従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
淑徳大学教授・工学博士
北野 大さん
シリーズ11回目の「わたし」は,タレント・ビートたけしさんの兄で,大学で教鞭をとる傍ら,テレビでも活躍しておられる北野大(きたの・まさる)さんです。
北野さんは,教育熱心なお母さんの影響で大学は工学部に進み,大学で教壇に立つという,弟ビートたけしさんとは全く違う道を歩んでいましたが,昭和62年に「サンデーモーニング」の自然科学系のコメンテーターとしてテレビに出たのを皮切りにクイズ番組の解答者やコメンテーターとして広く活躍されるようになりました。
―今までに,弁護士とのかかわりを持った経験はありますか。
北野さん 大学で教えている関係で,大学の顧問の弁護士さんに大学の雇用問題などで相談したことがある程度です。「医者と弁護士と警察官は友達に欲しいけど,実際に自分が世話になる立場にはなりたくない」というのが本音です。
―弁護士について今思っていることはどんなことですか。
北野さん オウム事件以来,弁護士のいう社会正義とは何なんだろうと思っています。冤罪を防がなくちゃならないことは分かるけど,松本智津夫の裁判を見ていると,敢えて審理を引き伸ばしているんじゃないかという印象を受けます。本当は罪を犯したのに刑を軽くするために罪を犯したことを否定するのが良い弁護士だとしたら,それはおかしい。本当にやったのなら正直にやったと言いなさいとアドバイスするのが弁護士のやるべきことだと思います。
最高裁などの判断も一般の人の感覚と違ってきているように思います。社会常識に関する裁判官と我々一般人とのギャップが大きいですね。裁判官は聖人君子みたいな生活を強いられているようで,社会のことを知らないんじゃないでしょうか。
―陪審制についてはどうですか。
北野さん 裁判の中に一般の社会人の経験が生かされていくことはいいことだけど,いきなり陪審制にまでいくのは疑問です。一般人というのは,新聞やテレビの論調に大きく影響されるし,事件によっては頭では分かっていても感情に走って理性的な判断ができないこともあると思うから。だから陪審制よりも,弁護士経験のある人が裁判官になるとかの方法で裁判の中に一般人の社会常識を持ち込む方がいいと思います。僕の大学でも純粋な大学人は3分の1くらいで,残りはIBMとか電通のような民間から入ってきた人です。民間の経験のある人が裁判官になるのは,我々から見ると決して不自然なことではないと感じます。
―弁護士の数の問題や司法試験の点はどうですか。
北野さん アメリカは随分弁護士の数が多くて,何でも訴訟にする訴訟社会だと聞きますが,そういうのは日本には向かないと思います。アメリカでは,子供が風呂の蓋の上で遊んでいたら蓋が割れて子供がやけどしたので訴えて賠償金を貰ったとか,泥棒が天井の上を歩いたら天井が落ちて怪我したので泥棒が訴えて賠償金を貰ったという話があると聞きました。こんなことは日本では考えられません。こんなことをしたら,物が高くなっていずれ消費者にツケが回ってきますよ。僕自身は,聖徳太子の「和をもって尊しとなす」でいきたい方ですから,訴訟社会になるのは良くないと思います。
それから司法試験に合格する人のほとんどは法学部を出た人のようですが,工学部とか他の専門分野の人も司法試験に合格して弁護士になれるようになるといいと思います。世の中はどんどん専門化してきていて一人で全部の分野をカバーすることなどできるはずがないので,他の専門分野の人が弁護士になりやすいようにした方がいいですね。
―今後の弁護士のあり方についてはどのように思われますか。
北野さん 医者の役目は治療より病気の予防だと思うし,消防の役目は消火よりも防火ですが,同じように弁護士も訴訟で問題を解決するよりも紛争を予防することが大事だと思うので,弁護士の本来の役目は紛争にならないようにすることだと思います。
―他に弁護士に対する要望は?
北野さん 弁護士費用が全く分かりません。今,最初の市民相談料は30分5,000円だと聞き,決して高くないと思いましたが,その金額は一般には全然知られていませんね。弁護士に依頼したらいくらくらいかということをもっと分かりやすく知らせる必要があると思います。
それから,医者と違って弁護士は何の専門なのかが分からない。これも一般に分かりやすく知らせるべきですね。
―最近の少年犯罪についてはどのようにお考えですか。
北野さん マスコミでは,とかく社会が悪いという論調になりがちですが,犯罪率は自然科学の数字で見るとPPM以下の数字です。そういう数字を見ると,社会の問題というよりも特異なケースと見た方がいいんじゃないかと思っています。
(普段マスコミに出てコメントを求められることが多いためか,マスコミに対してはやや辛口でしたが,飾らない率直な話を聞くことができました。-平沢郁子)