従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
日本体育大学体育学部准教授,日本オリンピック委員会強化スタッフ
岡田 隆さん
今月号の「関弁連がゆく」のインタビュイーは,体育学者の岡田隆さんです。
岡田さんは,日本体育大学体育学部の准教授として体幹筋群,筋肥大,減量等に関する研究を進められる傍,自らの研究の実践としてボディビルの大会でもご活躍中です。また,各種メディアでも「バズーカ岡田」の愛称で活動をされており,更に井上康生監督が日本柔道の監督に就任されて以降は日本オリンピック委員会の柔道の強化スタッフもお務めです。
他方,インタビュアーの鈴木周会員も,筋トレの愛好家であり,コンテスト等にも出場されております。
今回は,そのようなお二人による筋肉談義を中心にお送りさせていただきます。
― 岡田先生,初めまして。私も筋トレをやっているものですから,本日は楽しみにして参りました。いやしかし,さすが「バズーカ岡田」と言われるだけあって,近くで見るとすごい肉体ですね。先生に比べると私(*鈴木周会員)なんか爪楊枝みたいです。85㎏くらいありますか。
岡田さん 今73㎏くらいですよ。コンテスト時には69㎏くらいです。薬を使わないナチュラルボディビルは,筋肉が異常に大きくなるという事が起こらないので,体重以上に大きく見えるような工夫したボディメイクが大切なんです。
― お,そうですか。意外な感じですね。すごく大きく見えますが,骨格がよくてバランスよく筋肉がついているからですかね。ベンチプレスなんて160㎏ぐらい挙げるんじゃないですか。
岡田さん Maxは180㎏ですね。近頃は130㎏位で大胸筋に効かせるようにやってます。ただ,あんまり時間が取れないので,週4~5回,それも30分くらいしかできなくて,不本意な体になっているんですよ。
― 不本意って…いやいや,ホント,十分すごい肉体ですよ。ボディビルは若い時分からやっておられたのですか。
岡田さん コンテストに出るようになったのは社会人になってからですが,体は小学生の頃から鍛えていました。アーノルド・シュワルツェネッガーの「コマンドー」を見て,「あんな体になりたい!」と感化されて,始めたんです。
― コマンドーに感化された人,私の周りにも多いですよ。私の頃はもっと古くてブルース・リーの「燃えよドラゴン」でした。ちなみに愛称の「バズーカ」は何に由来しているのですか。
岡田さん 太ももの筋肉がバズーカのようだと言われていたからですね。ちょっと前まではボディビルダーにはニックネームを持っている方が結構いたんですよ。
― ご経歴を拝見したところ,都立西高校から日本体育大学に進学されてますね。これは結構珍しいパターンじゃないでしょうか。
岡田さん ええ,後にも先にも私一人しか聞いたことないですね。高校に入学した時に,日体大出身の柔道の先生がいらして,柔道部に入るように勧められたんです。私も,柔道なら筋トレの成果も出やすいですし,もともと生物など自然科学の分野にも興味があったものですから,「どうせやるなら今しかできないことをやろう。」と思って,柔道をやりつつ体のことも勉強していったんです。
― そうすると,一般入試ですか。てっきり柔道のスポーツ推薦かと思っていました。
岡田さん 高校では日体大の受験指導なんてしてくれなかったから大変でしたよ。進学後も柔道は続けていたのですが,靭帯を切ってしまったので,選手としては断念せざるを得なかったのです。その怪我のリハビリをする中で,いろいろ勉強して腹筋や背筋などの体幹筋の作りや人の体の動かし方などに興味が出て,その方面の研究職に進むことにしたんです。
― 岡田先生は研究テーマとして減量も取り扱われています。弁護士にも体重を減らしたい方が多いかと思いますが,最近ブームの糖質カットという方法はお勧めでしょうか。
岡田さん 一時的に糖質をゼロにするような極端な方法ですと,体重の減り方も早いですが,残念ながら同じくらいの期間で大きくリバウンドしてしまうと思います。タンパク質はしっかりと摂って,糖質は様子を見ながら量と摂取タイミングを調整して,そして脂質を制限しながらゆっくりと体重を減らしていくと,戻るときもゆっくりですので,再度の減量の際にも調整がしやすいと思います。
― 参考になります。それで日体大卒業後は,同大学の大学院で博士課程前期まで勉強されて,博士課程後期は東京大学の生命環境科学に進まれていますね。
岡田さん はい,「筋肉博士」として有名なボディビルの日本とアジアの元チャンピオンである石井直方先生のところで,勉強させて貰いました。
― 筋トレやっている人にしてみたら神様みたいな方ですよね。ボディビル繋がりですか。
岡田さん 特段そういうわけではなくて,純粋に研究のためです。スポーツ選手を強くしたいとか,リハビリに役立てたいとか,そういったことを勉強しに行ったんです。だいたいが,「パンツ一丁になって,人前で筋肉見せるなんて気持ち悪いな。」くらいに思っていたくらいで,そのあたりは普通の一般人の感覚に近かったですね。
