関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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長崎ヴェルカ ヘッドコーチ
前田 健滋朗さん

とき
2023年6月26日
ところ
リモートインタビュー
インタビュアー
会報広報委員会委員 西岡毅、柿田徳宏

今回の「関弁連がゆく」は、男子のプロバスケットボール「B.LEAGUE」の1部リーグである「B1リーグ」に今年から参戦する「長崎ヴェルカ」のヘッドコーチ、前田健滋朗さんです。
長崎ヴェルカは、長崎市をホームタウンとするチームで、2020年の創設からわずか3年で1部リーグへの昇格を果たしました。
前田さんは、他のチームでのアシスタントコーチを経て、現在では長崎ヴェルカのヘッドコーチに就任されています。
そんな前田さんに、コーチのことからバスケットボールの雑学まで、色々とお話をお聞きしてきました。

まずは略歴を教えてください。

前田さん 学生時代はバスケットボール漬けです。小学生のときは大阪で2位になって、中学生時代も選抜に選ばれたりしましたので、プレーヤーとしての自信もありました。その後、高校バスケットのために地元の大阪を離れて福井の北陸高校に進学したんですが、そしたら、ちょっとレベルが違うところに来てしまった、と。ベンチメンバーに入ることもできず、ずっと応援席で応援していました。大学では、幸い東洋大学にスポーツ推薦で進学できて、4年間選手としてプレーしたんですが、その頃、先輩が大学院でバスケットボールを研究しているというのを聞いて、なんとなくそれまで考えていなかったバスケットのコーチというものも自分の視野に入ってきたなかで、大学院に進学しました。

コーチの道へお入りになる直接のきっかけは何だったのでしょうか。

前田さん 大学院2年生の時に、アルバルク東京(※当時のトヨタ自動車のチーム)の練習見学に3〜4か月ぐらい毎日行っていたんですが、チームへの参加のお声がけをいただいて、最初は無償のインターンでしたが、その後、契約に至りました。

アルバルクは何かコネクションがあったんですか。

前田さん その時のアルバルクのヘッドコーチのベックさんが月に1回開催されていたコーチクリニックに参加していたんですが、ベックさんが、参加者全員に対して、興味があったらいつでも練習も見に来てくださいとおっしゃっていて、その言葉に甘えさせていただきました。

その後の留学の経緯を教えてください。

前田さん 大学院ではバスケットの戦術分析をしていたので、アルバルクでも、分析担当のコーチだったんですが、将来的にはアシスタントコーチを希望していました。アシスタントコーチなら、英語を話せた方が、外国籍のコーチや選手とコミュニケーションが取れるなと考えていた折、17歳以下のバスケットボール世界選手権を見に行ったんです。女子はオーストラリア代表が優勝したんですが、17歳以下なのにバスケットの戦術がしっかりしていることに非常に感心しました。その後、たまたまのご縁として、オーストラリア出身のコーチが日本で講師を担当されたコーチクリニックに参加させていただいた時に、オーストラリアに興味があるというお話をしたら、現地のコーチを紹介してあげると言われて、1週間後に行くことにしました。

そんなに早く決断されたんですね。

前田さん ちょうど5日間ぐらい休みがあったので、すぐに行かせてもらって、その時に、2人のコーチを紹介していただきました。そして、その次の年に3週間ぐらい下見に行き、更に、その次の年に、実際にシーズン通して勉強に行きたいと連絡を取ったりして、オーストラリアに留学するという流れです。ただ、チームに入れる保証っていうのは現地に行くまで全くなかったんですが。

その後、アシスタントコーチ経験を経て、現在は長崎ヴェルカでヘッドコーチをされているわけですが、まずは、B3、B2リーグからの最短期間でのB1リーグ昇格、おめでとうございます。スピード昇格の要因は?

前田さん ありがとうございます。チームが一丸となって、その結果、B1昇格を勝ち取れたと思っています。オーナー、我々スタッフ、選手達が、「バスケットを通して長崎を元気にしていきたい」、「見ていただく方々に楽しんでもらいたい」という思いを常に共有していました。私が言う前に選手達の方から、「長崎のために」、「ファンの皆さんのために」という言葉がどんどん出てくる。そこがうちのクラブの強みです。

B1昇格がかかった試合、負けたらまたB2という大一番の試合では、コーチとしてどのようなことを選手に伝えていたんでしょうか。

前田さん この試合だからって特別なことではなくて、自分達が持っているものを信じるということがすごく大事なので、積み上げてきたものをしっかりやろう、自分達はやるべきことやってきたし、良いゲームをする準備はできているから、あとはそれを表現しようという話をして、試合に臨みました。

その大一番の試合前はやはり緊張されるんでしょうか。

前田さん 緊張はしますね。ただ、勝ち負けに対する緊張はあんまりないです。もちろん勝ちたいと思っていますけど、相手がいることなので、勝つ時も負ける時もあります。ただ、良いゲームができないと、応援している方々も面白くないですし、選手達も歯痒いと思うんですよ。そういった意味では、まずは、良いゲームをして、その中で最後勝つチャンスがあって勝てるのが1番良い、と。その意味では、良いゲームをするために緊張するという。

良いゲームというのは?

