関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

漫画家
真鍋 昌平さん

とき
2022年2月16日
ところ
東雲総合法律事務所
インタビュアー
会報広報委員会委員 小南あかり

今号の「関弁連がゆく」は,漫画家の真鍋昌平さんです。真鍋さんは,現在,弁護士を主人公とした漫画『九条の大罪』を連載されています。同作品の主人公は,依頼者にとっては「いい弁護士」であるものの,世間的には「悪徳弁護士」と評される人物で,そのリアルな弁護士像は連載直後から大きな反響を呼んでいます。また,前作の闇金業者を主人公とした漫画『闇金ウシジマくん』は,社会の裏側とそこで生きる人間像がショッキングなほどリアルに描かれていて,読者の記憶に残る作品となっています。真鍋さんの作品は,人間やストーリーをリアルに描くことで,読者の感情を強く動かし,時には時間をかけて読者を考えさせることもあります。今回真鍋さんには,作品の作り方等,いろいろなお話をしていただきました。

いつ頃から漫画家を目指されていたのでしょうか。

真鍋さん 小学生の時に『ドラえもん』を読んでめちゃくちゃ感動して,そこから漫画家になろうと思いました。6巻でドラえもんが未来に帰らないといけなくなったときに,それまで何も成長しなかったのび太が初めて自立しようとするんです。そこまでの流れに人のドラマがちゃんとあって,成長する過程という大事な部分をちゃんと見せてるなあって思いました。

漫画家という職業につかれたのはおいくつの時ですか。

真鍋さん 商業誌にデビューしたのが26歳でした。一番最初に漫画が誌面に載ったのは20歳頃で,当時渋谷パルコが出してたフリーペーパーで『ハトくん』という漫画が賞を受賞したんです。人生が上手くいってない青年が鳩を見て,のんきで気楽そうで羨ましいと思うんです。それで鳩になりたいと願うと鳩人間なってしまったんですけど,実際鳩人間になると蔑まれてもっとひどい目に遭っちゃうみたいな(笑)。

設定が面白いですね(笑)。デビューのきっかけは何ですか。

真鍋さん デビューするには,まずは自分が好きな漫画雑誌に投稿するんですよ。25歳の頃に投稿したアフタヌーンという雑誌で大賞をとって,それからデビューしました。

大賞をとるために何か対策を立てたりされたんですか。

真鍋さん 過去に大賞を受賞した漫画を全部読んで傾向を調べました。要は審査員の先生の好みに合う必要があると思ったんですよね。自分が応募した時は『孤独のグルメ』を描かれた谷口ジロー先生が審査員で,谷口先生がチョイスしてるものって人間ドラマが描かれているものだな,という感じでリサーチをしたんですよ。大賞とったら100万円くらいもらえるので,バイトも全部やめて,賞金で返そうと思って消費者金融でお金借りて,3か月で描き上げてっていうことをやりました(笑)。

ドラマ化・映画化もされた『闇金ウシジマくん』はデビューから何年後の作品ですか。

真鍋さん 4年後ですね。その前に作った『スマグラー』という作品が評判良くて映画化もされたんですよ。でもその後の短編とか連載とかが全部打ち切りになったんです。漫画はアンケートで人気が出ないと連載が続かないので,打ち切りは自分が必要ないと言われているようでめちゃくちゃ苦しいんですよ。そこですごく落ち込んで,どうやったらアンケートで一位獲れるか考え直したんです。自分が描きたいものプラス読む人の読みたいものが何なのかを考えないといけないと思ったんですね。それで人間をちゃんと描かないといけないと思って始めたのが『闇金ウシジマくん』なんです。お金を中心の物語にしたらほとんどの人が関係ある話になるじゃないですか。当時闇金がすごく流行ってた時代でもありましたし,犯罪モノの映画とかもすごく好きだったんで,金融屋って凄くいいなって思って。

闇金の世界は実際には知らない世界だったんですよね。

真鍋さん 2巻目あたりから実際に人に会って取材するようになりました。当時は,今皆が知ってるような暴走族みたいな集団に関する情報が全くなかったんですよね。そういう集団を取材していたライターの先生に地元の不良の人たちを紹介してもらって,その人に違う人を紹介してもらってみたいに広がっていきました。

