従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
NPO法人神奈川子ども支援センターつなっぐ代表理事,弁護士
飛田 桂さん
今号の「関弁連がゆく」は,「NPO法人神奈川子ども支援センターつなっぐ」(以下「つなっぐ」といいます。)の代表理事で弁護士(神奈川県弁護士会)の飛田桂さんです。飛田さんは,2014年に弁護士登録後(66期),子どもの権利委員会や刑事弁護センター運営委員会などに所属し,子どもが直面している様々な問題に注力してきました。苦しむ子どもを救うべく設立された「つなっぐ」と,活動の一つである「付添犬」について,お話を伺いました。(つなっぐHP)
― 「つなっぐ」とは,どのような団体ですか。
飛田さん 一言で表現するのは難しいのですが,虐待を受けた子どもに対して,色々なサービスを提供する団体です。病院,警察,検察,裁判所,区役所,児童相談所などの各関係機関と連携を取り,子どもを中心とした「ワンストップのサービス」を届けることを目標としています。
― 「つなっぐ」というネーミングはどのように付けられたのですか。
飛田さん 一緒に代表理事をしている田上先生(神奈川県立こども医療センターの田上幸治医師)と事務局長の新井香奈さんと一緒に考えた名前です。「子どもと大人や必要なものをつなぐ」という意味と,「周りの大人がタッグを組む」という意味を合わせて付けました。あと,「つなぐ」を動詞形というか,動いている感じにするという意味でも「つなっぐ」という名前にしました。
― 「つなっぐ」はどのように設立されたのですか。
飛田さん 私が田上先生の勉強会に行っていて,その勉強会の懇親会がきっかけです(笑)。私は縁があって,元々愛知県で同じような団体を設立しようと思っていたのですが,その話を懇親会で田上先生に言ったら,田上先生から「私も2015年くらいから病院内にチャイルド・アドボカシー・センター(以下「CAC」といいます。)を作れないか考えていた。一緒にやろうよ!」と言っていただきました。ただ,弁護士の私と医師の田上先生では前に進まないと思い(笑),子ども関係の団体のことをされていた新井さんに声をかけて,設立へ動き出しました。そして,様々な方のご支援やご協力を受けて,「何としてでもこのNPOを設立させたほうがいいんだ」というメンバーの意思の下に設立することができました。
― 「つなっぐ」の目的を教えてください。
飛田さん 日本にないものを導入するのは,共通の認識がないと難しいと思うのですが,田上先生も私も,アメリカのCACを見学したことがあり,ラッキーなことに「そのようなNPOを設立する必要性がある」という共通の認識がありました。CACでは,「重要で必須の要素の一つは,多職種連携である」とされていて,警察,検察,児童相談所,病院,弁護士など多職種が連携を取るために,「それぞれの職種を横につなぐ」ことが求められています。私たちも「それぞれの職種を横につなぐ」ことを目的としています。
― 「つなっぐ」は2019年4月に設立されましたが,設立する前に感じていたことはどのようなものでしたか。
飛田さん 私は,子どもに関することは比較的多くやらせていただいていて,私が関与している問題は様々な機関と連携を取ることができるようになっていました。ただ,「私が死んだら,私が今関与している子どもはどうなるんだろう」,「私が関われない子どもはたくさんいる」などと思っており,属人的ではない方法が必要だと考えていました。「つなっぐ」を設立して,色々な方が関わってくれますし,子どもに渡せるサービスの幅も広がりました。
― 運営費用とかお金の面はどのようにされたのでしょうか。
飛田さん まさにそこが最大の課題でした。新井さんの尽力で,ロータリークラブなどで講話をさせていただき,講話の費用や寄付をもらったりして,手元のお金を増やしていきました。現在は,神奈川県に協働事業の申請をして,お金をいただいたり,講演会や研修を開催してその費用をいただいたりしています。今後の課題は,どうやって持続可能な運営をするのかということだと思っています。
― 研修ではどのようなことをするのでしょうか。
飛田さん 子どもに対する支援の研修で,具体的には,警察,検察,児童相談所,裁判所や弁護士などの役割がどのようなものなのかをそれぞれの専門家に話していただくものになっています。弁護士としては,刑事事件だけではなく,民事事件や家事事件を含めて,子どもにとってどういうことが考えられるかをお伝えするものとなっています。今は,2か月に1回,Zoomで開催しています。
― 研修の申し込みはどのようにすればいいですか。
飛田さん HP記載のメールか電話で申し込むことができます。是非「つなっぐ」のHPを見てください。
― 子どもの案件は,どのようなルートで「つなっぐ」に来るのでしょうか。
飛田さん 学校,病院,児童相談所,子どもの弁護士などから連絡が来ます。
― 「つなっぐ」では,各関係機関とはどのような連携を取られているのでしょうか。
