従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが,このたび司法の枠にとらわれず,様々な分野で活躍される方の人となり,お考え等を伺うために,会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
お笑い芸人・弁護士
こたけ正義感さん
こたけ正義感さんは、現役弁護士でありながらお笑い芸人としても活動されています。
昨年は、3537名がエントリーしたR-1グランプリ(一番面白いピン芸人を決める大会)で、予選を勝ち抜いた上位8名のみで戦う決勝戦に進出されるなど、大活躍をされました。
こたけ正義感さんが芸人の道を志されたのは、弁護士になった後というのも驚きです。弁護士業とは全く異なる芸人の世界に進もうと考えたきっかけや、弁護士と芸人の両立、今後の活動等、お話をうかがってまいりました。
― ご出身は京都府京都市なんですね。子供の頃の夢は何でしたか。
こたけさん
小学生の時は、探偵になりたいと思っていました。名探偵コナンを観ていて、殺人事件の現場に出くわして犯人を見つけるっていうことをしたかったんで、少年探偵団を結成して、僕はいつも革の手帳と虫眼鏡を持ち歩いてとにかく事件を探していました。
迷い犬のポスターとかあるとみんなで街中探し回って。名探偵になりたかった(笑)。
― 弁護士や芸人を目指したのはいつ頃ですか。
こたけさん 弁護士になろうと思ったのは中学3年生頃だったと思います。将来司法試験を受けようと思っていました。
― 何かきっかけがあったのですか。
こたけさん 大したきっかけがあるわけじゃなくて、なんとなく。勉強は全然苦手じゃなかったので、勉強をして難しい資格を取りたいなと思ったのもありますし、ドラマでみる弁護士がかっこいいなとか思ったりして。あと、母親にそんな屁理屈ばっかり言うなら弁護士になればと言われて、本当になったら面白いかというのもありました。
― 弁護士を目指す前に芸人になろうとは思っていなかったのですか。
こたけさん
お笑いは子供の頃からものすごく好きでした。中学生の頃に吉本超合金っていうFUJIWARAさんと2丁拳銃さんの深夜番組があって、すごく流行っていたんですよ。それがもう面白すぎて、そこから結構お笑いとか芸人とかがめっちゃ好きになって。兄ちゃん姉ちゃんの影響もあるんですけど、すごく見ていましたね。
だから芸人になりたいとは心の中で思っていて、高校生の時とかは、文化祭で友達とコントやったりしていたんですよ。1年生の時にめちゃくちゃウケて、そこから毎年学園祭でやるみたいな感じでやっていました。ただ、まさかプロになれるとまでは思わなくて、自分が目指していい世界だと思ってなくて。
― 弁護士の方が現実的でしたか。
こたけさん そうですね。弁護士は頑張ればなれるだろうと思っていました。
― 大学は香川大学に進学されて、その後立命館大学法科大学院に進学されたのですね。当時目指す弁護士像みたいなものはありましたか。
こたけさん 大学生の頃にテレビで派遣切りの話とか、派遣村の話を聞いて、そのとき宇都宮健児先生が尽力されているのも見て、宇都宮先生みたいになりたいなと思っていました。
― 芸人になろうと考えたきっかけはなんですか。
こたけさん 弁護士になって3年目くらいの時に、妻と笑い話をすごくしていたら、妻から「そんなに好きなら芸人やってみれば」って言われて、「うん、やってみるか」となって、その場で養成所の資料を取り寄せて、という流れですね。妻は松山修習で知り合ったんですが、元々お笑いがすごく好きな人で、芸人と結婚したいと思っていたらしいです。
― 芸人になって事後的にパートナーの夢を叶えられたのですね!それまでの3年間は弁護士業をされていたのですよね。
こたけさん はい。事務所に所属して、普通に弁護士として働いていました。
― 芸人なろうと考えてからは現在所属されているワタナベエンターテインメントの養成所に入られたとのことですが、養成所ではどのようなことをされるのですか。