その方たちの話は犯罪の告白みたいになりそうですね。

真鍋さん 大体は「自分の話じゃないんだけど」と言って話してくれます(笑)。

『闇金ウシジマくん』の2巻目以降は実話なんですか。

真鍋さん 創作もミックスさせて作っています。でもその世界を知る人からは,めちゃくちゃリアルだと言われます。

『闇金ウシジマくん』は16年連載されましたよね。読むと気持ちが下がってしまうことが多いのですが,読者に対するメッセージのようなものはあったのでしょうか。

真鍋さん 人そのものを描きたいなと思っていたので,メッセージ性がどうかっていうつもりでは描いていないです。美化する必要ってないし,描いている内容はお金がないとか人からお金を借りるとか,人が怖いと感じることなんですよね。なんか人の面白さとか可笑しみとかを描いたという感じですかね。

現在ビッグコミックスピリッツで連載中の『九条の大罪』は,裏社会の人達を表側の人間の視点で描いていますが,前作の『闇金ウシジマくん』は,裏社会の人達を主人公にして裏社会の視点で描かれていましたよね。両作は裏社会を描くことに共通点があると思いますが,今回弁護士の視点から描くことに何か意図はありますか。

真鍋さん ウシジマくんは限界も感じてたんですよね。ああいう犯罪者を本当に毛嫌いする人って多いんですよね。だからよくあそこまで売れたなって思ってます(笑)。弁護士の先生は,やっぱり社会的に信用がすごくある方たちなので,それをフィルターにしたら読者の方も読みやすくなるだろうと思って。ただ漫画にするのはめちゃくちゃ難しくて,最初ものすごく苦労しました。

『九条の大罪』の登場人物の名前は京都の地名から取られていますよね。九条先生(『九条の大罪』の主人公弁護士)も京都の九条通りからきていると思いますが,弁護士は「九条」とみると憲法9条と関係あるんじゃないかと勘繰ってしまうみたいで,実際に「キュウジョウノタイザイ」と読む人もいるみたいです。

真鍋さん 憲法9条とは全く関係無いです(笑)。自分は文字も絵として見る癖があって,『九条の大罪』としたのは,二個漢字があって真ん中に「の」があって,また二個漢字っていうのが,覚えやすいなって思ったんですよね。だから話のタイトルも全部そういう風に揃えてます。『九条の大罪』は弁護士の先生が読んで面白いんでしょうか。

面白いです!最近は,接見の時に被疑者から弁護士倫理上問題がありそうな質問されたりとかお願いをされたりすると,九条先生ならなんて言うかな,と想像しています(笑)。

真鍋さん それめちゃくちゃ嬉しいです!

連載を始めて反響はどうでしたか。

真鍋さん 1話目の後に,「犯罪を助長してる」とか,「こんなの載せるな」みたいな苦情の電話が編集部に沢山きちゃったらしいです。

苦情を言いたいくらいリアルなものとして読まれたということでしょうかね。1話目は「いい弁護士は性格が悪い。」から始まって,相当クセの強い弁護士も出てきますから,弁護士からの苦情もありそうですね。

真鍋さん 弁護士の先生方からもやっぱり批判はありますね。モデルにさせていただいた方からも怒られました(笑)。あと,「性格が悪い」というのは,取材して思ったんですが,弁護が上手な人はできるだけ相手が嫌がる方向に持っていくじゃないですか。良い人ってまず相手のことを考えると思うので,そういう意味で性格が悪いってことですね。

九条先生はイケメンですよね!モデルはいらっしゃるんですか。

真鍋さん イケメンの方が漫画は好かれるっていうので(笑)。キャラクター自体は,ビジュアルとか性格とか作っていかなきゃいけないんで,そのまんまってことではないですが,すごい感謝してる先生方とお会いして伺った内容を使わせていただいてます。

九条先生は,第1話で「思想信条がないのが弁護士だ。」と言い切っていますし,依頼人の犯罪を隠ぺいするようなこともしていて,最初は何でもする嫌な弁護士なのかなと思ってました。でも,「家守さんは頑張りました。」と依頼者を救うような一言を言うこともありましたよね(『九条の大罪』3巻「家族の距離⑭」)。

真鍋さん 九条先生は依頼人に対してはすごく尽くすタイプなんですよ。あの一言は,依頼者がこれまで気を張って頑張って生きてきたことに誰かが気付いてあげないと,事件が終わっても依頼者の中では何も解決しなくて,それであえて言ったって感じですかね。以前取材した静岡の先生で,高い再犯率を変えるために,裁判で有罪判決が確定した人のその後の人生までケアしている方がいて,この仕事はここで終わりっていう風にやっていない。そういうやり方に影響を受けていると思います。

