関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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読売巨人軍投手コーチ
尾花 髙夫さん

とき
平成27年12月
ところ
東京都港区 新虎通り法律事務所
インタビュアー
会報広報委員会委員 西岡毅,喜多英博

 尾花さんは,ヤクルトスワローズのエースとして現役通算112勝。オールスターに3度選出されました。現役引退後は,千葉ロッテ,ヤクルト,福岡ダイエー,福岡ソフトバンク,読売,横浜で指導者を歴任。平成25年より再び読売の投手コーチとして,その手腕を発揮していらっしゃいます。尾花さんの指導力の本質に迫ります。

尾花さんといえば,ヤクルトのエースとして活躍されましたが,プロに入ったときから活躍できるイメージがあったのですか。

尾花さん いいえ。実は,プロに入ってからキャンプの3日目にブルペンで先輩投手達を見たときに,早くも挫折しそうになりました。ブルペンでは,150km/hを超える剛速球を投げていた投手が何人もいました。その中でも松岡弘さんは,当時既に通算100勝以上していましたから,こんな凄い球を投げる人は当然それくらい勝てるものだと思ったのです。ところが,同じように剛速球を投げていた他の3人の投手は,合計しても1勝しかしていないと知って愕然としました。この人たちが勝てないのでは私のボールでは通用するはずがないと思いました。

それがその後プロで通算112勝もできたのはどうしてなのですか。

尾花さん 3日目で挫折して打ちひしがれていたときに,球は決して速くないものの抜群のコントロールで大活躍をしていた,安田猛さんという先輩投手のピッチングを見たのです。私は「自分の目指す形はこれだ!」と気が付き,そこで自分の生きていく道が明確になりました。
 今の選手はキャンプで2000球投げ込んだら多い方ですが,当時の私は,安田さんのようなコントロールを身につけるために4500球の投げ込みをしました。それは,目的が明確だったからできたことです。私の場合には早い時期に目的が明確になったことが,その後の成績に繋がったのだと思います。

尾花さんは選手時代からご自分で打者を分析して配球も考えておられたと聞きます。

尾花さん 私は,キャッチャーの大矢さんに1年目から色んなことを聞いて学びました。丁寧に教えてくれましたよ。私のようなコントロール主体のピッチャーは,そうしないと勝てないのです。

周りの他のピッチャーも大矢さんに質問していたのですか。

尾花さん いや~,していなかった。「なんで聞かないの?」って,よく聞いたことがあります。「聞けない。」と言っていました。

その辺りが,活躍できる選手とできない選手の分かれ目のような気がしますね。

尾花さん 良い選手は自発的に行動します。伸びない選手は,いつも指示待ちです。この差は大きいですよ。1軍と2軍が合同でウェートトレーニングをすると,1軍で活躍している選手が,集合時間より前に来て自発的にトレーニングをしています。2軍の選手は,集合時間に間に合うように来ます。ここで大事なことは,「1軍の選手だから早く来ている」のではなく,「そういう心構えで練習しているから1軍に行けた」ということなのです。そこが一番の違いです。

そうなると,ドラフトで上位か下位かは関係ないですね。

尾花さん 関係ないです。ただ,上位で入る選手には素質があります。素質というのは,肩が強い・打球を遠くへ飛ばせる・球が速い・足が速い,この4つと言われています。
 私は「素質×考え方×行動=仕事の質」という公式を作っています。イチロー選手のように素質を4つとも持っていて,考え方も行動も一流ならば,仕事の質は超一流になります。素質が一流でも,考え方と行動が二流であれば,仕事の質は二流で終わります。逆に,素質が二流でも考え方と行動が一流ならば,超一流にはなれないかもしれないが一流にはなれます。つまり,素質も大事ですが,それ以上に考え方と行動が大事なのです。
 さらにポイントは,考え方と行動が自分自身の目標達成に直結していないといけないということです。ここが一番大事なところです。同じように一生懸命練習していても,目的に向かって一生懸命やっているか,目的が無くて一生懸命やっているかは,大きな違いになります。ですから我々は,技術を教える前に「どういう選手になりたいか」という目的を明確にしてから,逆算して教えていかないといけないのです。

それはプロ野球に限らず,すべての分野に当てはまりそうですね。

尾花さん 司法試験でもそうではないですか?全部覚えればいいのかもしれないけれど,重要な部分を早く覚えて使えるようになった方が良い。それを重要でないことまで覚えて,結局どこが重要か分からないまま試験を受けて落ちたという人が多いんじゃないですか。

うわ~!仰るとおりですね!(笑)

尾花さん 我々も重要な部分をきちんとやって,それ以外の時間を休養に充てる方が良いのです。その重要な部分が何かということを,指導者が関わって明確にすることが大事だと思います。

プロの選手といっても,2軍,1軍,その中でも超一流と言われる選手まで,様々なレベルの選手がいますが,そのレベルによって指導者の関わり方は違いますか。

尾花さん 2軍の選手にはティーチング,1軍選手にはコーチングの割合が大きくなります。教え込むのか,引き出すのかという違いです。

1軍の選手は自分で答えを持っているということでしょうか。

尾花さん 答えは2軍の選手も持っているんですよ。ただ,その答えが明確ではなく,あやふやです。

戦力の偏りが出ないためにドラフト制度があるにもかかわらず,強いチームと弱いチームがあるのは,何が違うからだと思われますか。

尾花さん 選手の技術は,それほど変わりません。違うのは,考え方や心構えです。弱いチームは考え方の質が低く,「勝ちたいけれどこのチームでは勝てない。」と思っているので,チームのためよりも個人のためにプレーします。チームが1つにまとまらなかったら日本一になんてなれません。ですから意識改革をしないといけないのです。それが,時間をかけてチーム作りをするということなのです。

