従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
歌手
中島みゆきさん
今回のゲストは,シンガーソングライターの中島みゆきさんです。
中島みゆきさんは,みなさんご承知のとおり,70年代,80年代,90年代にそれぞれオリコン・ヒットチャート第1位になられた唯一の歌手であり(「わかれうた」,「悪女」,「空と君のあいだに」と「旅人のうた」),さらに「地上の星/ヘッドライト・テールライト」で,2000年代にも第1位になられました。コンサートや,舞台とも言える夜会のチケットは,常に発売と同時に売り切れです。文部省国語審議会委員も務められていました。ラジオのパーソナリティとしても時代を風靡し,多くのエッセイや小説,絵本なども書かれています。
インタビューは,あのラジオから流れるみゆきさんそのままに,大変楽しいものとなりました。
―「地上の星/ヘッドライト・テールライト」のオリコン第1位,おめでとうございます。また,発売以来なんと133週,つまりもう2年以上も連続でチャートインされているそうで,こちらもすごいですね!今や,働く人たちの希望の歌です。ご感想はいかがですか。
中島さん ただもう私としては,ぽかんとしているというか(笑)。本当に思いもかけない展開になりました。
―思いがけない,ですか。
中島さん ええ。勿論,NHKの「プロジェクトX」という番組のために,精一杯作りましたけれども。夜9時台の番組ですので,ふつうは当代のスターを当てるものでしょう。なのに,当番組の主役は素人ですと。ふ~ん3ヶ月持つかなぁと(笑)。それが,なんと3年持ちまして(笑)。
―今では,名も知らぬ人が実は凄いことをやってきたという点にスポットライトを当てた人気番組になりました。プロデューサーもみゆきさんの主題歌がぴったりだったと感謝しておられます。みゆきさんは,70年代,80年代,90年代にもそれぞれオリコン第1位になられた唯一の歌手でいらして,この曲でFourDecadeと言うんですってね。
中島さん はい。でもそれって40年間歌っているように聞こえませんか(笑)。
―40年間は歌ってないですよね(笑)。「地上の星」は,紅白でも最高視聴率を取り,3世代みんなが知っている歌手でいらっしゃるんですね。
中島さん 間違えた瞬間だけ,最高視聴率ね。(笑)
―あれ,やっぱり歌詞の字幕が消えたのはそういうわけだったんですね(笑)。さて,みんなに感動を与えて下さるみゆきさんについて,脚本家の倉本聰さんは,エッセイに「台詞に困ったときはこう書けばいい。『中島みゆきの歌が流れる。』ただそれだけで百万言を尽くすより効果がある。」というようなことを書いておられました。「みゆきにはきっと神様がついているんだ」と。なるほどそれで(笑)みんなの琴線に触れるのでしょうか。
中島さん 倉本さんったら,困りますわ(笑)。でもね,少なくとも,私は,流行に疎いたちで,流行するとかさせたいものを鋭く見つけ出して実現していくタイプではないですね。それよりもむしろ,こぼれ落ちていくもの,一番後ろ,をちゃんと見つめてゆきたい。ずっとそこにあり続けたもの,変わらないものを,というのかしら。もともと,何をしてもとろいので,だったら一番後ろにいようと(笑)。
―そうですか(笑)。詞も曲も素晴らしいのですが,印象に残るのは,例えば歌や劇中の言葉に,人生の意味を知性的に感じさせるように思うのです。普遍性を持つように創作していらっしゃるのでしょうか。
中島さん 言葉は,受け取る人の気持ちによって,それぞれの意味を持ちます。受け取る人それぞれに世界を作ってゆくというか,それが楽しみですね。勉強になります。
―昨年の夜会「ウィンター・ガーデン」では,とりわけ,詩の,言葉の朗読に大変インパクトがありましたね。
中島さん 前回の夜会は,歌の言葉とポエムの言葉の両方で成立していたんですね。夜会は,渋谷のシアターコクーンで毎日747席のお客様を迎えるのですが,夜8時開演にして,仕事をお持ちの方,人生経験豊かな方を含め,さまざまな層の方に来ていただいています。
―夜会にしてもコンサートにしても,リーダーシップを発揮されていると思うのですが,その点でのご苦労はいかがですか。