飛田さん 各関係機関と密に連絡を取り合い,役割分担をしています。例えば,外出できない子どもがいる場合に,子どもと定期的に連絡を取り,一緒にご飯を食べに行くなどしています。その経過を見てきて,その子どもの状態を関わっている各関係機関と情報共有して,どういうことが必要かを話し合います。その子どもから話を聞くのは「つなっぐ」がやって,病院に連れて行く場合は児童相談所の方にも一緒に来てもらうなど役割分担をしています。弁護士にわかりやすいと思うのは,子どもが裁判所で証言をするときのことだと思います。例えば,遮へい措置を取りたい場合などには上申書を作成したり,医師に診断書を作成してもらうために病院の予約や同行したりします。そのときも,あくまで中立的に「証言をしてもしなくてもいいんだよ。するんだったら応援するよ。」というスタンスでいます。私たちは,あくまでも第三者で,子どもが証言する際の負担軽減のための支援者であり,被害者代理人と協働はするんですが,被害者代理人として活動するわけではありません。
― 子どもが警察官や検察官の事情聴取を受ける際に同行することもあるんでしょうか。
飛田さん 同行はしても事情聴取への同席は原則しません。あくまで子どもの支援者なので,子どもが事情聴取を受ける際の場所,例えば警察署などではなく,もう少し柔らかい雰囲気の会議室を用意したり,「付添犬」が一緒に入れるように用意したり,事情聴取前後に一緒にご飯を食べたりします。ただ,そのときもこちらから積極的に話を聞いたりはしません。子どもの状態や言動に注視しています。
― 弁護士はどのように関与できると考えているでしょうか。
飛田さん 子ども用のシェルターに入るときには,必ず子ども担当の弁護士を付けるのですが,私としては,全ての子どもに担当の弁護士を付けることができたらと思っています。担当の弁護士がいることに喜ぶ子どもは多く,味方をしてくれる人が一人でも多くいることは重要だと思っています。弁護士の良いところは,法的な解決能力もなのですが,膨大な問題点を整理する能力が高いところです。各関係機関で起こっているすれ違いを端的に整理する役割と,子どもの支援者としての役割を同時に担うことができます。そして,子どもが証言をするという観点では,被害者支援などの刑事裁判の制度を知っている弁護士以外にはできないことだと思っています。
― 2020年8月に関弁連管内の地方裁判所の刑事裁判で,公判への「付添犬」の同伴が許可されたというニュースを見ました。「つなっぐ」が取り組む「付添犬」の活動についてお聞きしたいのですが,「付添犬」とはどのようなワンちゃんをいうのでしょうか。
飛田さん まず,「付添犬」とは私たちの造語です(笑)。上申書を提出する時に,何がしっくりくるかを考えて,「付添犬」と書いたら,それが通ったので,そのまま「付添犬」となりました(笑)。「付添犬」の活動は,児童精神科医の新井康祥先生(楓の丘こどもと女性のクリニック院長)と獣医師の吉田尚子先生(公益社団法人日本動物病院協会理事)が始められました。子どもが話をするときのサポートの一つです。家庭裁判所調査官による調査,捜査機関による事情聴取や裁判所での証言に付き添ったりします。
― 今までにワンちゃんの裁判所への同伴が許可された事例はあったのでしょうか。
飛田さん 傍聴での同伴が総務部で許可されたことや家事事件の家庭裁判所調査官調査の前後で触れ合うことが許可されたことはありますが,公判へのワンちゃんの同伴が許可されたのは初めてです。今後は,刑事事件以外でも,家事事件の家庭裁判所調査官調査などの際に「付添犬」の同伴を許可してもらえたらと思っています。
― 子どもに「付添犬」を付けるかはどのように判断するのでしょうか。
飛田さん まず,「つなっぐ」の付添犬認証委員会がワンちゃんとハンドラーをそれぞれ認証し,さらに事案の性質や子どもの状態が派遣に適しているかを検討して,「付添犬チーム」を派遣します。その際には,「ワンちゃんと親和性があるかを見極められる大人がいること」が重要なことであると考えています。また,コートハウス・ファシリティ・ドッグの制度に則って,ワンちゃんと親和性があるかを見極められる人とコーディネーターとして法曹関係者が関わる状況でやっています。
― なぜコーディネーターとして法曹関係者が必要なのでしょうか。
飛田さん 何となく「ワンちゃん同伴すればいいじゃん」と考えるのではなく,刑事裁判の制度を知っていて,「付添犬」を同伴するためにはどういうことが必要かなどを知っていて,準備できる人がコーディネーターとしていないと,裁判所に「付添犬」を同伴することは実現しません。そのため,法曹関係者が関わることが必要なのです。
― ワンちゃんと親和性があるかを見極めるに当たってはどんな手順を踏みますか。
