従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
フードスタイリスト
マロンさん
今月号の「関弁連がゆく」は,フードスタイリストのマロンさんです。
マロン(本名:板井典夫)さんは,ただの料理人ではなく,お皿や食卓全体を総合的にプロデュースするフードスタイリストとして,テレビや雑誌等でご活躍されています。
そんなマロンさんに,食に対する思いから人生観まで,色々と伺ってまいりました。
― 出身は佐賀県唐津市ということですが,簡単に略歴を教えてください。
マロンさん 生まれは長崎県対馬で,子どもの頃は唐津の西の東松浦郡鎮西町(注:現唐津市)という肥前名護屋城があったところ,名護屋城からだと壱岐対馬が見えるところで育ちました。今は唐津市の観光大使もやらせていただいています。仕事をスタートして今年35周年で,ちょうどいいときにインタビューして頂いてうれしい。今年58歳になりました。
― 東京に出てきたのはいつ頃ですか。
マロンさん 忘れもしない1979年3月15日!大阪のあべの辻調理師専門学校に1年行って東京に来ました。当時19歳,何にもないところからスタートしました。
― 東京に出てきた目的は何ですか。
マロンさん その頃コックさんと呼ばれた,料理を作る人になりたかったの。
― そうすると最初は東京のお店で働いてたのですか。
マロンさん 辻調理師専門学校を首席で出たから学校の推薦でその当時銀座にあったレンガ屋ポール・ボキューズに入れました。でも理想と全然違ったのね。料理は肉体労働,先輩も厳しかった。今は違うようですけど当時はそれが当たり前でした。
― そのお店で何年くらい働きましたか。
マロンさん 1年で辞めましたが,毎日皿洗いやホールの仕事ばかりでした。グラスで手を切っても絆創膏貼ってやるような世界。料理で火を使うなんてところまではいきませんでしたよ。ただあの時代のレストランの世界を体感させてもらえたのは,今思えばありがたいことですよね。
― 料理に興味を持ったきっかけは何ですか。
マロンさん 小学校低学年くらいから台所に入ってました。当時は男子厨房に入らずの時代,男の子が台所に入るのも否定されてました。でもうちは祖母が料理上手だったから一緒にいわしのつみれを作ったりしてました。料理は五感。それから五味(注:酸味,甘味,苦味,塩味,旨味)のバランスが料理を成形します。おばあちゃんの味も五味のバランスがよくてそれを体感できたことが,今の私に活きてます。
― おばあちゃんの影響が大きいんですね。
マロンさん おばあちゃん子でした。よくおばあちゃん子は優しく育つっていうけどあれは当たってるわね。一人っ子だったし,近所の人や親戚縁者にも可愛がられました。昔はよく親戚が集まって宴会してましたけど,大人にビールを注いで回ったりしてね。
― 料理を作ることが好きですか,それとも作った料理を食べることが好きですか。
マロンさん その全てでしょう。作ってみなきゃわかんないし食べてみなきゃわかんない。単に食べるだけじゃなくて,コミュニケーションをとったり楽しむことも大事。人に振る舞うときは食べてくれる人の笑顔が私のごちそうですからね。コンビニのごはんを一人で食べるときでも少し味を付けたり工夫しなきゃ,とお伝えしてるんですよ。食に対しては決して受け身になっちゃだめ。受け身な人からは元気を感じないもの。「これが食べたい」っていう選択肢をいくつか持つこと。ただ食べるだけではまるでエサみたいで切ないでしょ。
― なぜフードスタイリストというのですか。
マロンさん 洋服にスタイリストさんがいるように,自分は食をスタイリングするんだと思って1983年に名乗りはじめました。自分が表現できる料理の世界の楽しさを感じたんでしょうね。幼い頃観ていたNHK「きょうの料理」に出られたときはうれしかったな。日本テレビで放送していた「おネエMANS」は,キャリアがある人達の中で私は料理の代表として出させてもらいました。「レッツ!」では,今は速水もこみち君がやっている料理の枠をやらせてもらってました。全国ネットの生放送。あれは鍛えられましたね。あとは10年間レギュラーで「3分クッキング」のテキストを連載してましたが,雑誌の世界で活躍の場が広がりました。
― こういう味を作ろうと思って,思い通りの味が作れますか。
マロンさん 極端に思われるかもしれないけど料理にレシピはいらないから,五感と五味で推理できると思う。でもお菓子は別で,膨らませたりするのは化学ですからね。お菓子から料理に入るのはいいと思う。繊細さや味の組み合わせ,色の組み合わせの勉強は料理に活かせます。料理はセンスとテクニック。技術が蓄積されてきたらレシピはいらないけど,初めて料理をやる人にはやはり必要ですよね。レシピを作るときはお子さんが見ても作れるようにと思って書いてます。
― 外のお店にも食事に行きますか。
マロンさん たくさん行きますよ。それも仕事ですね。他の人からおいしいと聞いても信用しないの。自分で実際に味わってみないと納得しない性格です。今も昔も,変わりません。
― 料理が嫌になったことはないですか。
