従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
元力士/NHK大相撲解説者
舞の海 秀平さん
今月号の「わたし」は,舞の海秀平さんです。舞の海さんは,身長170cmと平成の大相撲にあって圧倒的に小柄な体格で活躍し,「平成の牛若丸」と呼ばれました。得意技は左差しからの下手投げ,内無双,切り返し等。最高位は東小結。
現在は,NHK大相撲解説のほか,スポーツキャスター,タレントとしても活躍されています。
そんな舞の海さんの成功の秘訣をうかがい,成功者の生き方や考え方を学んでまいりました。
―まずは月並みですが,舞の海さんが相撲を始めたきっかけから教えて下さい。
舞の海さん 私の出身地である青森では,私が子供の頃は学校に土俵があって,相撲が当たり前の環境にありました。ですから,子供の頃から自然と相撲をとっていました。
―舞の海さんにとっての相撲の魅力を教えていただけますか。
舞の海さん 他のスポーツと違って体重別の階級がないところですね。小さい人が大きい人にどう勝つかという楽しみは相撲の醍醐味です。
―舞の海さんと言えば,三所攻め,八艘飛び,居反り,足取り,内無双など多彩な技で観客を魅了しましたが,あのような技の数々は,どうやって身につけたのでしょうか。
舞の海さん 私のように身体が小さい力士は普通に相撲をとったら大きい人に勝てないですから,自分より大きな相手にどうすれば勝てるのかということを常に考えていました。その中から色んな考えが浮かんできて,実際にやってみるわけです。ですから,必死になってやったことに後から決まり手(技の名前)がつくということが多かったです。
―稽古場では,親方から「押せ!」「前に出ろ!」「引くな!」と教わるのが一般的ではないかと思うのですが,舞の海さんの相撲は,それとは違ったタイプのように思えます。どのような稽古をしておられたのですか。
舞の海さん 私の場合は他の人と同じことをしても勝てないというのを親方もよく分かって下さっていましたので,「とにかく前に出ろ」というような指導は受けませんでした。ですので,稽古場でも本場所と同じように,考えて考えて相撲をとっていました。
―舞の海さんの真似をするような力士は現れなかったのですか。
舞の海さん 猫騙しなんかは真似する人がいましたね。(笑)
―身体が小さくて苦労されたことも随分多いのではないかと思いますが,いかがでしたか。
舞の海さん それが,苦労した記憶って無いんですよ。そりゃあ怪我をしたのは大変でしたけど,一番辛かったのは新弟子検査のときに身長が基準に足りなくて頭にシリコンを入れたときの痛みですね。あれは本当に痛かったのですが,入門してからそれ以上に辛いことは無かったです。
―相撲界では不幸な事件から「かわいがり」なんていう言葉が有名になってしまって,酷いイジメがあるのではないかというイメージもあるのですが。
舞の海さん 確かにそういう事件や報道があって相撲界に悪いイメージができてしまい,残念なことです。しかし,あれが一般的などということはありません。私の経験上はむしろ逆で,上下関係の礼儀はしっかりしていても,先輩から後輩への理不尽なイジメなどはまったくありませんでした。
―上下関係というと,後輩が先に関取になると先輩・後輩の立場が逆転してしまったりすることもある厳しい世界ですよね。
舞の海さん そうですね。私が関取になった時も,稽古の後に風呂に入ったら,昨日まで先輩だった人が背中を流そうとしてくれるんです。私は遠慮して断ったのですが,先輩から「これがしきたりだから。」と言われてとても恐縮した覚えがあります。
―舞の海さんの番付最高位は東小結で,技能賞を5回も獲得されていますが,入門当初からそこまで活躍できると思っていらっしゃいましたか。
舞の海さん そこまでは正直思っていなかったのですが,幕内で相撲を取るんだという意識は最初から持っていて,そのためにどうすればいいのかいつも考えていました。目標をしっかり定めていたことで,それに相応しい行動をとるようになりました。
―そうしますと,将来幕内で相撲をとるという目標を明確に定めて,そのために何をすればいいのか徹底的に考え抜いたことが成功の秘訣なのですね。舞の海さんの場合には,実際に身体を動かしている時間と,考える時間とでは,どちらがどれくらい長いのですか。
舞の海さん え?考えているのは,いつもですよ。稽古中はもちろん考えていましたし,食事をしていても考えていましたし,カラオケをしているときも考えていました。常にどうすれば勝てるのかということばかり考えていました。
―舞の海さんの趣味は何ですか。
舞の海さん う~ん・・・。趣味ですか・・・。う~ん・・・・・・。あっ,ゴルフします!でもゴルフのときも相撲のことをずっと考えていましたね。(笑)
―ただ,考えに考えてもそれを実践するだけの体力は当然必要になりますよね。
舞の海さん はい。ですから,今日は意識的に前に押す稽古をしようとか,目的を持って稽古をすることが必要になります。私の場合には大きい人のように1日30番の稽古をしたりすることができないので,半分の15番でもいかに集中して密度の濃い稽古をするかということを考えました。例えば,私の場合は左の下手を取ってからの攻めが得意なのですが,下手を掴んで絶対に離さないようにすることによって今は自分の腕のどの筋肉が鍛えられているのかということまで意識しながら稽古していました。
―理想の力士はいらしたのですか。
舞の海さん いないです。確かに,過去にも私と同じぐらい身体が小さくても強い力士はいました。しかし,昔はお相撲さんの身体が全体的に小さかったのです。平成に入ってからは力士の大型化が急速に進みましたから,そういった過去の力士の相撲は全然参考になりませんでした。
―相撲の稽古場というと土俵が1つしかないのは何故なのでしょうか。たくさんあった方がより多くの力士が同時に稽古できて効率的なように思うのですが。
舞の海さん やはり土俵がたくさんあると意識が散漫になるんです。それくらい集中して稽古をしているんです。そのために土俵を1つにするというのは,昔からの知恵でしょうね。
―相撲人気は一時と比べると少し持ち直しているようですね。
舞の海さん そうですね。ただやっぱり優勝するような日本人力士が出てこないと厳しいです。相撲人気が低下すると相撲界を志す日本人が減り,強い日本人力士がさらに減って人気も落ちるという悪循環になってしまいます。
―相撲を見る方にはどこを見て欲しいですか。
舞の海さん 激しい攻防ですね。力士の方も,ただぶつかって押して一瞬で終わるような相撲ばかりではなく,もっと考えて工夫して面白い相撲をとって欲しいと思います。
―今日は,舞の海さんの思考の力が成功を生み出したということがよく分かり,とても勉強になりました。ありがとうございました。
舞の海さん ありがとうございました。