こたけさん 養成所に社会人コースというのがあって、毎週末に1日通えば卒業できるんですね。20人くらいのクラスで授業を受けて、ダンスとか、演技とかやるんですけど、メインは自分で作ってきたネタを講師に見せてダメ出ししてもらって直すみたいなことをやっていました。卒業した後にそのまま事務所に所属できるのはそのうち20%くらいで、最後に卒業ライブをやるんですが、お客さんの投票で順位が決まって、その成績で面接に呼ばれる人が決まり、面接に合格すれば事務所に所属できるんです。
― 芸人になるためにはやはり養成所に通った方が良いのでしょうか。
こたけさん お客さんとして見ている時にはわからない細かいお笑いの技術みたいなものがあって、プロのノウハウみたいなものを学べるので。僕は社会人からいきなりお笑いをやろうと思ったので、才能があるかどうかもわからないし、力試しというつもりもあって養成所に入りました。相方も見つけたかったです。
― 養成所の時はどんな芸をされていたのでしょうか。
こたけさん 当時は、同じクラスの子とコンビを組んで、漫才をしていました。そのコンビは養成所卒業してからも3年くらい組んでいましたね。「ほどよし」というコンビ名で。
― 養成所を卒業して芸人として事務所に所属するまでは順調でしたか。
こたけさん 割とスムーズでしたね。ただ、事務所に所属した後は全然結果も出なかったので、3年くらいやって解散しました。3年くらいメディアに出られないというのは普通なので、焦るとかでもなかったですけど、ま、芸人ってこういうもんやなっていう感じでやっていました。
― 当時、目指す芸人像みたいなものはあったのでしょうか。
こたけさん 全然なかったです。漫才をやりたいとは思っていました。
― 芸人としてデビューした時はまだイソ弁ですよね。当時のボスには伝えていたのですか。
こたけさん 養成所に通っていた時は習い事感覚だったので特に話していないですが、芸人として事務所に所属する時にボスに話しました。
― 驚かれたでしょうね。
こたけさん 驚いてはいましたけど、理解があるボスだったので「いいやんいいやん、面白いやん」と。
― その後に独立して法律事務所を開設されていますよね。
こたけさん はい。芸人の仕事に集中しようというのもありましたし、メディアとかに出だすと事務所の先輩に迷惑かけるかもしれないということもあって2019年に独立しました。コンビを解散すると同じくらいの時期ですね。お笑いの活動をすることが弁護士としてどう見られるのか読めないところがたくさんありまして、すごく批判されるかもしれないというのもあって。お笑いを本格的にやるなら1人の事務所にしようとは最初から思っていました。
― コンビを解散された後は今の芸風で活動をされていたのですか。
こたけさん 解散する前からピンでやろうかなとは考えていて、ピンになってから本当にいろんなこと試して、たまたま今の感じに落ちつきました。
― 今の芸風は、弁護士バッジもつけて完全に弁護士であることを売りにしていますよね。この芸風がいけるっていう確信みたいなものはもともとあったのですか。
こたけさん いけるって確信したことは全然ないんですけど、この形態で賞レースとか出ていたんで、これをなんとか続けていこうかって。
― こたけ正義感さんの風貌って、眼鏡で、髪の毛もビシっとされていて、全体的にスマートなビジュアルなので、世間の人がイメージする「弁護士」像にぴったりハマっているように思います。いつもブルーのシャツにグレーのベストとパンツ、赤いネクタイと弁護士バッジの姿をお見かけしますが、これは衣装ですか。
こたけさん 衣装です。バッジは本物ですが。
― この格好で法廷にいるということはないのでしょうか。
こたけさん それはないですね。弁護士のときは全くバッジ付けていなくて、お笑いのときだけ付けています。
― 今お仕事の割合は、芸人と弁護士はどちらが多いのでしょうか。
こたけさん かけてる時間としては、芸人の方が圧倒的に多かもしれません。ネタ作る時間とかあるので。
― ネタ作り、つまり起案ですね(笑)。
こたけさん そうですね(笑)。起案して、YouTubeの準備とか撮影もあるので、芸人のほうがだいぶ多くなりました。
― 弁護士は今後も続けられるのですか。
こたけさん そうですね、しばらくはちょっと芸人に集中しようとは思っていますけど、でも、弁護士をやめようとは全然思ってないです。