― いまでこそだいぶ変わってきましたが,ひと昔前は世間一般の目なんてそんなもんでした。皆さんすごく真摯に毎日努力されているのに,世間的には「ムキムキ」とか言われて白眼視されてました。それがどのようなきっかけで,コンテストに出るようになったのですか。
岡田さん 大学院を出て,千葉の了徳寺大学で教えていた時に,オープンキャンパスで大きな高校生が,「岡田先生にボディビルを教わりたい。」って訪ねてきたんです。「別に僕はボディビルを指導しているわけではなくて,肉体の研究をしているだけだ。」って言ったんですが,本人がすごく真剣で,しかも浮ついたところのないよい学生だったので,「これは本気だな。若者の夢を支援するのも自分の仕事かな。」と思って,彼の入学後に一緒にジムを回ったり,トレーニング方法を探求したりしたのですが,教えるには自分も大会に挑戦しないといけないと思い,2014年からはコンテストにも出るようになったのです。
― 後に学生チャンピオンになる向井竜太さんですね。ちゃんと夢がかなってよかったじゃないですか。今はどうされているんですか。
岡田さん はい,今は,ジムを経営する会社の幹部になっています。
― 岡田先生自身は,16年に日本社会人選手権で優勝して,17年,18年と日本選手権にも出場されてますね。
岡田さん はい,あと19年には日本クラス別選手権70㎏級で3位になっています。
― え? クラス別で3位って,相当すごいですよ。70㎏級は最激戦区ですし。あと少しで,日本選手権(体重無差別)も上位12名の決勝に進めるんじゃないでしょうか。
岡田さん 可能性はあると思っています。残念ながら今年はコロナの影響でどの大会も中止になってしまったので,来年以降に持ち越しですけれどね。
― コンテストの控室なんてマッチョがすし詰めでゼーハーやってますから三密もいいとこですしね。それに減量中は免疫機能が落ちますし,仕方ないところです。来年で思い出しましたが,先生は柔道の五輪チームの体力強化部門長もやっておられるんですよね。
岡田さん はい,2012年に井上康生監督に声を掛けて頂いて,リオ五輪,東京五輪までお手伝いすることになったんです。先月も奈良の天理でナショナルチームの合宿に帯同しました。
― 主には競技力向上のための筋力トレーニングの指導ですか。
岡田さん そうですね。実は,井上監督になるまで,柔道選手は,あまり筋トレをやっている人は多くなかったんです。大抵は,畳の上の稽古と走り込みくらいのものでした。筋肉をつけると可動範囲やスピードに悪影響が出るような考えがあったんですね。ですが,それですと,欧米の選手はとても背中や肩,腕の筋力が強いものですから,どうしても力負けしてしまうのです。幸い,井上監督は選手時代から積極的に筋トレを取り入れていた方だったので,筋力強化も競技力向上のために重要と考えておられて,私に声が掛ったんです。
― そのおかげもあって,リオでは男子は全階級でメダル獲得,金メダルも2個取りましたね。素晴らしい成果じゃないですか。
岡田さん うーん,スタッフとしては金4個いけると思っていたんですけどね。柔道ですと,銀も銅も,いっぺん負けてるわけですから,いわば死んだようなものだから,うれしくない,金以外は要らない,みたいな感じなんですね。だから現地は決して明るい雰囲気ではありませんでした。
― いやいや,日本国内では大成果に沸いてましたよ。まあ,でも,100㎏超級では,原沢久善選手が銀でしたが,相手のリネール選手が,ポイントリードしたとたん逃げ回ってそのまま試合終了,あれでリネール選手もずいぶん評判落としましたね。
岡田さん まあでもルールの範囲内ですし,負けは負けです。それに欧米の選手は力が強いので,袖をつかみに行ってもすぐ切られちゃうんです。だから先にポイントを取られた段階で既に苦しいんです。その意味でも筋力強化は大事ですね。
― 昨日IOCのバッハ会長も来日されましたし,2021年は東京五輪が無事行われるといいですね。
岡田さん はい,選手も春先は目標を見失ってモチベーションが上がらない感じでしたが,秋口に入って再び気合が乗ってきました。来年開催されたら,全階級金メダルを目標に頑張るつもりですよ。
― 東京五輪の後はどうされるんですか。
岡田さん 五輪や柔道の関連の仕事は一区切りかなと思っています。やりたい研究もありますし,ボディビルにも本格的に復帰したいと考えています。現在,日本ボディビル&フィットネス連盟のジュニア・マスターズ強化委員長を務めているのですが,やはりマスターズに自分で出てみないと分からないこともあるなと思っています。今年40歳になったのですが,肉体が大きく成長を続けてくれるのもあと3~4年くらいかなと思いますので,頑張りたいと思います。
― ところで,ボディビル競技だと,あまり法律家の出番はないでしょうか。
岡田さん そうですね,他のスポーツのように選手同士が接触したりということもないので他人との間でトラブルが発生するということは基本的にはないですし,スポーツ代理人を付けているようなビルダーもいませんね。ただ,今後,何か制度や仕組みを作る際に弁護士さんと協働していくようなこともあるかもしれませんね。
― なるほど。これからのご活躍にも期待しております。本日は大変ありがとうございました。