関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

精神科医
和田秀樹さん

とき
平成14年2月28日(木)
ところ
松本楼(日比谷公園)
インタビュアー
窪木登志子会報広報委員会副委員長

 今回のゲストは,昨年30冊の本を書かれ,今年もそれを上回るペースで書かれていらっしゃる,精神科医の和田秀樹先生です。
 分野は,多岐にわたりますが,主として現代日本人の火急かつ最重要分野である,①経済活動,②学習・教育,③高齢者の生き方・医療について発言されています。先生は,心理学のフィールドワークとして,現代日本人を観察し,現象の見方ばかりでなく,対処の仕方についても大変わかりやすく説かれており,非常に参考になります。
 インタビューは,テレビ収録前のお忙しい中でしたが,さまざまなことに鋭く触れていただき,あっという間の時間でした。

「モノが売れない時代のバカ売れ心理学」で先生は,最近の日本人は,自己つまりアイデンティティーがあるメランコ(リー)型が減り,ないシゾフレ(ニア:分裂症傾向)型が増えている,と指摘されています。その結果,自分の好みを選別して主張する,少数派もかっこいいという,いわゆる「御三家」の時代から,仲間ハズレになりたくない,みんなと同じものがいいという,「一人勝ち」,「メガヒット」の時代へとなりました,と。同じように,政治的には,ファッショ傾向ですよと。なるほどと思いました。
また,シゾフレ人間である部下や子供との関係についてもアドバイスされています。
ところで,こうした人間観察への関心は,いつ頃からあったのでしょうか。

和田さん シゾフレ人間のことは,1994年の本から言っているのですが,人間観察ということで言えば,そもそもは僕の小学校時代の転校体験からでしょうか。いじめられたりしても,同化して適応する,付き合う,というよりは,人を見る,自分を信じて頑張って見返す,という感じでした。母がそう言っていた影響かもしれません。

するとメランコ人間ですね(笑)。先生は,灘中・高,東大理Ⅲ,同医学部を経て,東大病院助手,留学,大学病院や大きな老人病院での勤務,大学講師などをつとめられ,本当に頭のいい人!なのに,初めて書かれた本が「受験は要領」(笑)。 私は後で見つけて『ああ,受験前に読んでおくんだった』と後悔しました。結構売れましたでしょ(笑)。今でも先生は,国公立大学に入れる程度の子を東大に入れるのは簡単だと豪語され(笑),実際に受験指導もされています。

和田さん 30万部くらい売れました。それで,この手の本を書いてくれという話はずいぶん来ました。

今は,子供のみならず,「40歳から何をどう勉強するか」などで,頭のよさとは何か,どうしたら良くなれるか,勉強を続けるためのちょっとしたアイデアなどを説かれています。その一つとして,長く続けるためには自分へのご褒美も必要と。先生のご自分へのご褒美は?

和田さん お酒なら何でも(笑)?家族旅行もしますよ。

ところで,高等教育機関は私学でもいいのではないかという議論がありますが。

和田さん そうですね,高等教育は自分のためにするものですから。  学費援助の問題なら,バウチャーを生徒に配って学校間で競争させてもいい。教育の生産性という点では,塾の方がいいですし。規制を嫌ってか,学校法人にならない塾もあります。

高齢者の医療についても,「間違いだらけの老人医療と介護」などで,発言を続けておられます。つい最近,発言記事をきっかけにしてさる大学病院を『お辞めに』なられました。

和田さん その本は5年前の本の文庫化なのですが,ほとんど直すところがない。反論もなく,十年一日過ぎてきています。
 ところで,老人医療費を政府の言うとおり抑えたとしても,医療費全体が2025年には2.5倍になる,一人あたり年80万円かかると政府が試算しています。つまり,高コスト体質,消費者の選択の余地がない現行の制度を変えようとはしていません。そうすると,国民は収入の過半を国に持って行かれる。それでいいのだろうか,国民の声を聞くべきではないかと思うのですが。

えっ,そんなになるのですか。

和田さん 医療にしても,教育にしても,セーフティネットは,高額である必要はないと思います。国公立が効率良くすべき場面でどれほど非効率的か,反面どれほど設備などに金をかけすぎているかは,問題になっていますね。高額のものは,セーフティネット以外の有料の所でやればよいのです。もしリストラとか,不景気の心配があるならば,援助が必要な期間だけ教育資金を援助するとか,利子補給をする方が,リストラを生ませないことや,豪華な国公立を作ることよりも良いのではないかと思いますけど。

そうですね。ところで,先生の弟さんは優秀な検察官です。司法について一言いただければ。

和田さん 少年事件の集団化,凶悪化が目立っていると思うんですが,集団化したらそれだけで刑を重くすべきだと思うのです。

集団心理で犯罪に陥りやすくなっているわけで,そこをむしろ重く見るのですか?

和田さん そうです。まともな少年,少女の8割は,重罰化してほしいという調査もあります。犯罪少年によって被害を受けているのは,第一にまともな少年たちなのです。僕は素人ですが,「原因において自由な行為」とかいうのがあるのではないですか。

確かに議論が必要ですね。ところで,法科大学院構想については,いかがですか。

和田さん 少なくとも大学の先生がそのまま先生になるのはどうかと思います。教育機関としての実績はないのではと思うからです。日本の大学は,専門分野の理屈だけで,理論に対する結果の実証的評価がなくて,プラクティカルな学問とは言えないような気がします。

専門職が悩むことに,専門と一般,ジェネラルという問題があります。どのように考えたらいいのでしょう。

和田さん バランスでしょうね。専門が一般を,一般が専門を,馬鹿にすることがありますすが,間違いですね。IQも,感情と共感の能力であるEQ(emotional quotient)も持つ必要があります。

甘えを持たずに頑張らねばなりませんね。

和田さん 日本の甘えを許す文化も悪くはないのですが,相手の足を引っ張るenvy型の嫉妬ではなく,いわばエディプス型の三者間の嫉妬で相手を自分に奪い返そうと努力するjealousy型の嫉妬であってほしいですね。

本日は,お忙しい中,鋭いご意見を有難うございました。

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