「いい弁護士は依頼人の話をよく聞く」とか,リアルなセリフも沢山でてきますが,取材の中で聞かれた言葉が入っているのですか。

真鍋さん そうですね。色々な方の言葉を組み合わせたりもしています。

ところで,真鍋さんが描く人物は,表情がとにかく豊かで,表情で感情が読み取れ過ぎて,読み手の感情を直撃してしまうというのが私の感想です。本当にみんな独特の表情をしていて,例えば,悲しい時こんな悲しい顔するかっていうくらい悲しい顔をするじゃないですか。セリフがなくても絵を見ただけで感情が強烈に読み取れてしまう。あの表情はどうやって描かれているのでしょうか。

真鍋さん 実は,登場人物が泣くシーンは,自分も泣いているんですよ。恥ずかしいから人には見せたくないんですけど(笑)。事故で夫を亡くした妻が被告人に向けたものすごく怖い顔(『九条の大罪』1巻「片足の値段」)とかは,自分もそこに気持ちを持っていくようにして描きました。

登場人物になりきっている感じですか。

真鍋さん そうですね。自殺の話を描いているときは,自分も自殺したくなってしまって。けっこうやばかったですね。そのときは当時の編集の方が夜中に来てくれて,朝まで友達と飲んでなんとかなりました。

そんな表情豊かな登場人物の中で,九条先生はほとんど表情が変わらないんですよね。内心で何を考えているかも描かれていないので,とてもミステリアスで主人公として魅力的だと思います!九条先生のお兄さんは検事ですが,検事にも取材されていますか。

真鍋さん 少ないですが,一応繋がりはあります。裁判官もあります。

取材されて弁護士に対するイメージは変わりましたか。

真鍋さん 50人以上の方に会いましたが,取材する前と後では全然違いましたね。元々は別次元の方たちで怖いというイメージもありましたが,話すと皆さん話が上手いし,やっぱり真面目な方が多いなと思いました。独特な面白い方もいましたけどね。弁護士の先生も人間なんだなって思いましたよ(笑)。あとは,やっている案件で性格とか雰囲気変わってくるんだなと思いました。

たしかに,主に何をやっているかということにも個性は出るかもしれません。今お仕事はどんなスケジュールでされていますか。

真鍋さん 連載が月3回で1回休みみたいな感じです。漫画を1話書き上げるのに,大体8日かかるんですよ。ネームといって話を考えるのに大体3日から4日,絵を描くのが4日で,ネームのときに資料や素材集めもします。漫画描いていないときも休みじゃなくて,取材受けたり,取材行ったり,弁護士の先生に個人的に呼び出されたりとか(笑)。

そのお忙しい中でどうやって息抜きされていますか。

真鍋さん 犬の散歩が一番の息抜きになっていますね。ドーベルマン飼っていて,1日2時間くらい相手しています。

漫画描くこと自体は今も楽しまれていますか。

真鍋さん 毎週やらなきゃいけないのはうんざりしますよね(笑)。でも絵ってやっぱりすごくいいんですよ。3人のスタッフと一緒に作ってるんですけど,いいのが上がってきたときはすごいテンション上がるし,見開きとかで抜け感のある絵を入れるのは気持ちいいですよね。あと面白い話が作れたときはやっぱり気分がいいんですよ。そのために描いているみたいなもんですね。サウナみたいな(笑)。

自分の感情みたいなものを漫画で表現して毒抜きするような感じもあるのでしょうか。

真鍋さん それもあるかもしれない。読む方はたまったもんじゃないですけどね(笑)。

私も読ませていただいて,しっかり落ち込んでいますよ(笑)。

真鍋さん 以前,読んだ後に世界が変わるっていうか,見える風景が変わるものが良い作品で,自分の漫画もそうなっていると言われたことがあるんですよ。読者を良くない気持ちにさせたかもしれないけど,それは成功だと思っています(笑)。

私は間違いなく真鍋さんの作品を読んで見える風景が変わりましたね。最近,漫画を描くのをデジタル化されたそうですが,紙とペンで描いていた頃と比べて作業時間などは変わりましたか。

真鍋さん 圧倒的に変わりましたね。アナログのときは,見開きの背景一枚描くのに2日3日かかってたんですね。だから残りの時間でできることを計算して配分考えると,書き込めないこともあったんですよ。デジタルだと,腕時計とか指輪とか入れ墨とか,最初に一個作ってしまうと使い回せるんですよ。だから入れ墨もめちゃくちゃ凝っていて,自分の中では絵の質が上がったと思っています。

最後に,もし真鍋さんが逮捕されたら,どんな弁護士に依頼をしたいですか。

真鍋さん やっぱり話を聞いてくれる先生に頼みたいです。毎日接見に来てくれる先生もいるじゃないですか。凄くいいなあって思って。

たしかにそういう弁護士だと心強いですね。3月30日には『九条の大罪』5巻も発売されたということですが,今後の展開もすごく楽しみにしています!本日はありがとうございました!

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