従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
タレント・ギタリスト
モト冬樹さん
今回の「わたし」は,タレント,ギタリストのモト冬樹さんです。
モトさんは,1951年5月5日生まれの東京都出身で,1977年,小学校時代からの友人であるグッチ裕三さんらとともにビジーフォーを結成してコミックバンドとして活躍,その後フジテレビの「ものまね王座決定戦」への出演をきっかけに「ものまね四天王」として一躍人気者になりました。現在は,その個性的なキャラクターを生かして,ドラマや映画,バラエティ番組で幅広く活躍しています。公私ともども幅広い交友関係を持つ一方,長い間独身として「戸籍真っ白,お先真っ暗」などの自虐的ギャグでも有名でしたが,2010年5月5日,ついにご自身59歳の誕生日に入籍をされ,独身生活にピリオドをうちました。このたびモト冬樹生誕60周年記念作品としてモトさん主演の「こっぴどい猫」が完成,2012年7月28日から新宿K’s cinema,その後札幌,大阪など日本全国で公開予定です。
―モトさんは,東京の名門私立である暁星に小学校から高校まで通われたそうですが,グッチ裕三さんも同級生なんですよね。
モト冬樹さん 小学校から一緒なのは知っていましたが,意識したのは高校に入ってからですね。お互いにバンドをやっているなということで。高校を卒業して浪人しているときに私の兄貴がバンドをやろうと言い出したので,裕三も誘いました。本当に仲良くなったのはそれからですね。バンドを始めたら浪人どころではなくなって(笑),それから今までずっとバンドやっているわけですね。
―バンド活動はどのような形で。
モト冬樹さん いわゆるバンドマンで,お店でお客さんのリクエストに答えて演奏するという形ですね。そのころはソウルが流行っていました。オーティス・レディングとかジャクソン5とかね。
―東京の高校生はませていますね。地方だったらディープパープルやレッドツェッペリンに行くと思います。
モト冬樹さん そうですか。でも仕事としてやるとなると,ツェッペリンでは無理ですね。ギタリストとしては楽しいですけどね。
―デビューはビジーフォーですか。
モト冬樹さん その前に一つグループサウンズっぽいローズマリーというバンドをやってレコードを何枚か出しているんですよ。銀座NOWという番組にレギュラーとして出演していましたが,そのとき矢沢永吉さんがいたキャロルとも一緒でしたよ。
そのバンドを解散した後,友達だったウガンダと別のバンドやろうよという話になって,当時ひまそうだった裕三も加わってビジーフォーになったんです。もうみんな20代後半で若くもないし,顔がいいやつもいないんで,じゃあ面白いことをやろうよということでコミックバンドという形になりました。
―コミックバンドとしてのビジーフォー登場は衝撃的でした。
モト冬樹さん 僕らとしてはクレイジーキャッツみたいなことをやりたかったんですよね。ドリフじゃなくて,あくまでも音楽と融合したギャグの追求というか。それでクレイジーキャッツのいた渡辺プロダクションに入ったんです。 ネタ作りには苦労しました。普通は作家さんがネタを作るんですが,音楽を知らないので音楽と融合したギャグは書けないんですよね。それで自分たちでやるしかないんですが,六本木で受けていたようなネタはテレビでは受けないし,またその逆もしかりなんですよね。
―お笑いは奥が深そうですね。
モト冬樹さん お笑いというのは10年やってみないと分からないんです。でも,10年やって何が分かるかというと「このネタは受けない」ということだけです。「このネタが受ける」というのは何年やっても分からない。せいぜい「受けるかどうかわからないけどやってみよう」という程度です。それでもいいんですよ。「受けない」ものを(本番から)カットしていくことができますから。
ビジーフォーを解散した後に桜金造と1年間コンビを組んでお笑いに取り組んだんですが,勉強になりましたね。もう二度とやりたくないですが(笑)。
その後,もう一度裕三とやろうということになって,ものまねをやってみようということになったんですね。
―ものまねは,以前からやっていたんですか。
モト冬樹さん いえ,このときからですね。最初は,サイモン&ガーファンクルとかね。音楽のコピーはやっていたし,本物の演奏なんて誰も見たことないんだからいいんだろうということで始めたんです(笑)。
やっていくうちに,なんかやらなくちゃということで,さだまさしさんとか長渕剛とか増やしたんですよ。
―ものまね王座決定戦でものまね四天王と呼ばれた時代ですね。
モト冬樹さん ものまねって,似てたって意味ないんですよ。
―四天王としては問題発言ですね!
