従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
俳優
寺田農さん
今回の「わたし」は俳優の寺田農(みのり)さんです。寺田さんは,早稲田大学政経学部在学中,昭和37年に文学座に入団されて以降,俳優として長いキャリアを築いてこられました。
昭和46年には映画「肉弾」で毎日映画コンクール男優主演賞,同60年には映画「ラブホテル」で横浜映画祭主演男優賞を受賞され,舞台やテレビでも活躍されています。
関弁連常務理事(第一東京弁護士会副会長)の木谷嘉靖弁護士とは,高校のサッカー部の先輩後輩の間柄で,現在もサッカー仲間として親交を重ねておられるということで,当日は木谷弁護士も交えてお話を伺いました。
―本日はお忙しいところありがとうございます。寺田さんは早稲田大学在学中から俳優活動を開始されたということですが,どのようなきっかけで俳優を志されたのですか。
寺田さん 志したことはないんです。もともと新聞記者になりたかったんですが,大学に合格した後,たまたま『芝居やろう』と友達に誘われてね。
木谷 でも,高校時代にも伝説の舞台があったんですよ。私は寺田さんが卒業した後,同じ高校に入学してるんで,在学期間は重なってないんですけどね,高校時代サッカー部だった寺田さんが,文化祭で「演劇部以外」で芝居をやって,脚本も自分で書いてね,それがすごい好評だったという話が伝わってましたよ。
―やはりもともと,才能もあって,役者の世界が肌に合っていたんですね。
寺田さん いや,初めは役者の世界になじめなくて,一日も早くやめたかったんですよ。そのうちに,「青春とはなんだ」とかのテレビの連続ものをやったりして,あれよあれよと「青春アイドルスター」になってしまって。ずるずると現在に至ってるわけですよ。仕事がどんどん来るんで,物理的に大学にいけなくなってしまって中退したんですけどね,それでもまだ,本当に役者としてやっていこうという,確たる思いはなかったんですよ。7~8年経って,「肉弾」で男優主演賞をもらったころかな,この道でやってこうと思ったのは。
―映画,舞台,ナレーションなど色々な方面でお仕事をされていますが,今は中心的な活動は何になりますか。
寺田さん 今は圧倒的にテレビが多いですね。2時間ドラマなんかでは,弁護士役も多いですよ。あと,医者とか大学教授とか。
―役柄なども含めて,どのような基準でお仕事を選ぶんですか。
寺田さん 私は,自分で選ぶと自分のキャパシティーだけになってしまうので,マネージメントサイドの勧めで選んでますね。どんな役でも,大事なのはリアリティを出すこと。例えば弁護士役の時,私は木谷さんなんかをみてるので,弁護士バッチをわざと裏向きにつけたりするんですよ。後で「プロっぽい」と評されたりしますね。それから,医師役も多いけど,病院ものって,やたら緊迫した雰囲気で作られがちだけど,実際の医師にとっては全てが日常的なものなわけで,そういうリアリティを出すことが必要。
―2時間もののサスペンスの警察の捜査のやり方なんて,すごく現実離れしてますよね。
寺田さん 崖の上とかで犯人が真相を告白してると,警察がやってきてその場で手錠をガチャッとやるとかね(笑)。日本人の多くはそういう手続きに詳しくないから,ウソでも分からない。法廷ものもそうだけど,特に時代劇もいいかげんに作られてますね。所作とか言葉遣いとか。
木谷 いいかげんになるというのは,視聴率重視というところから来るんでしょうか。
寺田さん というより,作ってる側に志がないということですね。ドラマっていうのはもともとウソではあるんだけど,「花も実もあるウソ」でないと。そういう志なんかを,我々もきちんと後輩に伝えないといけないんだけど,やるのが面倒くさい(笑)。あと,言っても聞かない。
木谷 ほかに,若い役者さんに限らず,今の日本の青少年について思うところはあります?
寺田さん 一番我々のころと違うのは,後先を考えずに突っ走るというところがないことかな。夢は持っていても,「これじゃ食えない」とか,やる前から結果を予測して保険をかけたがる傾向があるね。
―弁護士や法曹界に対しては,何か感じるところ,要望などはありますか?
寺田さん 弁護士は,非常に閉鎖的で,柔軟性がないと感じる。個々に話したりすると違うんだろうけど,業界イメージとしてはね。だから,普通の市民ともっとつながりがあるといいと思いますね。
木谷 今,司法制度改革が議論されている中で,裁判員制度というのがあるんですが,寺田さんが裁判員に抽選で当たったとして,一定期間拘束があるんですが,やりますか?
寺田さん 僕はぜひやりたいね。そういうことは,結局「自分」が問われること。自分がいろんなことに向き合ってきた,その来し方行く末が問われる問題だと思うから,すごく興味があるし,やりたいですね。
―本日はお忙しいところどうもありがとうございました。