飛田さん 子どもの見極め,ワンちゃんの見極め,事案の見極めを,それぞれの専門家がしています。子どもの見極めと事案の見極めをする法曹関係者が同一人物であるとベストです。ただ,法曹関係者が日常的に子どもの状態を見ることができないことも多いです。その場合には,例えば,児童相談所において,子どもの見極めを,丸山洋子先生(名古屋市中央児童相談所)のような児童精神科医や日常的に子どもの状態を見ている児童福祉司が行い,事案の見極めを児童相談所の弁護士がしてくだされば,これもベストです。あとは,ワンちゃん(とハンドラー)の見極めになります。「つなっぐ」では,吉田獣医師をはじめ,学者の山本真理子先生(帝京科学大学講師),社会福祉法人日本介助犬協会の水上言センター長や髙栁友子専務理事といった動物の専門家がかなり丁寧にやってくださいます。
― ワンちゃんが足元にいることで子どもにとって良いことは何でしょうか。
飛田さん 人間はストレスを感じると,コルチゾールというホルモンが分泌されます。模擬的に行われた実験で,ワンちゃんのぬいぐるみを持ち込んだ場合,優しい人が付き添った場合,ワンちゃんが付き添った場合を比べると,ワンちゃんが付き添った場合に格段にコルチゾールが下がるという研究結果があります。もう一つ,アメリカで行われた研究で,子どもと大人の面接官との関係性作りに非常に役立つという結果も出ています。また,事情聴取などで話をして自分の被害体験に集中することは,被害体験を脳に刻み付けていくことになるので二次被害につながってしまいます。でも,ワンちゃんが足元にいると,そのワンちゃんを見るだけでその集中をそらすことができるし,話しているときにワンちゃんの寝息が聞こえてくると緊張を安らげてくれるんです。私も経験したことがあるんですが,その場にいるみんなが緊張している中で,完全なリラックスモードでグーグー寝ているワンちゃんがいると安心できます。
― 「付添犬」の育成はどうしているのでしょうか。
飛田さん 「付添犬」として育成しているワンちゃんはいません。「付添犬」は私たちが付けた名前だから(笑)。子どもが話す場にいて,私たちが認証して,派遣することを決めたワンちゃんを,その場での名前として「付添犬」と呼んでいます。公益社団法人日本動物病院協会と社会福祉法人日本介助犬協会と連携を取っているのですが,その推薦があるワンちゃんが全て「付添犬」になれるとは限らないんです。「付添犬」に必要な要素は,機敏に状況判断できることではなくて,どんな場所でもグーグー寝てくれることなので(笑)。
― 「付添犬」を付ける子どもに費用は掛かるんでしょうか。
飛田さん 子どもからは費用はもらっていません。
― 「つなっぐ」の中で「付添犬」はどのような存在でしょうか。
飛田さん 非常に大きく重要な存在で,子どもにとってフレンドリーな存在なのですが,「子どもの生活支援」の中の支援の延長と考えています。「つなっぐ」の役割は,「子どもの生活支援」で,子どもに対する法的支援が必要な場合,具体的には子どもが証言する場合に初めて「付添犬」の話が出てくることになります。「子どもの生活支援」ができなければ,法的支援も「付添犬」の支援もできないので,子どもにとって大切なのは「生活支援」であることをわかっていただければありがたいです。
― 弁護士という存在は子どもをどのように支援できると考えているでしょうか。
飛田さん 弁護士って本当にものすごい許可証をもらっていて,弁護士でないとできないことが多いと思います。弁護士でないと,子どもに付き添いたいと思っていても,それだけでは,警察,検察,児童相談所,病院などの関係機関と連携を取ることはできません。弁護士が持っている力は大きいので,その強力な力で子どもを助けて欲しいと思います。そして,トラウマの眼鏡で見ることや子どもの生活支援に少しでも目を向けていただけると,より一層幅が広がると思います。でも,それら全てを弁護士がやることは難しいので,「つなっぐ」を利用してもらい,少しでも負担を軽減して,子どもの生活支援につなげていきたいです。
― 今後,「つなっぐ」を通じてどのような活動をしたいと考えていますか。
飛田さん まだ始まったばかりで,設立から2年目にしてようやく色々な機関からご理解を得られるようになり,活動の幅がすごく広がってきました。今後は,「子どもの生活支援ができること」を定着させたいですし,日本全国に広めていきたいと思っています。
― 私たちが「つなっぐ」の力になれることはあるでしょうか。
飛田さん 一番は一緒に仕事をしてもらえるとありがたいのですが,賛助会員になっていただいたり,寄付をしていただけると本当にありがたいです。「つなっぐ」のHPに記載があるので,是非ご覧いただければと思います。
― 最後に読者の方に一言お願い致します。
飛田さん 「つなっぐ」を設立した当初は泣きそうなぐらいの孤独感にあったのですが,様々な方から「必要だよ」,「頑張って」などご支援やご協力をいただき,ここまで来ることができました。でも,まだまだ始まったばかりで,知らないことばかりです。子どもについての実務経験が豊富な先生方,研究されている先生方がたくさんいらっしゃると思いますので,是非ご連絡していただき,色々と教えていただけるとありがたいです。
― 本日はどうもありがとうございました。
付添犬の現場チーム。
左から,元付添犬フランちゃん,ハンドラーの田野裕子さん,事務局長の新井さん,飛田さん,付添犬ハッシュくん,ハンドラーの桑原亜矢子さん