関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

鳴戸親方,元大関琴欧洲
鳴戸勝紀さん

とき
平成30年6月7日
ところ
東京都墨田区
インタビュアー
会員広報委員会委員 柿田徳宏,村上朗子

今回は現役時代大関琴欧洲として大きな体で堂々とした相撲をとって活躍し,現在は初のヨーロッパ出身親方として自身の部屋を立ち上げた鳴戸親方を訪ねました。優しさと厳しさを兼ね備えた鳴戸親方の魅力をご覧ください。

日本に来るまでブルガリアでは大学に通ってレスリングをしていたのですよね。相撲を始めたきっかけは何ですか。

鳴戸さん 大学に入って知った。「ブルガリアにも相撲があるんだな」と思って。でも土俵がなくて,レスリングが終わった後にレスリングマットの上にシートをひいて相撲の練習をしていた。日本のわんぱく相撲で使えるような。

ブルガリアでは相撲の四十八手の技を全て教わっていたのですか。

鳴戸さん 2年に一度に相撲の教員が入るけど,教員は相撲のことよくわかってないですね。なんとか日本の真似して相撲っぽいことをやっていた。

相撲をやっていこうと思ったきっかけは何ですか。

鳴戸さん 相撲を教えてるコーチに「興味ありそうだからやってみないか」と言われて始めた。それからブルガリアでは1年間レスリングと相撲を同時にやっていた。ブルガリアでは相撲をやる人が少なくてブルガリア1位になって,ヨーロッパ大会に出たときにスカウトされた。

ヨーロッパ大会で特に相撲が強い国はありましたか。

鳴戸さん ポーランド,グルジア,ロシア,ドイツなど。ヨーロッパ大会は自分のキャリア終わって30歳過ぎてる人が多い。パワーリフティング,レスリング,柔道などで選手生命終わった人が遊びでやってる。相撲はオリンピック種目にないので。

レスリングと相撲の違いは。

鳴戸さん 短時間で勝負がつくこと。レスリングは階級,年齢が分かれている。相撲は体重も年齢も全部無差別。レスリングは一日何試合もあって体力勝負。相撲は10秒で終わることもあるし,必ず強い人が勝つとは限らない。それが面白い。

ブルガリアと日本の共通点は。

鳴戸さん ない。唯一あるとしたら目玉焼きがあること。玉子焼きは日本で初めてみた。

相撲教習所に入った頃は日本語を理解できていましたか。専門用語などがあって難しそうですが。

鳴戸さん 日本語は少しはわかった。教習所は楽しかった。同級生たちと一緒に稽古して。

日本語を覚えるのに一番役に立ったのはなんですか。よく外国の方がカラオケで日本語を覚えるとかいう話を聞きますが,そういったことは何かありますか。

鳴戸さん 役に立ったというより覚えるしかなかった。カラオケはあまりしない。歌は苦手。幼稚園生がひらがなカタカナ覚える絵本などもあるけど,そういった勉強ができたのは関取になってから。それまで勉強する時間はなかった。稽古と掃除や片付けで気付いた時には寝る時間。勉強する時間ゼロ。

関取になるまで日本食には慣れていなかったとのことですが。

鳴戸さん 慣れるか慣れないかという問題じゃないです。食べるか,食べないで痩せて次の日力が出ないか。あるものを食べて飲む。この場所で寝る。生き延びるためにはそのルールに従うか辞めて帰るかどっちかしかない。特別扱いゼロ。好き嫌いとかなかった。食べないといけなかった。常に苦しかったですね。美味しくは食べたことないですね。番付が上の方から順に大皿にあるおかず食べるから,下の方までいくとおかずが残ってない。それで「ご飯はどんぶり5杯食べなさい」と言われて。何も味がついてない冷たいかちんこちんのご飯。おかずもちゃんこの汁しかない。食パンだけ食べろと言われて食べられますか?バターとかジャムとかないと食べられないでしょう。それと同じ感覚。だから新弟子で入ってから関取になるまでの1年半で体重2キロしか増えてないです。関取になってからは大関になるまで1年半で体重25キロ増えた。だからどんどん上に行った。

食べないと大きくならないし,でも食べ物はそれしかないから食べないといけないとは厳しいですね。

鳴戸さん 私が入った時はどんどん辞めてました。10人いたら8人か9人は辞めていた。残るやつは強いやつかよっぽど何も考えてないやつか。

やはり関取になるかならないかで全然違うのですか。

鳴戸さん 全然違う。大部屋から個室になる。付き人が付く。場所手当から月給になる。天国と地獄ですよ。年は関係ない。

現役時代にこの人とは組みたくないな,と思うような相手はいましたか。

鳴戸さん いないです。まわしさえとれば9割私が勝つ。誰とでも組みたい。まわしとれば「よし」と思う。左も右も下手も上手も。それくらい自信があった。逆にちっちゃい人,左に右に回って嫌だった。大関としてはどっしりと構えないといけなかった。立場が違う。相手としては倒したら勝ち。でもこっちには立場がある。

