従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
ジャーナリスト
櫻井よしこさん
今回は櫻井よしこさんにお話をうかがいました。
櫻井さんは,長年日本テレビ系「きょうの出来事」のニュースキャスターを務められ,現在はフリーのジャーナリストとしてテレビ,著作活動等で大変活躍されています。
今年8月から,住民全員に11桁のコード番号を割り当てるとともに,全国の地方自治体と中央省庁を結んだコンピューターネットワークに個人情報を流通させる「住民基本台帳ネットワークシステム」の稼働が予定されています。
櫻井さんは,やがてはこの番号のもとで,国民の医療情報,収入やローンの情報,思想信条,戸籍情報,犯罪歴等のあらゆる情報が究極的に一元的に管理されかねないとして,現在「国民共通番号制に反対する会」の代表として反対運動をされています。
―今,司法関係でどのようなことにご関心をお持ちですか?
櫻井さん 司法が本当に機能する社会が日本にできなければいけないと思っています。法曹関係の方は数も少なく,エリートであるため,庶民レベルからいうと司法はすごく遠いんですよね。
司法に近づくのは悪いことをした人やトラブルを抱えた人というイメージがまだあると思うんです。法治国家というのは,皆が日々の生活の中で一定の法知識を持ち,法律に基づいてスムーズにいろんな問題を解決していくのが理想だと思うのですが,そういう意味での,法律という観念の広がり方そのものが非常に低いレベルにとどまっていると思います。
例えば裁判所を見ましても,裁判所は立法府行政府に対しては十分にものを言うことができていないと思います。政治家に対する司法のありかたを見ても,田中角栄氏のロッキード裁判では最高裁は最後まで結論を出しませんでした。
また,民主主義の根幹である一票の格差についてはとても分かりにくい判断をしました。私は1対2でいいはずがないと思いますし,それ以上の格差の中で行われた選挙は無効であるとすべきだと思いますが,そうはなっていません。
また,弁護士はクライアントの為に無罪を勝ち取ることにエネルギーを費やしますが,本当に無実と思っているのかどうか。無罪と無実が違うという事例があってもいいのか?と思います。
自分のクライアントであろうとなかろうと,法曹人の目指すべきものは真実の確定であって真実の探求です。
現実の裁判では必ずしもそうではないのではないか。取材をしていて非常に割り切れない気分です。
人数を増やせば変な法曹人も増えるかもしれませんが,いい人も入ってきます。質は量に比例しますので,私達国民の近づき易さという観点からももっと増えてもいいと思います。
―日本もだんだん国際化ということでアメリカ化している流れもあると思いますが,その点に関してどう思われますか?
櫻井さん 複雑な気持ちです。アメリカ的な割り切りの良さというのは,背中あわせに非情な面があるように思います。お金の無い人はいい弁護士を雇えないし,弁が立つ人や,より強く権利をどんどん主張する人が得をしますよね。
私達はたぶんパンドラの箱をあけてしまったのでしょうから突き進むしかないのかもしれませんが,ただアメリカ的であるだけではなくて,日本人の配慮や話し合いの心を活用できる人間としての優しさを反映した司法になってほしいと思うんです。
―関心は,法人よりもむしろ個人におありですか?
櫻井さん 法人の場合は法律的に十分に自分達を守るしくみを作っていると思うんです。エンロン問題はまさにそこから発生したのですが。それでも,アーサーアンダーセンほどの名門がつぶれるということは,それだけアメリカは健全だと思うんです。日本で同じような問題が起きた時にあの会社がつぶれるかどうか疑問に思います。
確かに雪印は庶民の怒りを買ってなくなってしまいましたけど,法曹人や企業監査の会計士が同じことをした時にあれだけのダメージを受けるかどうかよくわかりません。
―本来弁護士と会計士は,法を守って社会の秩序を正していかなければなりません。弁護士と会計士がもう少し倫理的にしっかりしていればああいう事件は起きなかったと思います。
日本は方向的にはアメリカ的になっていますが,そういうところは歯止めをかけなければならないと思います。
話は変わりますが,今後の櫻井さんの活動についてPRをどうぞ。
櫻井さん 国民共通番号制,住民基本台帳ネットワークをやめて頂きたいという運動をしています。
気が付いた人から反対をしなければならないと思っています。これについては日弁連に非常によくやって頂いています。
弁護士は政治家に知り合いが多いでしょうから,
一人ひとりに電話をするなりはがきを書くなりして,日弁連としてだけではなく一人の人間としても反対して頂きたいと思います。
―今後はどういうことに関心を持たれますか?
櫻井さん 日中関係,日米関係ですね。日本の近代化の流れを踏まえて,21世紀の日本はどういうことをしていけばいいのか,外交を含めて日本人のあり方を考えていきたいと思っています。
国際社会において本当に日本人はものを言いませんよね。これだけ国連やODAにお金を出している日本人がどうしてもっと主張しないのかと思います。
また,この国がいろんな意味で停滞している大きな原因は,官僚だと思うのです。官僚論は今年のテーマのひとつです。
アメリカにおいて弁護士資格はエリートの基本ですが,弁護士から政治家になり,そこからさらに国防総省に入るなどして,弁護士が最後ではないというのがアメリカです。その層の厚さはすごいですよね。日本もそう言う風になって欲しいと思います。
―アメリカでは弁護士で政治家になっている人がたくさんいますが,日本でももっともっと増えるべきだと思います。
最後に,もし櫻井さんがこれから法曹関係にいかれるとしたら,裁判官,弁護士,検事のどれになりたいと思われますか?
櫻井さん 昔は弁護士になりたいと思ったんですけど,今は検事です。裁判を傍聴しているとすごい資料を検察官が持っているのがわかるんです。
大変な思いで取材をして絶対にとれなかった資料を全部検察官が持っているのです。こんなに資料が入るんだったら物事の全体像が見えますし,政治家にも巨悪にも立ち向かっていくことができますよね。
弱い人を守るということでは弁護士ですが,巨悪に立ち向かうのであれば検察官かなと思います。彼らの出してくる資料はすごいですね。
―強制的に押収して持っていくわけですからね。ところで,Law School制度についてはどうお考えですか。
櫻井さん 今考えられているLaw Schoolは,本当の意味でのアメリカのような厳しさや中身の濃さがないと言われています。
そうすると中途半端な知識を悪用する人が増えるかもしれないという心配があります。それらしい形を作ればいいということではいけないと思います。
―アメリカのLaw Schoolではみんなものすごく勉強します。アメリカでは人数が多く競争が大変激しいので切磋琢磨されていい弁護士が増えてくるんだと思います。
ところで,アメリカといえば,今エンロン,ワールドコムなどの不正会計でゆれています。今後は法律とからめた会計というのも大きなテーマになりえます。
櫻井さん そうですね。興味があります。
―本日はお忙しいところどうもありがとうございました。