインターネットとの関わりの適正化を図っていくことが重要である。それには,子ども達とインターネットの関わりの現状を把握するとともに,インターネットというツールの有用性を活かしながらその有害性を克服するためにはいかなる取り組みがなされるべきかという課題について,より多角的な検討がなされるべきである。
  7.  そこで,関東弁護士会連合会は,関弁連平成21年度シンポジウムのテーマを「子どもとインターネットの関わりの適正化をめざして」(仮題)とし,子ども達とインターネットの関わりの現状を研究するとともに,子ども達の基本的人権を尊重しつつ,インターネットの有害な側面を克服するために民間と行政においていかなる取り組みがなされるべきか具体的に提言して,私たち自身の課題として取り組むことを決意する。
*2 プロフ:プロフィールの略。主に携帯向けサイト等で提供される,自分のプロフィールのページを作成できるサービス又はそのようなサービスを提供しているWebサイトのこと。

以上

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