従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
ジャーナリスト
有田芳生さん
今号から,法曹ではない,皆様ご存じの方に「わたしと司法」というテーマでざっくばらんにお話をうかがいます。
第1回は,ジャーナリストの有田芳生(ありた・よしふ)さんです。
有田さんは,出版社を退職・独立した後,統一教会の霊感商法と元信者の救済問題に取り組み,その後ご存じのようにオウム真理教に関わる情報整理,評論活動にも積極的に取り組んできました。これらに関して司法との接点も多いようです。また宇崎竜童さん,都はるみさん,テレサ・テンさんらを取材し伝記にまとめておられます。
インタビューは,終始和やかに進み,さすがに日頃から丹念な情報収集と的確な情報整理・本質究明が持ち味の有田さん,突然の質問ばかりにもかかわらず,よく聞いて下さり,司法への素朴な疑問,印象,注文,期待から,昨今の司法改革問題へのご意見まで話して下さいました。
―司法制度の改革がいわれていますが....?
有田さん 「国民のための司法」という課題では,ジャーナリストの本多勝一さんが強調していた「母親にもわかる文章を」という視点が大切だと思います。私もルポを書きますが,“厳密さとわかりやすさは矛盾するものではない”と確信するからです。
―オウム事件の傍聴もされていたとお聞きします。傍聴に関してお考えがありますか?
有田さん 傍聴は,“裁判の公開”だと言われますが,その日時,場所に行ける人しか見ることができない,聞けないというのはどうでしょうか。麻原の不規則発言の異常さは現場で聞くとよく分かります。アメリカのようにテレビ生中継まではともかく,せめて国会のように静止画像,音声だけでも実現すべきではないでしょうか。
なお,傍聴していると証人を小馬鹿にしたような弁護士の質問を聞くことがあります。テクニックかもしれませんが,ちょっとどうかなと思うことがあります。
―オウム事件に関しては特別立法を,というお考えをお持ちであるとうかがいましたが。
有田さん オウムのことで言うと,特別立法で,教団に帰属していた財産を没収し,被害者救済を図るべきだと思います。教団は,パソコン工場やショップ以外にも,長野で1億1,000万円,栃木で5,500万円の不動産を入手しようとしたことなど,麻原を「尊師」として活動が活発で財産もあります。教団は,理論的値でいえば3,500万人を殺傷できるサリン70トンを95年に散布しようとしていたといわれることや,多くの事件についての反省,謝罪は一切ありません。
“法の下の平等”“思想信条の自由”と言われますが,アメリカでは,教団関係者の入国を認めませんし,国内で寄付することも処罰されます。一時,3万人の信者がいてラジオ放送もしていたロシアでも,カルト法で禁止されています。
―犯罪者の人権もあるが,それ以上に“犯罪からの自由,生存する権利”がありますね。
有田さん そうですね。自然法としての生存の権利への侵害に対し,もっと敏感になるべきだと思います。ところで,弁護士さんは世論を見ていますね。
―裁判所の方こそでしょうか。
有田さん なるほど。それにしても“裁判は長い”ですね。
―公正な審理と迅速な解決とのジレンマですね。現在,司法・裁判を身近にしようといろいろな改革を検討中です。
有田さん “司法・裁判を身近に”という点では,横山弁護士はこんな人もいるのかと思わせたことはあるかもしれませんね。庶民的印象という意味ですが。教科書は裁判についてもっと触れるべきでしょうね。
―陪審についてはどうお考えですか。
有田さん う~ん,陪審員の理解・判断力から、日本人はキャリヤ裁判官の方を望んではいませんか。日本的風土は,いまだ,雰囲気に流されやすい傾向ですから。
―法曹一元についてはいかがですか。
有田さん まずは社会経験が必要ではないかと感じることがあります。医師にも教師にも感じることですが。
―人材移動・外部からの導入によって,人も組織もたくましくなることはありますね。
有田さん そうですね。昔も今も,日本では“組織から追い出されてしまう恐怖”に縛られているのではないでしょうか。私もありました。しかし,司法は,組織をバラバラにしてひとりの個人を尊重するというのもひとつの本質ではないでしょうか。
―最後に法曹人口の増加についてはいかがでしょうか。
有田さん いろいろな人が法曹界に進出すれば司法はより身近になると思います。もっとも質の問題も大きいですよね。
―本日は,長時間にわたり貴重なお話をありがとうございました。