関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

俳優
ムロツヨシさん

とき
2023年11月21日
ところ
フジテレビ湾岸スタジオ
インタビュアー
会報広報委員会委員 西岡毅

今回の「関弁連がゆく」では、「関弁連だより」300号発刊記念として、俳優のムロツヨシさんをお迎えしました。
ムロツヨシさんは、1999年より舞台活動をスタートされ、2005年からは映画にも進出。その後は、多数のドラマ、映画であらゆる役を演じられて、引く手あまたの大活躍をされています。
現在は、フジテレビ系列のドラマ「うちの弁護士は手がかかる」の主演として、平手友梨奈さんと共演されています。
そんなムロツヨシさんに、俳優のことから現在のドラマまで色々とお話をうかがってまいりました。

本日のインタビューですが、最初は俳優としてのムロさん全般についてお聞きして、最後に放映中のドラマ「うちの弁護士は手がかかる」についてお聞きしたいと思います。

ムロさん 丁寧にインタビューの構成まで予めお知らせいただき、ありがとうございます(笑)。

よろしくお願いします(笑)。まず、どういう幼少期を送られたか教えてください。

ムロさん いろんなとこでお話しさせてもらってはいるんですけれども、4歳の頃までは、両親、祖母と一緒に暮らしていましたが、よく喧嘩する両親でしたので、その喧嘩を止めるとか、泣いてる記憶しかないですね。自分自身がどんな子供だったかっていうことを思い出すことができなくて。その後、両親が離れ離れになって、親戚の家に預けられて、自分は誰にも迷惑かけちゃいけない、嫌われたら居場所がなくなるんだなという思いが強かったです。自分がどういう人間かっていうことを考える時間もなくて、無条件に頼れる人がいなかったというのが、大人になってから分かりました。

家庭環境でのご苦労があったということのようですが、大学は東京理科大に合格なさっていて、勉強は得意だったんでしょうか。

ムロさん 当時、僕が住んでいた神奈川では、高校入試が一発試験ではなくて、中2、中3のときのテストや内申点も加味されるという制度だったんですが、中2のときの算数のテストがすごく良くて、進学校に合格できました。その高校では、周りで受験をする人達が多かったですし、受験戦争の真っただ中ですから、良い大学に行けば、良い会社に就職できるんだなっていう感覚で大学にも行ったという感じですね。

でも、大学入学後すぐに方向転換をなさったんですよね。

ムロさん 通うのを辞めたのが、もう3週間後ですね。籍は1年間置いていましたけど。

そのきっかけは何でしたか。

ムロさん 僕の行った東京理科大学の数学科のクラスメイトは、やりたいことや目標がしっかりあって大学に来たという人が多くて、かっこ良かったんですね。僕は、受験をゲームというか、良い大学に行けばいいと思っていたぐらいの人間だったから、そこにちょっと差を感じて急に焦りました。あとは、当時、経済面でも色々と大変になっていて、入学金払ったはいいけど、今後の学費を考えたときに、自分でどうにかできるかなとか、好きなことをやった方がいいだろうなと。その頃、ある舞台を客席で見ていて、舞台のあっち側に行きたいと思って、すぐに方向転換しちゃいましたね。

それまで演技の勉強のご経験はあったんでしょうか。

ムロさん いえ、一切ないですね。映画やドラマを一方的に見るだけでした。

大きな挑戦として役者の世界に飛び込まれて、最初は苦労されましたか。

ムロさん 苦労というか、努力不足、覚悟不足の20代でした。僕は大学受験で浪人したんですが、そのとき偏差値が結構上がった方で、自分はできる側の人間だという思い込み、勘違いがあって、根拠のない自信をもってこの世界に入ったので、いろんな俳優の養成所に行っても、俺はできる側だみたいな感じだったので、周りからも敬遠されてしまって。あと、養成所には、すごくかっこいいとか、すごく綺麗とか、すごく個性のあるという方々がいるんですが、僕はそっち側ではないというのに気付くのに数年かかりました。そんな根拠のない自信だったり、できる側だっていう思い込みを失くすまでにすごく時間かかったタイプの人間です。

途中で辞めることは考えなかったんですか。

ムロさん それはなかったです。もう意地ですね。3週間で大学辞めたって簡単に言っていますけど、その時、「新しいことをやるからには、成立するまで辞めない」というルールを自分の中で作ったんですよね。なので、いくつになってもいいんで、絶対やり続けるというルールの中で大学を辞めているので、撤退の考えはなかったですね。ただ、このまま日の目を浴びずにバイトだけして年を取っていくのかなと不安に思ったことはありましたね。

