従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
俳優・コメディアン
モロ師岡さん
今回の「わたし」は,俳優でコメディアンのモロ師岡さんです。
モロさんは1959年,千葉県八街市生まれの53歳。専修大学商学部に入学した78年に劇団現代のオーディションに合格し,卒業後は長きにわたってアマチュア劇団で活動され,90年頃からコメディアンとしてテレビ出演を多数こなすようになりました。95年頃からは一気に俳優としての活動が広がり,1996年には北野武監督「キッズリターン」で東京スポーツ映画大賞助演男優賞を受賞されました。その後は,数えきれないくらいの多数の映画やテレビドラマに出演されてきましたが,最近の映画では「劔岳点の記」(2009年),「ゼロの焦点」(2009年),「悪人」(2010年),「桜田門外の変」(2010年),「あしたのジョー」(2011年),そして今公開中の「はやぶさ遥かなる帰還」など,錚々たる作品群に出演されています。
また,これら俳優業としてだけではなく,都内の諸所において,ひとりコント,サラリーマン落語,しみじみフォークソングを中心とした,「ひとりライブ」を開催され,ファンの皆さんとの触れあいも大切にされています。
誠実で飾らない人柄,そして確かな演技力で,現在のテレビ・映画界において欠くことのできない名脇役の一人と言ってよいでしょう。
―モロさんこんにちは。本日は宜しくお願い致します。
モロさん こちらこそ宜しくお願い致します。
―モロさんは,高校まで千葉の八街でお過ごしですが,その頃から役者を志しておられたんですか。
モロさん そうですね,高校生の頃はもう,なんとなくですが,将来は役者になりたいな,とは思っていました。それで大学時代に劇団に入って本格的に始めたんです。
―卒業後もずっと続けてらしたんですよね。ですが,ウィキぺディアを見てもそのあたりの活動歴が全然出てないんです。どういうわけか78年から96年までポッカリ空いているんです。モロさんくらいの役者さんで,こういうのは大変珍しいんですが,何かこの間の履歴は伏せておきたいとかあるのでしょうか。
モロさん いやいや,そんなことないです(笑)。その間は殆どプロの役者として活動してなかったので載ってないのでしょう。卒業後は,ずっとバイトしながらアマチュアで劇をやってましたから。でも,90年頃からはテレビでもレギュラーやってたんですけどね。
―どういうところで活動されていたのでしょう。
モロさん 最初はショーパブですね。これは大学時代から六本木で私がやっていたお店なんです。スタッフもみんな学生で。それが,当然ですけど,卒業して就職してみんないなくなっちゃったんです。私は負けず嫌いだったので,就職活動なんて一切せず,一人だけ残った仲間と「いつまでもショーの世界で頑張ろう!」って言ってたんです。だけどある時,役者の先輩が「お前,酒の客相手にいつまでもショーをやっていても仕方ないぞ。もっとちゃんとしたところでやれ。」と言ってくれて,それで新宿南口にあった「新宿ミュージック劇場」っていうストリップ劇場を紹介してくれたんです。24から27までストリップの前座でコントをしてましたね。
―ちゃんとしたところ,っていうのがいいですね(笑)。
モロさん あはは,でもパブと違って酔った客にコップ投げられたりしませんしね。ただ,お客さんは踊り子さんを見に来ているわけだから,ショーが終わってライトが戻ると出てっちゃうんです。当たり前ですよね。それをコントで呼び戻すのは大変なことで,すごく鍛えられました。当時,コント4回やって日給は2500円でしたが,若手芸人は掃除から片付けまで全ての雑用をやるので,もう朝10時から夜10時まで365日ずっと12時間労働です。でも食事は劇場の人が奢ってくれるし,夜や夜で先輩芸人の方が毎日飲みに誘ってくれて,おまけに衣装なんかもくれるし,もう衣食住完全保証ですよ(笑)。そのうちアパートに帰らなくなって劇場で寝起きするようになってしまいました。
―あはは,まるで楽園のようですね。その生活が大きく変わったのが,さきほどおっしゃった90年頃ですか。
モロさん ストリップ一本だったのは27まで,そのあと事務所に入って月給取りになったんですが3年くらいは売れない時代でしたね。それが90年に受けたテレビのオーディションで合格して,急にレギュラーを5本も持つようになったんです。どれもネタ番組でしたから,毎週ネタを考えるのが大変でしたが,1年くらいそれで頑張りました。その後もテレビの仕事は安定して頂いていたんですが,私,実はバラエティが苦手だったんです。ずっと芝居でセリフのある世界でやってきたものですから,その場の雰囲気を読んだアドリブができないんですね。だからマネージャーさんには,ずっと「映画やドラマの仕事があったらやりたい。」と言ってました。
―それが実を結んだのが96年の「キッズリターン」ですね。大変評判のよい映画でした。モロさんは,何の役だったんでしょうか。
モロさん 中年のボクサーの役ですよ。私,大学出てからボクシングをやっていた時期もあったものですから。最初は役名もなくて,「中年ボクサー,モロ師岡」だったんですが,途中から重要な役どころになりまして,助演男優賞まで頂きました。そこからですかね,役者としての仕事が多くなったのは。
