従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
作曲家
三枝成彰さん
シリーズ第2回は,作曲家の三枝成彰(さえぐさ・しげあき)さんです。
三枝さんは,作曲家で,東京芸術大学,同大学院終了後,オペラ,映画,テレビなど多彩な方面の音楽活動を繰り広げている著名な音楽家です。音楽の分野以外でも,何冊もの本を著し,たびたびテレビにも出演するなど,多彩な活動をしている方です。司法問題に関しては,ご自身が関与されている会社が訴訟を起こさざるを得なくなった経験などを踏まえて,素直でユニークな意見をうかがうことが出来ました。
三枝さんは,多方面にわたる豊富な知識と親交のある著名人のエピソードなどを交えながら,終始自由闊達に語ってくださいました。
―日弁連では,今弁護士を増やそうとしていますが,どう思いますか。
三枝さん 弁護士が足らないのかどうか分かりませんが,とにかく裁判は時間がかかりすぎると思います。裁判に時間がかかるために,例えば係争しているからその間は会社やプロジェクトに出資出来ないと言われるなどいろいろな障害が出てきてしまいます。そういった障害を避けるために,自分は正しいのだから本当はとことんやって納得した判決を貰いたいと思っていたとしても,時間的なリミットがありしぶしぶ和解に応じざるをえなくなるというなんとも不合理なことが起きてしまいます。訴訟に時間がかかってしまう最大の原因は裁判官が不足しているからだと思います。訴訟促進のためには,絶対に裁判官を増やす必要があると思います。
訴訟を早くするために,弁護士も,簡単な事件だけを早く処理する弁護士とか,専門分野を担当する弁護士を分けるといったやり方をしても良いと思います。
僕は日本で弁護士の数が足りないのかどうか分かりませんが,アメリカ型の訴訟社会が正しいという考え方に基づいて弁護士を増やそうとしているのであれば問題なのではないかと思います。アメリカでは,熱いコーヒーをこぼされただけで訴訟を起こして巨額の賠償金を取ったりしているようですけど,そこまで訴訟ばかりの社会になって良いのかどうか疑問を感じています。
―法曹一元についてどう思いますか。
三枝さん 現代人は平均寿命が80歳を越えるようになって,平均寿命がかって50歳くらいだった昔に比べると寿命は約1.5倍にもなっています。それに対応しているのでしょう,人間が精神的に大人になるのも遅くなったように感じています。精神的な成長を考えると,僕は,現代人は30歳にならないと精神的には成人しないように思っています(30歳成人説)。だから,裁判官のような他人の人生を大きく左右する重要な立場の人は,30歳になってからそういった仕事につく方がいいと思います。十分な社会での経験を積んだ後で裁判官になるのはとてもいいことだと思います。その意味で,弁護士の経験を経てから裁判官になっていくのはいいことですし,そのようになって欲しいと思っています。
―陪審についてどう思いますか。
三枝さん アメリカの例を見ていると,僕は疑問があると思います。確かに裁判官が一人で決めず一般の人間の常識でものを考えることも大事だと思います。しかし,一般人は,他の人の意見に流されてしまい正しい判断が出来なくなってしまうのではないでしょうか。ですから,自分で考えて自分で判断しなさいと言われても,一般の人に本当に正しい判断が出来るのだろうかという疑問があるのです。
―アメリカでは,裁判官が陪審員に対して,裁判とはこういうものですよという話から始まって,懇切丁寧に手続きの説明をしています。陪審にはそういう一般人に対する教育的効果もあると思います。
三枝さん そういう面もあるのですか。そうなると一概に陪審制は無理があるとは言えないですね。
―本日は,長時間にわたり貴重なお話をありがとうございました。