そういう思いを乗り越えられて、今、大活躍をされていますが、成功の秘訣は何でしょうか。

ムロさん 秘訣っていうほどでもないとは思うんですけど、20代中盤ぐらいまでは、明日なんとかなるさという考えでやっていましたが、ある時、これではダメだと思った。それで、多分26歳くらいだと思うんですけど、自己分析して、何がダメだったかや、今までどういう風なことを考えて行動したかを自分の中で文章にしたり、自分なりのデータとして全部入れて、記憶して、すぐ引き出せる場所にしまって、それらを合わせて、冷静に決めて行動するようにしました。

そういった分析手法は、数学が得意だったというご経歴の賜物でしょうか。

ムロさん 確かにそうかもしれない。僕は、数学的帰納法という証明が大好きなんです。帰納法は、最初に結論を仮定するじゃないですか。成功するという結論を立てておいて、一つずつ必要なものを埋めていくっていう作業は自分に合っていたのかなと思います。本当は、ふらっと何気なくやってうまくいく側に行きたかったですね。もちろん、そういう方々も一見そう見えるだけで、陰では苦労されているのかなとは思いますが。

今日、お話していて、ムロさんはコミュニケーション力がすごくあって、いろんな方とうまく仕事をやれるんだろうなと思ったんですけど、何か心がけはありますか。

ムロさん 幼少期の体験は生きてると思います。あとは、1人じゃ生きていけないということを、嫌というほど痛感したというのもあります。僕、根本的に自分のスタートは舞台だと思っていて、舞台の場合、脚本作り、ギャラ交渉、そして劇場を借りて、スタッフさんも集めてっていうところからスタートするんですが、そこで思い知るんですよね、やっぱり1人じゃ何もできないと。良くない脚本でも人が来てくれることがあったり、協力してくれる人がいたりで、いろんな人のおかげで舞台に立てているわけですね。そういうありがたみを知ると、やっぱり全然意識が違います。

舞台がスタートとおっしゃいましたが、舞台で何度も演じていると、その役が抜けなくて困るというご経験はありますか。

ムロさん それはあるって言いたいですね。嘘なんですけど。

嘘なんですか(笑)。

ムロさん やっぱりかっこいいですよ、役が抜けないと言うと(笑)。なりきっちゃう。かっこいいですよね。でも、正直言うと、自分を俯瞰で見ている時間は、他の職業、他の仕事よりはあると思います。結局目の前にはお客さんがいるということをどうやったって拭いきれないまま、僕らはお芝居としてセリフを吐いているわけですので。もちろん、役がトラウマを抱えているというような場合、多少気分が重いなと感じるときはありましたけど。

良い演技とはどのようなものでしょうか。

ムロさん 良い芝居の定義は人それぞれで、好みの問題もあります。中には、僕とはルールが違うと思う流派もありますね。僕の場合は、お芝居というものを「無意識的行動を意識的に行うこと」と定義付けしているんですね。

ええ、ええ。

ムロさん 例えば、今、相槌の際に手を動かされましたけど、無意識でしたよね。仮に今の相槌のシーンを演じるとしますと、テストでも本番でも、何度も相槌しながら手を動かすわけで、それは完全に意識的行動になるんです。狙っているお芝居とでも言いますか。そして、その恥ずかしさも乗り越えなきゃいけない。でも、そういう意味では、良い芝居っていうのは狙ってないということだと思うんですけど、今度は、狙ってないことがかっこいいと思っているのがバレて、急につまんない役者です、となってしまう。そういうのは、客席に座ってる方々にはバレるんですよね。僕は、バレないギリギリのところをどうやって演じていくかっていうのをいつも考えています。

奥が深いですね。

ムロさん 逆にわざとらしいことをあえてやったり、ふと思いついた風にやったりと、色々なやり方で、のらりくらり毎日楽しんでやっています。

アメリカのロースクールでは、演劇が必修科目だと聞いたことがあります。我々弁護士も、法律相談や法廷では伝える力が要求されますので。

ムロさん 身振り手振りもそうですけど、話し方も重要ですよね。センテンスをどこで切るか、とか。ところで、先程から、僕の話を聞いていらっしゃって、そろそろ話が終わるなって分かってくれて、僕の質問の最後ぐらいから次の質問をしっかり考えられていて、すごいですね。