モト冬樹さん ものまねっていったって,どんなに似ていても本物を超えられるわけないし。コロッケとか(清水)アキラちゃんとか四天王が考えていたのは,ものまねをつかって何か面白いことをやろうということなんです。
あの番組(ものまね王座決定戦)が単なる色物だったものまねをエンターテインメントに持っていったんですよね。お金をかけてショーアップしていたし,ナマのフルバンドも使っていたしね。外国から本物を呼んじゃうとかね。今なんかお金もなくてナマバンドを使うこともないのにね。
―その後「夜もヒッパレ」に出てギターの腕前もお茶の間におなじみになりました。
モト冬樹さん 今,30代,40代くらいまでの人はあの番組を視てたから,僕がギターを弾くことを知っているんだけど,それより若い世代は知らないんですよね。ギター弾いてると「ああギター弾けるんですね」って言われたり,ただの禿げた役者と思ってんのかって感じですね(笑)。自分の中では今でもバンドマンという気持ちだし,音楽で出てきたという気持ちは忘れないようにしています。
―最近そういう本当のエンターテインメントな番組が少ないですね。
モト冬樹さん 音楽番組って手間ひまとお金がかかるんです。ヒッパレでも,そのとき流行っている曲をやっていたので,ため撮りができないし,正午に入ってリハーサルやって本番5時から9時までとかね。
―ところで,モトさんといえば,芸能界における交友関係の広さでも有名ですよね。
モト冬樹さん 知り合いが多いだけですよ。知り合いを多くつくるには人との距離感が大切ですよね。例えば,飲み屋で仲良くなった友達とは飲み屋でつき合えばよいわけで,それ以上深い仲になったらお互いの嫌な面が見えてしまうということもあるじゃないですか。
あと,こちらが好きだなと思うと,相手もこちらを気に入っていることが多いですよね。逆に,こちらが嫌だなと思う人は,こちらのことも気に入らないことも多い。でも芸能界は人間関係の世界だから,嫌われるのは損なんですよ。だから,こちらが気に入らない人に好かれる必要はないけれど,嫌われないようにするということが必要です。それなりの態度で接すればいいんですよ。
―芸能界のみならず一般の会社内などでも通用する話ですよね。
モト冬樹さん 友達がいない奴は結局みんなに好かれようとするから逆に友達がいないんですよね。人間的な魅力で人はつながるんだから,素の自分を出して嫌われたらそれでいいんですよ。全員に好かれる必要はないしね。人間なんて産まれてから死ぬまで,ずっと独りなんですよ。それを認めて分かっている奴と認められない奴の違いなんですよ。認めて分かっている奴は友達が多いけど,認められない奴は友達ができない。所詮独りだよと思えば楽になるのにね。
―すごい逆説的ですけど真理ですよね。でも,人間なんて独りなんだっていう台詞はモトさんの独身時代にはすごく説得力がありますけど,いまや満を持してご結婚されたわけですよね。そのあたりはどうなんでしょうか(笑)。
モト冬樹さん 僕は結婚する相手も「親友」と同じだと思っているんですよ。どういう奴と結婚するかっていうと,やっぱり人間的に好きな奴ですよ。人間的に魅力があるというのは一生変わらないけど,女性的な魅力については飽きてしまったりするんです。
―でも,奥様,奇麗な方ですよね。
モト冬樹さん もう付き合いも長いので分からないですねえ(笑)。でも,俺にない,すごいものはいっぱい持っている人だなと思います。
―その見極めに何十年もかかってしまったんですか(笑)。
モト冬樹さん 僕ももうこの年齢だし,結婚しようとは思っていなくて,このままの関係でもいいなと思っていたんです。でも人生って流れがあって「こっちに行け!」って言っているなあと感じることあるじゃないですか。これまでそういう啓示のようなものを感じたことはないんですが,今回はこれに乗ってみようかなと。