よく「3年後には日本一になれるチームを作ろう」というような話を聞くことがありますが,その場合,1年目はどのような目標設定をするのでしょうか。1年目は日本一を目指さないのでしょうか。

尾花さん 1年目から日本一を目指してやります。その結果が3年掛かるということなんですよ。そこをみんな間違えるのです。1年目から優勝争いに加われるように,がむしゃらにやっていかないと3年後に日本一になれません。他のチームは,普通に優勝を目指しているわけですから。1年目に優勝を目指していないチームが,3年目に急に日本一を目指す気持ちになるのかといったら,ならないんです。

それは,ご自身の選手時代を振り返ってみても当てはまりますか。

尾花さん はい。私の場合,1年目は広岡監督の下で日本一になりました。その後は5位と6位が多かったのですが,日本一になったときと比べると,雰囲気や監督から求められることが全然違いました。人間は楽な方に流されやすいので,みんな自分の成績だけ考えるようになりました。

選手のメンタルのケアに関わることもありますか。

尾花さん ピッチャーは打たれることもあります。そこで気持ちを切り替えるために,打たれた原因をきちんと追究します。それをしないと,くよくよ後悔して自信を失っていきますから。我々がスコアラーから集めた情報を提供するときも,単なる資料ではなくて,そこから選手が本当に必要な1つか2つのポイントを選んで安心材料として提供します。そうしないと,全部なんて覚えられないんですよ。投げているときに,「えーっと,なんだっけ?」と思い出しているようでは勝負にならないですからね(笑)

プロ野球選手は,活躍しているときには高給ですが,突然解雇されて給料がゼロになる危険とも背中合わせですね。

尾花さん そうです。そうなると翌年の税金が払えなくなってしまう人もいます。球団でも,税金等の問題に関しては研修制度を設けています。私の場合は給料の半分は貯金して,予定納税分を球団に預かってもらって,残りで生活していました。

堅実ですね!

尾花さん 3日で挫折して,いつクビになるか分からないと思っていたから堅実にならざるを得なかったんです。
 うちの実家は貧乏でしたから,結婚するまで両親に仕送りもしていました。私の生家は高野山の麓にあり巡礼の人がよく来るのですが,あるとき大きな団体のリーダーの方に,私の母がお布施を渡したそうです。そうしたら,その方が「お腹にお子様がいらっしゃいますね。男の子です。名前を『髙夫』とつけたら,この子は幸せになりますよ。」と言ったそうです。当時,母は妊娠に気が付いていなかったのですが,数か月経って本当に妊娠の兆候がありました。父は「生活が苦しいから,おろそう」と言ったのですが,母は「神に仕える人が言ったことを無視できない」と言って,私を産んでくれました。だから私は運が良いのです(笑)
 PL学園高に入れたのも,軟式野球でスカウトが相手チームのピッチャーを見に来たときに,たまたま私が7回まで21個のアウトのうち15個三振を取り,相手のピッチャーはあまり調子が良くなかったのです。それで私がPL学園高に入れることになりました。
 社会人野球では,プロのスカウトが,私のチームメイトの中出(南海ドラフト1位)というキャッチャーを見に来ていました。そのときのヤクルトの片岡(宏雄)スカウトが,練習後毎日グランドを30周走っている私を見て,「こいつは広岡(達朗)監督に好かれるタイプだ。」ということで注目してくださったのです。そして,私もスカウトが見に来ているときに,たまたま試合でノーヒットノーランを達成することができて,ヤクルトに指名してもらいました。

話が少し変わりますが,尾花さんは保護司をされているのですね。

尾花さん はい。ヤクルトのコーチ時代からですので,もう20年近くになります。街頭に立って,刑務所に入った人が種から育てた向日葵やボールペンを配ったり,PTAで講演したりしています。

弁護士には,社会でどんな役割を期待されているとお考えですか。

尾花さん 関わった人が幸せになるための手助けをする存在だと思います。「本当にどうなりたいの?」という目的を持たせてあげる関わりをして欲しいですね。それが無いとまた,同じ繰り返しになってしまいますから。

最後に,尾花さんご自身の今後のビジョンを教えて下さい。

尾花さん 65歳まではユニフォームを着ると決めています。そこからは世の人のために貢献する人生を歩んでいきます。

もう一度監督になるということはお考えですか。

尾花さん それは自分で決められることではないですが,準備はしています。今度は,やっぱり日本一になるチームを作りたいです。優勝すると,あれだけの人達が喜んでくれる。私たちの勝敗で,皆さんが一喜一憂する。そんなことができる我々の仕事は,本当に素晴らしいと思います。最大のファンサービスは,グランドでいいプレーを見せること。期待に応えられない選手は,ファンサービスが出来ていないわけですから,文句言われても仕方ないですね(笑)

本日はありがとうございました。ますますのご活躍を期待しております。

尾花さん ありがとうございました。

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