― 弁護士は、必ず理論的に理屈を通さないといけないし、正しいことを言わないといけないという職業だと思うんですね。芸人さんは全く逆で、不合理で理屈が通っていなくて間違ったことを言うから面白いんだと思うんです。だからこそ、弁護士という職業の人が堂々と変なこと言ってふざけるのは格段に面白いと思うんですけど、弁護士と芸人は、考え方というか頭の使い方が相反しますよね。頭の切り替えは大変じゃないでしょうか。
こたけさん それはすごくあります。最初はとにかく慣れなくて、もちろん弁護士の仕事の方に芸人の影響が出たことは多分ないと思うんですけど、弁護士のモードで舞台とか出ちゃうとふざけられなくなっちゃうというか、スイッチ入らない時は結構ありました。最初切り替えはすごく難しかったですね。今は慣れてきたので、舞台出たりカメラが回ったりすると、さすがに集中して切り替えられるようになりました。
― 弁護士と芸人はどちらの仕事が面白いですか。
こたけさん いや、これは本当に優劣つけられないです。全然違う面白さなんで。
― そうすると弁護士と芸人は両立していきたいですか。
こたけさん そうですね。でもなんか両立とも思ってなくて。その時期その時期で自分がやりたい方をやれればなって。同時進行というよりも、その時にやりたい方を選べれば1番いいかなっていう感じです。
― こたけさんが出られているYouTubeのどっきり企画で、こたけさんが「クズ弁護士」を演じられるというものを拝見しまして、面白すぎて何度も笑わせていただきました。
こたけさん あれは、本業の人にすごく怒られるんちゃうかって1番心配していた企画です。僕は、先輩弁護士たちが築き上げたイメージに乗っからせてもらってるだけなんで、それを利用されて怒る方もいるやろなって思っています。弁護士の方々へのリスペクトは最大限持っていますので、弁護士会には何かしらの形で還元したいなとずっと思ってます。
― 私は弁護士の堅いイメージを崩していただいて良いなと思いますよ。こたけさんご自身のネタとしては、マニアックな条文の紹介もされていましたよね。目の付け所が素晴らしいと思います。芸人の中ではこたけさんしかできないネタですよね。
こたけさん あれは面白そうな条文をネットで片っ端から調べまくりました(笑)。
― 最近拝見したなかに、民法の条文を最初から最後まで読み上げるというものがありましたが、あれは何の目的ですか(笑)。
こたけさん あれは、ロースクールの時に条文の読み上げ教材を聞いていたのでそもそもああいうの需要あるのかなと思って。
― 受験生向けなんですか(笑)。
こたけさん 結構僕的には受験生向けなんですけど、でも世間的にはボケてるように見えるやろうなと思って。僕はカメラ回してひたすら条文を読み上げて両方の需要を満たすというような。睡眠導入道具としても使えます。そのうち会社法もやろうかなと思っています。海が見える絶景を背景にしてやろうかな(笑)。
― ぜひお願いしたいです。会社法は読むの大変なので。アイデアはどんどん出てくるんですね。
こたけさん はい。結構どんどん出てきます。YouTubeとかで自分の作品を世に見てもらえることが増えたので。
― こたけさんのネタは弁護士には特にウケると思いますが、どうですか。
こたけさん 僕の法律のネタは、あえてミスリーディングを結構やっているので、同業者から見ていただいたらわかるんですが結構間違ったことを平気でやっているんですよ。これは一般の人が笑えばいいと思ってやっているんで、むしろ同業者には受けないと思っているんです。実際に弁護士の前でネタをやる機会もあったんですが、あんまりウケなくて同業者の前でやるのは苦手だなって。一般の法律知らない人向けに、ちょっと嘘が混じってても面白いものを出すっていう感じで、僕の感覚でやってるんです。
― 私は面白く拝見していますよ。今後の芸人としての目標を教えてください。
こたけさん やっぱり賞レースでもっと活躍するのと、YouTube企画とか考えるの好きなんで、テレビとか、人がもっと見てもらえるところで、自分がテレビの人と一緒に作った番組とかを沢山の人に見てもらえると最高ですね。テレビももちろん出たいし、なんでもやりたいと思ってます。
― 今の時期はちょうどR-1の予選中なんですよね。このインタビューが載った関弁連だよりが発行される頃はちょうどR-1の決勝が行われる頃ですよね。ぜひ決勝に残っていただきたいです。今後も応援していますので頑張ってください!