―ボクシングやっておられたんですか。そういえば去年「あしたのジョー」にも出てましたね。こちらもボクシング関係の役でしたか。
モロさん いや,ドヤ街の食堂の親父です(笑)。でも,あしたのジョーは,今私が住んでいる南千住の話なんですよ。泪橋も玉姫公園もガスタンクも南千住にあるんです。「ああ,地元が舞台の映画に出られるのかあ。」と,すごく縁を感じました。
―あの映画は皆さんすごく真剣にやってましたよね。ジョー役の山下智久さんも力石役の伊勢谷友介さんも,鍛えあげてブルース・リーみたいな体になってました。丹下段平なんて香川照之さんがコスプレしてるようにしか見えませんが,あれだけ真剣にやると逆に説得力が出るもんなんですね。
モロさん 可哀想に伊勢谷君もヤマピーも本当に大変そうでしたよ。減量しなくちゃいけないから,みんなが弁当食べてるとこから離れて,虚ろな目でグターっとしてました。横行って「あー,うまいうまい」って弁当食ってやろうかと思いましたけどね(笑)。
―それにしても,最近だけでも「劔岳点の記」,「ゼロの焦点」,「悪人」,「桜田門外の変」,2月公開の「はやぶさ遥かなる帰還」と,主だった映画に全部出ているような印象です。名脇役としての地位を完全に確立されていますが,監督さんやスタッフから重宝されるのはどうしてでしょう。
モロさん そうですねえ…,ええと,私がやるのはどれも大きな役じゃないんですが,かと言ってチョイ役でもなくて,ポイントになる役どころが多いのです。私は,小さな役でもなおざりにしたくはないので,役を頂いたらクランクインするまで何カ月も考え続けます。監督からどういう役割を期待されていて,どのように演技をするかについてです。そういったところを評価頂いているのではないでしょうか。
―やっぱり情熱と誠実さ,そして信頼感でしょうかね。「モロに頼んでおけば大丈夫」っていうような。でも主役や準主役をやりたいと思うこともあるんじゃないですか。
モロさん そりゃもちろんですよ(笑)。以前,一本だけ,北野武監督が作った「すばらしき休日」という短編(2007年カンヌ映画祭監督週間出品)で主演させて頂きまして,カンヌでも皆さん笑って喜んでくれました。そしたら,後に向こうのジャン・ピエ-ル・リモザン監督が出演のオファーをしてくれた上,「僕の著書にサインして欲しい」なんて言うんです。「えーっ?俺ってフランスじゃ有名なのかなあ。こっちじゃ自転車で走ってても滅多に声なんかかけられないのに。」なんて思いました(笑)。まあ,でも,主演は役者である以上,常に目指していきたいですね。
―2月11日公開の,「はやぶさ遥かなる帰還」では何の役ですか。
モロさん 研究者です。大学教授ですね。
―え,なんか意外な感じですね。モロさんというと,電柱の陰で牛乳飲んでアンパン食べてる刑事,みたいなイメージなんですけど(笑)。
モロさん やっぱりそうですか。刑事と犯人はどっちも本当に沢山やりました。若いうちは犯人役ばっかりだったんです。ナイフで人刺したり,崖から突き落したり,思えばずいぶんひどいことをしてきました…。でも,そのうち刑事役が多くなりましてね,これってもしかして出世?みたいな感じですよ(笑)。
―弁護士役はありますか。
モロさん 一回だけ,北大路欣也さんのドラマで弁護士なのか助手なのか,やったことがある…ような気がします。
―なんだか曖昧ですね。
モロさん あっ!でも,大学時代,商学部だったんですけど,経済法コースというのがあって,それを取ったら法廷教室で授業やったことがあります!傍聴席があって,裁判官席が一段高くなってるじゃないですか。だから,「客席と舞台みたいだなあ。これは緊張しそうだなあ。」と思ったのを覚えていますよ。
―ずいぶん無理やりな感じですが,業界紙向けのコメントありがとうございます。
最近はツイッターにも凝ってらして,稽古やライブの様子が詳しく配信されてますね。
モロさん ツイッターはライブの広告替わりですね。ライブは,吉祥寺マンダラや北千住ラグタイムでやっているのですが,チャージも1500円とか2500円に抑えて,沢山のお客さんに来て頂けるようにしています。ライブはお金どうこうじゃなくて,お客さんが笑って喜んでくれるのが一番ですね。
―なるほど,そういう庶民目線も沢山の方に評価される所以なんでしょうね。
あ,そういえば,庶民つながりで思い出しましたが,毎日の移動はいつも自転車だそうですね。まさか今日も自転車ですか。南千住から新宿まで。
モロさん そうですよ。ボロいママチャリなんですけどね。いつも南千住から下北の稽古場まで乗ってるんですが,大体1時間20分くらいです。電車でも15分くらいしか変わらないし,健康にもいいですから,下北に限らず都内なら大体どこでも自転車ですよ。
―自転車も道交法の適用が厳しくなりましたし気を付けてくださいね。お酒飲んで乗ったら飲酒運転ですよ。
モロさん そう,去年,酔っぱらって自転車乗って転んで怪我しました。自分で転ぶ分にはいいんですが,人でも引っ掛けたらと思うとゾッとしますね。
―そうですそうです。そんなことになったらスポーツ紙が喜んで書きますよ。で,読んだ人みんな「モロさんらしいなあ。」って言うんですよ。きっと。
モロさん 本当ですね。気をつけないと。自転車保険にも入った方がいいですね。
―それがいいと思います。飲酒じゃ絶対免責でしょうけど。
本日はどうもありがとうございました。これからのご活躍を期待しております。