前田さん 選手の良さ、チームの良さが出る時間帯がなるべく長いというゲームです。昨シーズン、何試合か酷いゲームをしてしまって、お客さんを悲しませましたし、選手もスタッフも全くすっきりしないゲームがあって、これからは、そういったゲームは絶対したくないと思っています。

今年の長崎ヴェルカのシーズンチケットは、既に売り切れの席もあって、チームの発足からこの短期間で、ここまで人気が出たのはすごいですね。

前田さん それは、この2年でクラブとして培った部分だったり、ファンやパートナーの皆さんと作り上げてきたもののおかげだと思っています。あとは、今年は日本のトップ選手のバスケットを長崎で見られるという期待もあるのかな。

昇格を狙うためにプレー面で徹底したことはありますか。

前田さん 長崎ヴェルカスタイルというのがあるんです。ハードに、アグレッシブに、スピーディにプレーするというスタイルで、常にこれを心がけていました。このスタイルに沿って技術的な話や戦術的な話をしていましたし、メンタル的なところでも、ビッグゲームや自分たちが劣勢になる試合ではどうしても消極的になりやすいので、常に我々のスタイルはどういうものかということを思い返して、どんどん選手が積極的にプレーできるように声をかけていました。

バスケットでもメンタルはプレーに影響しますか。

前田さん めちゃくちゃ影響すると思っています。技術でも、体力でも、メンタルの上に乗っかっているので、すごく大きいと思います。

元々は分析がご専門ということですが、ゲームプランを立てた時に予想通りになる割合って、どれくらいですか。

前田さん プランがあって、実行があるんですが、プランが間違う時もありますし、プランは合ってるけど、実行がうまくいかない時もあります。B2で戦った昨シーズンで言うと、60試合やって、プレーオフもやりましたけど、完全にプランと実行がはまった試合というのは、数試合ですね。対戦相手もうちの良い部分を消してきますし、競ったゲームになってくると、ゲームプランというより、選手の気持ち一つ、例えば、1個のリバウンドで試合の流れが一気に変わるという状況になります。

ゲーム中にプランを修正、変更することもありますか。

前田さん ありますね。最悪な状況も考えてプランを立てるんですが、完全にプランが壊れてしまうという状況もありますので、そうなった場合はすぐに切り替えます。

チームにセットプレーはたくさんあると思いますが、どのセットプレーを選択するかは、どうやって決まるんですか。

前田さん セットプレーの数は100を超えていますが、選択の方法にはいくつかのパターンがあります。ポイントガードの選手(※いわゆる司令塔役の選手。)やコーチのシグナルで、動きが決まるものもあります。あと、シグナルがない状態でも、何かのアクションをきっかけに、この時はこうプレーするという、阿吽の呼吸と言ったら変ですけども、そういったものをチームで作っていきます。

選手達には、どうやってセットプレーを覚えてもらうんですか。

前田さん コート上で歩きながら説明をして、実際に練習の中で試してみて、常にそのプレーの映像をクラウド上にアップして、いつでも見られるようにしています。あとは、体育館に紙でいわゆるダイヤグラム(※バスケットコートの図上に選手やボールの動きを記載したもの)を貼っています。

今後の目標、特にB1というカテゴリでの初年度の目標はいかがでしょうか。

前田さん 中途半端なクラブにはなりたくなくて、最終的には、B1で1番になって、東アジアでも優勝するという目標がありますが、Bリーグには素晴らしいクラブがたくさんあります。彼らも何年も優勝目指して続けて、やっと優勝したわけですから、そこと自分たちが並んでいく、そして常に毎年優勝争いをしていくというのを目指しています。ただ、初年度の目標については、これまでB1に昇格したクラブで初年度勝率5割を超えたクラブはないので、現実的には、勝率5割以上や、プレーオフ進出を目指していきたいと思っています。