―どういう啓示があったんですか。
モト冬樹さん まあ,個人的な話ですが,(相手に連れ子の)娘さんがいるんですよ。その娘さんが「高校の卒業式に来てくれ」って言ったんです。それで,どうしようかなと思ったけど,まあいっかって,出席したわけですよ。そしたら,みんなにジロジロ見られたけどね,隠し子?って書かれたり(笑)。でも結局,彼女の大学の入学式にも行ったりして,ああ,こういうのもいいかもと思ったり,この家族を守っていくには結婚するのがいいのかなと思ったり,それでそういう方向にだんだんと向かっていったんですね。相手も結婚なんて全然考えていなかったけど,結婚しようかって言ったら「いいよ~」なんて言って,全然ロマンティックではないんですが(笑)。
―それは娘さんの計算だったのかもしれないですね(笑)。
モト冬樹さん 今でも娘とは友達みたいですよ。関西に暮らしていて普段は会えないんですけどね。娘がいた方がなんだか楽ちんで夫婦関係もいい感じなんですけどね(笑)。
―いきなり年ごろの娘ができて心配はないですか。
モト冬樹さん しっかりしているから全然心配ないですね。うちの奥さんに対しても秘密がゼロ,なんでもオープンに話してくれるし。でも,結婚も,俺が40代で結婚していたらうまく行かなかったかもしれないですね。俺にとっては本当に適齢期だったんですよね。
―結婚は三度目の正直説というのがあるとか・・・。
モト冬樹さん 周りの友達,例えば裕三とか松崎しげるさんとか3度目の結婚でやっとうまくいっているんですよね。男性も3度以上離婚すると慰謝料がもう払えないし,経済的にも肉体的にも3度目がちょうどいいんですよね(笑)。
―このたびモトさんの60歳記念という映画「こっぴどい猫」が公開されますね。試写を拝見しましたが,本当に面白い映画ですね。何というか,脚本が本当に素晴らしくて,いい意味で「語りすぎない」というか,判断を観客に委ねている余白の部分が多く,そこが絶妙でした。エンディングのカタルシスも気持ちいいくらいですし。
モト冬樹さん ありがとうございます。60歳になったときにライブやろうか,映画やろうかという話になって,面白い監督がいるよという話があったので映画をとることにしました。今泉力哉という人ですが面白い監督でね。間の使い方とか,リアルなんですよ。ドキュメンタリーみたいな感じで。
―モトさんは奥さんを亡くされた小説家の役ですね。
モト冬樹さん 僕は普段のキャラが立ってしまっているせいか,普通の役というのがあまりこなくてね。こういう役をじっくりやるのが一番やりたかったことなんですよ。主役だからできるんですけどね。
人を殺したり,病気で死んだりとか,そういう事件がなくても,人間関係だけでもすごく面白いことや怖いこともあるじゃないですか。そういうものをやりたいんですよね。
―相当入り組んだ人間関係でしたけど,分かりにくいということはなかったですね。途中からハラハラしてどうなるんだろう?って思いました。
モト冬樹さん こればかりは観て頂けないと分からないんですよ。とりあえず皆さんに観てほしいなあと思いますよね。7月28日から1か月は新宿でやってますので皆さんよろしくお願いします。
―「わたしと司法」というコーナーですから伺いますが(笑),今まで裁判に関わったとか,弁護士役をしたことはありますか(笑)。
モト冬樹さん ないですねえ(笑)。でも,僕のイメージでいえば,弁護士さんも,ある事実や証拠を前提として物語を作るわけじゃないですか。そういうところが映画っぽいなあと思うんですよね。脚本能力とか,説得能力とか必要ですよね。すごい仕事だなあと思います。しびれますよね(笑)。
―いつか弁護士役をぜひ演じてください。今日はどうもありがとうございました。