関東弁護士会連合会は,2002年9月,「子どものための法教育-21世紀を生きる子どもたちのために」をテーマとするシンポジウムを開催し,また定期大会において「子どものための法教育」に関する宣言(以下「2002年宣言」という。)を採択した。我々は,子どもたちが,自由で公正な民主主義社会の担い手として,自分たちの身の回りに起きる様々な問題や社会の問題について自律的主体的に考え,判断し,行動する能力を身につけなければならないと考える。このような視点に立って,「法教育」を,「法律専門家ではない人々を対象に,法とは何か,法がどのように作られるか,法がどのように用いられるのかについて,その知識の習得にとどまらず,それらの基礎にある原理や価値,例えば,自由,責任,人権,権威,権力,平等,公正,正義などを教えるとともに,その知識等を応用し適用して使いこなす具体的な技能と,更にそれを踏まえて主体的に行動しようとする意欲と態度について併せ学習し身につける機会を提供すること」と意義づけた。そのうえで,我が国の未来を担う子どもたちに対し,その成長過程に応じた内容の法教育を実施することの重要性を指摘し,教育者及び関係機関,マスコミ,国民などに対して,子どもに対する法教育の必要性と重要性を訴え,これら諸機関および国民との連携のもとで,子どものための法教育を我が国に普及させることを誓った。
「2002年宣言」を受け,弁護士会,教育現場,教育学者たちの間で様々な教材開発の試みがなされ,実践されるようになるとともに,法務省や学会においても法教育のあり方について研究がなされるようになった。さらに「裁判員制度」の実施や「新学習指導要領」での法的視点の導入の流れの中で,現場の教職員の間でも司法制度および法教育への関心が高まっているが,いまだ広く認知されるに至ってはいない。また,その実施されている内容も,法制度情報の提供にとどまっているものも多い。現在行われている法教育が,果たして,我々が目標としていた法教育に沿ったものなのかどうか,また,実際に実施されている法教育が,その趣旨に則したものとなっているかについては,検証が必要である。そして「2002年宣言」が重要視した「自由で公正な民主主義社会の構成員として,自分たちの身の回りに起きる様々な問題や社会の問題について自律的主体的に考え,判断し,行動する能力」を育むものとしての法教育とはいかなるものであるべきかについて,再度法教育が具体的に導入され,実践され始めている現在の時点で,なお検討する必要がある。
そこで,関東弁護士会連合会は,「2002年宣言」後の8年間を振り返り,同宣言を受けて法教育に対する教育現場や法曹関係者の意識や取り組みにどのような変化があったか,教育現場においていかなる実践がなされてきたか,いかなる教材開発がなされているか,そして,それらの活動に,研究者や法曹関係者がどのような関わり方をしてきたか,そうした取り組みによって子どもたちに育んでもらいたい能力がついてきているのか等,現在の教育現場における法教育の現状について検証するとともに,「2002年宣言」を吟味しつつその内容を再確認し,今後の教育現場との連携のあり方,教員養成機関との連携のあり方,教育現場に弁護士が直接入ってゆくべきなのか,入ってゆくことができるのか,さらには我々法曹関係者あるいは弁護士会として何ができるのか等々について,海外における法教育のあり方等も参考にしながら検討・提言することを決議する。
2010年(平成22年)9月25日
関東弁護士会連合会