今年は、前田さんが過去にお世話になったコーチとの対戦が多くあると思いますが、何か意識されたりしますか。

前田さん 自分が成長する上ですごく手助けしてくれたり、大きなチャンスを与えてくれたりとか、そういったコーチ達と試合をするときは、すごく意識しますけど、非常に楽しみですね。ただ、その感情っていうのは、やはり試合中は置いておきます。勝つことで成長した姿をお見せしたいと思っていますが、あまり意識し過ぎると欲が出てきて良い判断をできなくなるので、自分を出し過ぎないように気を付けています。

コーチというのは、選手に命令できますが、チームオーナーの意向には従うという立場だと思いますが、そのバランスが難しいかと思います。

前田さん コーチは中間管理職だと思っています。オーナーのビジョンをバスケットで具現化して、どうやって選手達に落とし込んでいくか。その中間に自分がいるわけで、あまり強くディレクションするというより、その時々で、強く言う時もあれば、促す時もあるという形でやっています。

アシスタントコーチを経てからのヘッドコーチという経歴ですが、アシスタントコーチとヘッドコーチの違いはありますか。

前田さん 責任の大きさが全然違います。アシスタントコーチだと、練習でも戦術でも提案すれば良いだけですが、実際にそれを実行するかを決めるのはヘッドコーチです。不思議なもので、時には正しいことだけやっていればうまくいくものではなくて、選手も人間で感情があるので、正しいことだけをやっていても心が離れてしまうこともありますから、そこをしっかり見極めて決定していく必要があります。また、選手やチームへの影響力も全然違いますので、アシスタントコーチと同じものを見たとしても、全く見え方が違うと感じています。

バスケット全般についても雑談的にいくつかお聞きしたいんですが、試合会場でのお勧めの観戦場所はありますか。

前田さん 私はいつもコートサイドにいるので、あまり観戦の立場は詳しくないんですが(笑)、人それぞれの楽しみ方によってお勧めの場所が変わってくると思います。例えば、選手のぶつかり合いだったり、選手の話し声だったり、臨場感っていうのは、やはりコートに近い方が感じやすいです。ゲーム中、選手同士、励ましあったり、次のプレーは何をしようかとか、ミスを注意したりしていて、選手間の人間模様も結構見えるんですね。ただ一方で、近すぎるが故に、全体像っていうのは捉えにくいので、全体像で見たい方であれば、2階席やコート全体が見渡せる席が良いと思います。

日本の場合、小学生のミニバスのルールは、大人のルールと違うところがあって、例えば、ミニバスではリングの高さが40センチ低いんですが、最初から大人のリングで練習した方が良いということはないでしょうか。

前田さん リングの高さの差はよく話題になりますね。でも、大人との1番の違いはリングの高さではなくて、3ポイントシュート(※ゴールから6.75メートル以上の距離から打つ長距離シュート)がないところだと思っています。3ポイントシュートがあるとないで、バスケット競技が全然違います。スペーシング(※選手と選手の距離感のこと)が生まれないんですよね。

アウトサイドシュートがないと、ペイントエリア(※フリースローラインとフリースローレーンで囲まれた、ゴール近くの長方形のエリア)に人が集まってしまいますよね。

前田さん でも、それは仕方ないのかな、と。例えばプロのバスケットでも3ポイントがなかったら、同じようになると思います。

最近、NBA(※アメリカのプロバスケットボールリーグ)では、3ポイントの更に外側に4ポイントラインを導入するという噂を聞いたことがあります。チームによっては、練習場のコート上に、仮想で4ポイントラインを引いているとか。

前田さん うちの練習場にも、実は仮想の4ポイントラインが引いてあって、チーム名を借りて、ヴェルカラインと呼んでいます。3ポイントより外側でしっかりとスペースを取ることによって、アドバンテージを取りやすくするためです。

最後に、トラベリング関係で、最近、いわゆる「ゼロステップ」と呼ばれるステップ(※バスケットボールでは、ボールを持って3歩以上歩くことができないが、1歩目のボール保持のステップをゼロカウントするというもの)を耳にしますが、どのようなものでしょうか。

前田さん まず、新しいステップスキルとしてゼロステップというものが生まれたわけではないんです。これまでも、いつボールをギャザー(※ボールを保持すること)したか判断が難しいときは、1歩目をカウントしなかったんですが、そのような1歩目を定義して、ゼロステップと呼ぶということです。それなのに、まるでゼロステップという新しい技術が生まれたと解釈されている風潮があって、今、ちょっと混乱しているのかなと思います。

本日はありがとうございました。いつか会場でも長崎ヴェルカの試合を観戦したいと思います。

前田さん 是非長崎にもお越しください。お待ちしています。

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