あ、バレてましたか(笑)。見透かされると恥ずかしいです。

ムロさん ちらちら観察していますので(笑)。

ポスター「うちの弁護士は手がかかる」

現在、放映中のドラマ「うちの弁護士は手がかかる」についても聞かせてください。本作はパラリーガルと弁護士がタッグを組んで依頼人を救っていくという作品です。そもそもパラリーガルってマイナーだと思うんですけど、ご存知でしたか。

ムロさん パラリーガルはしっかりとは知りませんでした。弁護士関連のドラマを見て、存在は知っていましたけども、何をするのか分からなかったです。

そういう場合、役作りにご苦労があるんじゃないでしょうか。

ムロさん 今回の役は、急に芸能マネージャーをクビになったその日に、とある法律事務所で、いつの間にかパラリーガルになるという役です。芸能マネージャーは僕の周りに沢山いて、ものすごい数を見ている職業ですので演じやすいですし、パラリーガルの方は、何をしていいか分からないないところから始まっている役ですので、パラリーガルを知らないまま、準備無しに演じても大丈夫でした。

今回のドラマでは、所属先の法律事務所に4人の弁護士がいますが、もしムロさんが、本当にこの事務所でパラリーガルをやるなら、どなたのパラリーガルがいいですか。

ムロさん やっぱり天野(杏)先生(※ 平手友梨奈さん演じる若手弁護士。超エリートながら、コミュニケーションが苦手。)だと思いますよ。何が起こるか分からない方が楽しいと思いますので。もしくは、(香澄)今日子先生(※ 戸田恵子さん演じる頼れる弁護士で、ムロさん演じる蔵前勉、杏が所属する法律事務所の所長)につくかもしれないですね。

お二人とも厳しいタイプの先生ですね。

ムロさん 今まで数々のバイトをしてきましたけど、やっぱりきついバイトの方が時間が進むのが早かったですし(笑)、得るものも大きいっていう考え方です。

ドラマの第6回ではウェブでの誹謗中傷がテーマでしたが、近年問題視されているSNSの誹謗中傷については、どのような感想をお持ちでしょうか。

ムロさん 僕もSNSはいくつかやっていますが、今、簡単に言葉を書き込めるわけですよね。それが、「おはよう」とか、「美味しい」とか、「嬉しい」という言葉であれば良いですけど、今回のドラマのように「お前を殺す」とか簡単に書き込める場所があって、それが目についてしまう時代っていうのは本当に恐ろしいなと思いますね。SNSには利用価値がとてもあって、コミュニケーションをみんなとできるっていう良さと、逆に怖さだったり、痛みを伴うというところでは、少し離れた方がいいかもしれないなと。僕に対しても色々な意見が目につくんですが、見ないでおく日もありますし、見たくて見る日もあります。強い自分なりの物差し、気にしないっていう意識を持てれば良いですけど、やっぱり人って、そう簡単にはできないもので、難しい問題ですね。最近は、SNS離れをした方がいいなって思う日が増えてきましたし。そういう葛藤もあるから、今回の誹謗中傷についてのセリフの場面では、結構、脚本で自分の意見も入れさせていただきました。

SNSの負の面は、我々弁護士が、もっと解決していかないといけないと思っています。

ムロさん とても難しいですよね。これから、より複雑化していくでしょうし。見えない所から石を投げていて、当たってないと思ったら実は当たっているっていうのをやっぱ気付いて欲しいなと思います。今、「デジタルタトゥー」なんて言い方をしますけど、ずっと残るっていう恐さ。でも、自分の顔や相手の顔が見える場所では、何も言えないという。その差をどうか若い世代の皆さんに伝えられたらなんて思っています。

近年では、「忘れられる権利」というものが認められるか、裁判で争点になったこともあります。最後に、弁護士に向けて何か一言お願いします。

ムロさん もし何かあったら助けてください、本当に(笑)。もちろん悪いことはしないで生きていきたいと思いますけど。あとは、弁護士の方々もみんな1人の人間ですから、あんまり抱え込まずに、毎日いい感じでサボって、美味しくご飯食べていて欲しいなっていう。僕らは、皆さんが仕事以外の時間に楽しめるようなものを生み出せるように頑張ります。あと、どっか飲み屋でばったり会ったら、声かけてください。一緒に飲みましょう。これ、書いておいてください(笑)。

はい、声掛けさせていただきますね(笑)。今日は本当にありがとうございました。楽しかったです。

ムロさん こちらこそありがとうございました。

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