東日本大震災及び原子力発電所事故の被災者救済と災害復興等に関する宣言
2011年3月11日に発生した東日本大震災は,マグニチュード9.0というわが国観測史上最大の地震であり,その被害は,地震直後に発生した巨大津波による被害を含めて,死者1万5703人,行方不明者4647人に及ぶ甚大なもの(警察庁発表8月17日現在)であって,多数の家屋も流され,町は瓦礫の山となり,今なお9万人強の被災者が避難生活を余儀なくされている(緊急災害対策本部発表8月9日現在)。加えて,東日本大震災の直後に発生した東京電力福島第一原子力発電所の重大な原子炉事故(以下「本原発事故」という。)により,放射性物質の漏えいが発生し,周辺住民が避難生活を強いられているほか,海洋汚染や農作物の汚染による出荷制限等の深刻な被害が生じている。また,いわゆる風評被害も深刻である。
関東弁護士会連合会は,東日本大震災で犠牲となられた方々に謹んで哀悼の意を表し,ご冥福をお祈りするとともに,ご遺族の方々,ご家族等が行方不明のままとなっていらっしゃる方々,大切な家財や生活の基盤となるべき仕事場を失われた方々,そして,今なお避難生活を余儀なくされている方々に,心よりお見舞いを申し上げたい。
また,被災地弁護士会をはじめとする東北弁護士会連合会(以下「東北弁連」という。)等に対し,今日までの被災者に対する無料法律相談などの様々な活動や法的支援に関して衷心より敬意を表したい。
地震や津波で家族や資産を失った被災者が生活再建・事業再建等をするには,これまでの生活の全てを一から建て直さなければならず,そのためには,家屋や事業所の復旧,借地借家関係の継続・解消,住宅ローン等の返済,会社の再興・清算,労働関係の継続・清算,財産の承継問題など様々な法的問題を解決しなければならない。また,本原発事故の被災者の生活再建にあたっては,東京電力株式会社等に対する損害賠償請求が不可欠である。そのようなことを考えると,被災者にとって,法律専門家である弁護士からの法的支援の必要性はますます高まっている。
当連合会は,ここに,法律相談の支援体制を整え,被災者の法的ニーズにこたえるためのあらゆる取り組みを行うこと,及び,国及び地方公共団体並びに東京電力株式会社をはじめとする各電力会社等に対し,具体的な対策として,以下の点を提案するものである。
- 法律相談等の体制の充実
我々弁護士ができる第一次的な被災者支援活動は,被災者に対する法律相談を実施することであり,法律相談を通じて,被災者の法的な問題を解決し,被災者の不安を少しでも取り除き,被災者の精神的な支援を行うことである。
当連合会は,今後も,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)及び各弁護士会と連携し,全ての被災者が法律相談の機会を得られるようにするための情報整備,インフラ整備に取り組む。
- 本原発事故被災者に対する損害賠償請求支援
当連合会は,本原発被災者が簡易,迅速に損害賠償請求を行えるようにするため,日弁連や各弁護士会と連携して,本原発事故被災者に対して,将来の損害賠償請求に向けての様々な援助を行い,簡易・迅速な損害賠償請求の実現に向けた支援を行う。
- 国,地方公共団体,東京電力株式会社等への提言
(1) 国及び東京電力株式会社をはじめとする各電力会社は,すべての原子力発電所を,可及的速やかに廃止すべきである。なかでも,福島第一原子力発電所,同第二原子力発電所をはじめとし,今後,大震災の発生が日本地震学会等の専門家によって指摘されている場所付近に設置されている中部電力浜岡原子力発電所や中越沖地震(2007年7月)以上の地震の発生が指摘されている柏崎・刈羽原子力発電所のような原子力発電所,更には,東海第二原子力発電所のように,運転開始後,既に30年以上経過している原子力発電所に関しては,直ちに廃止すべきである。
そして,国及び東京電力株式会社をはじめとする各電力会社は,原子力発電所の廃止,撤去,原状回復に向けた日程表を早急に作成して国民に公開するとともに,国民が監視する下で,その日程表に従って,廃止等を実施すべきである。
なお,例外的に,稼働を継続せざるを得ない場合があるとしても、本件事故の原因を踏まえた上で十分な安全基準を策定し,その安全基準を満たすことが最低限要求されるべきであり、これを満たさない原子力発電所については,直ちに停止させるべきである。
(2) 原子力発電所廃止に伴う代替エネルギー問題については,再生可能な自然エネルギーへの転換を基本原則とすべきである。
国は,原子力発電所の廃止に向けて原子力基本法,エネルギー政策基本法などの基本法の再検討をするほか,本原発事故発生時の検証にかかる情報公開を含めた手続法制を整備し,独立した事故調査委員会を設置すべきである。更に,地球規模の放射能汚染を惹起し得る原子炉事故の防止及び解決のための国際共助体制を創設すべきである。
(3) 地震防災対策特別措置法に基づいて設置されている地震調査研究推進本部,地震調査委員会は,地震の規模・発生確率等の想定を再検討するとともに,国,関係地方公共団体は,災害対策法に基づいて作成する防災基本計画,地域防災計画を見直し,近隣住民に対して十分な説明をするとともに,地震及び津波対策のための施策を実施すべきである。
(4)国,地方公共団体は,今次のような大規模災害に対応するため,現行地方自治法制の枠組みにとらわれない被災自治体間の連携,被災自治体と被災地域外自治体との連携を可能とする制度,国と自治体間の連携を可能とする法制度を創設すべきである。
- まとめ
今回の東日本大震災は,わたしたちの国家,社会,生活に,強烈な意識改革を迫る歴史的災害であり,東日本大震災に対する当連合会の今後の取組みは,なにより,このような歴史的認識に立った被災者救済,そして人間復興のための取組みでなければならない。
そのために,当連合会は,これまで以上に,被災地弁護士会をはじめとする東北弁連と協調しつつ,無料法律相談など弁護士としてなし得る活動に組織をあげて率先して取り組むとともに,被災者の救済に実践的に貢献し,さらには本原発事故等の紛争解決指針の定立にも努める。また,法と正義の見地から国,地方公共団体の施策に対する不断の監視も続ける。
当連合会は,東日本大震災という未曾有の一大転機を経験したわが国の復興に寄与する所存である。
以上の通り宣言する。
2011年(平成23年)9月30日
関東弁護士会連合会