マロンさん そりゃありますよ。でも今はいい意味で肩の力が抜けてきました。世のお母さんたちも忙しい中で頑張って料理をしてると思うんだけど,もう少し楽をした方がいいんじゃないって思います。少し味付けや見せ方を変えて工夫すれば立派なごはんに。手を抜いたら料理じゃない。手間は抜いても大丈夫。今のコンビニは充実してるから,私だって利用することはありますよ。無性にフライドチキンとコーラが飲みたいときは素直に従うの。パーティでもポテトチップスとお酒があればいいじゃない。そこにディップがあれば。外国人のパーティって結構質素なもの。うちの母もそうだけど,おもてなしというと日本人て,なぜか,頑張っちゃうでしょ。
― 好きなことでも頑張りすぎると嫌になることってありますよね。ところで,なぜ「マロン」というお名前なのですか。本名(板井典夫)には「栗」という字はないですよね。
マロンさん 若いときのニックネームなんです。いがぐりみたいに髪の毛がツンツンしてたから。その時代はテクノが流行ってみんなツンツンしてました。おしゃれに敏感でした。
― 今料理以外に興味があることはありますか。
マロンさん 歌!シャンソンとか好きな歌をうたってます。私は食と音楽をつなげたいと前から思っていて,そのために何をすべきか,今いろいろと今も,模索中。料理やスタイリングは味,色,香りでつくられるバランスの世界。それが私の中にはある。そういうことを分かりやすく伝えていきたいんです。一つの料理でも100人いれば100通りできるのが料理の世界ですから,そこが楽しいところです。
― 料理は五感ということですし,音楽とつながるとおもしろそうですね。ところで,マロンさんは自分が男性だという認識で,恋愛対象が男性ということですか。
マロンさん そう。私はゲイ。でもその線引きは微妙でいろんなタイプの人がいる訳だけど,それでいいんだと思う。私がなんとなく気づいたのは中高生くらいで,悩んだときもありました。幼稚園の頃から女の子の友人がいっぱいでした。女性とは気が合うんです。今も変わらないですね。女性の中でも自分がどんどんリーダーシップをとるようになってました。
― 悩んでいたときもあったということですが,気持ちの変化があったのですか。
マロンさん 21歳頃かな,類友といえる友達も集まってきて,自分と同じような人もたくさんいるんだなって気付きました。
― 今は性別にとらわれずにパートナーと結婚するという選択肢もありますよね。
マロンさん 結婚はないな。他人同士が一緒に住むなんてすごいよね。私は実家を出てからずっと一人暮らし。一緒に住んだ生きものは猫だけです。
― セクシャルマイノリティであることに悩んでいる方に何か伝えるとしたら。
マロンさん 前向きに生きてくってことじゃない?明日が来ない日はない,明日のために今日がある訳だから,明日は今日より良い日になるってこと。明けない夜はないし,止まない雨はないでしょ。
― マロンさんの今後の活動を教えてください。
マロンさん 食に関わることで私が役に立つことを続けていきたい。誰かが喜んでくれる,そこに笑顔があるから,これからも私は食を愛して生きてきたいと。これから私は汗と恥をかいてかなきゃいけないの。肉体労働ということじゃなくて,若い時は見せたくないこともあったけど,もうそんなこと言ってる場合じゃないし。前向きにポジティブに生きていくために汗と恥をかくことは大事なんだなって思います。
― これまで弁護士と交流したことはありますか。弁護士に対してどういうイメージをお持ちですか。
マロンさん 交流はありませんでしたね。イメージは真面目。固い。単なるイメージだけです。私と真逆だな。でも一緒に居酒屋に行ったら面白いかも。そういうときに人の背中が出るじゃない。イメージと違うその人の意外な面が。それが人間的で面白いじゃない。
― 最後に,簡単にぱぱっと作れる美味しいおつまみのレシピを教えてもらえますか。
マロンさん もちろん。じゃあお水を使わないマロンのカンタン鶏鍋で。まず土鍋を用意して,鶏の手羽先とか手羽元(800グラムくらい)に塩,あらびき黒胡椒。フライパンにごま油を熱し炒めて焼き色を付けるのがポイント。鶏を土鍋に移して日本酒をどぼどぼ(2カップくらい)。煮立ったらシイタケ,エノキ,シメジ(各1パック)を入れる。キノコは洗わなくていいのよ,石づきは取ってね。何種類か入れて楽しむのがポイント。その上に切った白菜(1/2個)を覆うように重ねて蓋をするだけ。沸騰したら弱火にして水分が出てきて野菜がくたくたになったら香りのごま油をかける。味付けは塩,あらびき黒胡椒。野菜の水分があるからスープは入れなくて大丈夫。食べ方はポン酢醤油でも,ポン酢醤油にめんつゆを少し入れてもいい。あとはラー油で辛くしても。
― 美味しそうですね。冬にいいですね!
マロンさん そういう食べ方や魅せ方を伝えるのが私の仕事。よくお弁当で色が足りないってただプチトマトを入れる人,センスないわよ。これ書いといて!(笑)それで救われないでちょうだいよ!って言いたい。一人で食事するときでもお皿の中をスタイリングしてくださいね。テーブルもお皿の中と一緒。味と色と香りを楽しんで!
― はい!食事に対する意識って大事ですね。本日はとても勉強になりました。ありがとうございました。