著書を拝見すると取組前はビデオを見て作戦を立てていたとのことですが,多分観ている側としてはそのように分析しているイメージはあまりないと思いますが。

鳴戸さん 私が入った時は稽古してちゃんと食べて寝れば強くなる,と言われてた。緊張して夜寝られなかったときに一度師匠(故元横綱琴櫻)に相談したことがある。そしたら「がーっとビール飲んで寝れば大丈夫」と言われた。昔の人はそれだけ。何も語らない。今も半分くらいはそのまま。でも,私は親方として,場所だけでなくて稽古のときもビデオ見せてる。なかなか自分の横の姿を見ることはないので。口だけで言ってもなかなかわからない部分も見てわかったりする。

当時「琴欧州」(※平成18年に「琴欧洲」に改名。)として有名になったきっかけはブルガリアヨーグルトの化粧まわしだったと思うのですが,あのまわしはどのような経緯で作られることになったのですか。

鳴戸さん 日本に来た時,もともとブルガリア大使館と明治乳業(現・明治)に交流があって,明治乳業にブルガリアからお相撲さんが入ったという情報入っていたようですね。でも将来的に幕内入ったときに作ってもらった。明治と年間契約をしたのは三役に上がってから。大関取りの場所の直前くらい。

相撲が他のスポーツと違うところは?

鳴戸さん ただ勝てばいいというものではない。礼儀もある。礼で始まって礼で終わる,ガッツポーズしてはいけない,相手のことを考えて。勝った上で相撲の内容,力強くて優しくて,というのがあるべき。

平凡な質問ではありますが,日本に帰化した理由は何ですか。

鳴戸さん 一つしかない。日本の国籍がないと親方になれない。それしかない。

日本人はなかなか横綱や大関になれる人が少ないが,体の大きさは関係ありますか。

鳴戸さん ここ(胸のあたりを指差す)の違い。関取に上がって満足してしまったらそこで終わり。さらにその上を目指して頑張るか。そこの違いですよ。ただやってるだけでなくて目標持ってやってるからどんどん上がってくる。自分を追い込んで追い込んで上がってくる。満足したらそこどまりです。だから大学卒業したお相撲さんは大変です。一定のレベルがあるので入ったらすぐ幕内に上がっちゃう。大学まで活躍できたけど,十両幕内と進んでそこから伸びていくか,「自分のレベルが大体これくらいだ」,「関取になった」,「よかった」とそれを維持してるだけ。22歳から入ったら人間として出来上がってるから師匠は多分やりづらい。出来上がってる人を変えるのは難しい。大学生で入った人を根本的に変えることはなかなか難しい。一定のレベルは行ってるけど,そこから上目指すか,なかなか目指さない。

それなりにプライドもあるでしょうしね。

鳴戸さん そうです。学生横綱になったのに泥まみれになってやるかっていうとやれないです。

鳴戸部屋のお弟子さん達は皆さん10代で入っているのですか。

鳴戸さん 大体そうですね。みんな未経験ですよ。柔道,空手,レスリング,剣道,サッカー,卓球。日本の大きい子は柔道やる。レスリングあまりしない。入門したらみんながみんな関取になるわけじゃないけど人間としても育っていく。頑張ったら関取にならなくてもこの後の人生頑張れる。真面目にやっていけば絶対次には繋がっていきます。

鳴戸親方は引退してからは出身の佐渡ヶ嶽部屋で部屋付親方として後進の指導に当たっておられましたが,平成29年4月に独立して鳴戸部屋を創設されました。親方になってお弟子さんをとるのと,部屋付きの親方とで色々違うと思いますが。

鳴戸さん 責任が全部私にある。稽古場で教えるのもそうだし,人間としても育てないといけない。部屋のマネジメントもしないといけない。色んなところへ行ってスカウトする。(お弟子さん達の)お父さんでもある。すごく忙しいです。東京だけじゃない。年三回地方場所もある。相撲できる環境を作るために布団まで全部準備するのが私とおかみさん。マネージャーみたい。大きいところはマニュアルができてるが,それがないのでゼロから何もかも作らないといけない。自分が思うようにはできるけど大変。

そういう点では弁護士も同じかもしれませんね。私も一人で事務所をやっていて全部自分でやらないといけないので,それは共通点と言えるかもしれません。

鳴戸さん 弁護士も相撲も医者もそうだけど,他の仕事と違って自分が倒れてなにかあったら終わり。自分の健康管理もしないといけないです。

日本の文化で相撲以外に興味があることありますか。

鳴戸さん 色々あるけど現実はいっぱいいっぱいです。部屋が落ち着くまでは。稽古の日は稽古場にいるし,休みの日はどこかへスカウトに行くとか,マネジメントでいろんなとこ行かないといけない。相手できてないのが自分の子供です。部屋と住んでる場所が別々なので自宅と部屋を一緒にしたいです。時々帰ってくるおじさんになってる。さみしいです。下の子は相撲嫌いと言っていた。「なんで?」と聞くと「相撲あるときお父さんいない」と言って。地方場所行くと一か月以上いないので。

弁護士と接する機会はありますか。

鳴戸さん ほとんどない。でも後援会長が弁護士さん。なんかあったとき相談できると思うと心強い。知り合いの紹介でなってもらった。

貴重なお話をたくさん聞くことができました。本日はどうもありがとうございました。

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