中島さん 夜会について言えば,私はプロの演出家ではないし,人さまに命令なんてことも苦手。作品の説明とか方向性をごく抽象的に伝えるのが精一杯ですね。すると,それぞれの分野の専門スタッフが,たとえば床の上のものをもっと見せたいなら,床を斜めにする方法がありますよとか,足音を聞かせたいなら,床にマイクを入れようとか,なるわけです。
―やはり,意思表示は明確にするということですね。みゆきさんのクリエイティブな表現は,お美しさ,かわいさは勿論のこと(笑),詩,言葉,曲,声の力,さまざまな声,などの総合芸術ですね。お声がさまざまに出て,素晴らしいと思うのですが,ボイストレーニングを受けていらしたとか。
中島さん 声量にだけは自信があったのですが,音域を広げて,作品を制約しないようにしたかったのね。
―みゆきさんはとてもスマートですし,夜会などではお体がとても柔らかいですね。何かスポーツをされているんでしょうか。
中島さん いいえ,ストレッチくらいのものですね。思い立ったときやるだけでも,やらないよりはいいみたいですよ。
―はい(笑)。みゆきさんの歌が,人の心の琴線に触れるのは何故でしょうか。人の心を癒し,励ましてくれるからと思うのですが。
中島さん 人の生き方の指針を示すとか啓蒙するとか,そういうえらい歌を歌う能力はないので。せめて,そうねぇ,寒いならお隣にいて体温だけでも差し上げましょうか,くらいのね,そういう気持ちで寄り添いたい。それくらいしかできないんだけど,そういう歌を書いていきたいですね。
―私の仕事の原点も,隣に座った人が困っているときに少しはお役に立てればということでしたね。
中島さん 一人でできることって,限りがありますからねぇ。
―ところで,デビューは,75年の「アザミ嬢のララバイ」であり,その年「時代」で世界歌謡祭グランプリをお取りになった。実は,その数年も前にデビューを誘われたのに,そのときはデビューしなかったとお聞きしました。
中島さん デビュー数年前の大学生時代にも,他の音楽祭で全国大会まで進んで,結果としては,優勝者が複数出て私もその一人の同等特別賞という形になりました。それで,すぐその場でデビューをというお話だったんですが,できませんと言って,札幌に帰ったんです。ここまで費用かけたのに何言ってんだ,でしょうね(笑)。
―何故でしたか。
中島さん 実は,全国大会前にこれに曲を付けよという課題詞を出されたんです。それが谷川俊太郎さんの「私が歌う理由(わけ)」。これを出されたときには,いい気になっていた私にはショックでしたね。勝つためか,いばるためか,見下すためか。このままいい気になっていたら,歌に対して失礼になる。それで,田舎に戻ったんです (笑)。
―その答えが,デビューアルバム「私の声が聞こえますか」の中の「歌をあなたに」でしょうか。その後もさまざまな作品の中でお答えになっていると思いますけれど。また,勝手に言わせていただけば,作家の初期の作品は,その作家のバックボーンですものね。
中島さん 有難うございます。
―さて,海外,特にアジアでもたくさん販売されているようですが,海賊版などはありませんか。
中島さん 多いようですね。徐々に減ってはいるのでしょうが。
―弁護士のイメージはどんなものですか。
中島さん 弁護士さんのイメージですか,あまり表舞台には立たれませんでしょ。うーん,セクハラじゃないんですけど,男の弁護士さんは父親のイメージ,女の方はお姉さんのイメージかな。わからないことを教えてくれるという感じかしら。
―これから弁護士の数は3倍程度まで増え,争いの種は,事前規制ではなく,事後処理しようということになったのですが,年間3000人を教育するにはどうすべきか,いろいろ議論がありまして。増やすことについては,いかがですか。
中島さん そうなんですか。あまり少ないと,こんな小さな事では頼めないかなとなってしまうのもどうかと思いますけど。暇な方もいらした方がいいとは思いますが(笑),頼んだはいいが,よくわかんないわ,じゃ話にならないですしね(笑)。やっぱり教育,お願いしたいですね。
―そうですね。どんどん増えていきますからね。
中島さん アメリカみたいに,成功報酬型になるんですか。
―日本では,成功報酬制は,そのまま認められるとは限りませんね。それに,アメリカのように懲罰的損害賠償によって極めて高額な賠償金が出るということはないので,極めて高額な成功報酬になるということもなく,アメリカに比べれば成功報酬制のうま味も少ないかもしれません。
中島さん なんか一応訴えておけばいいかも,みたいな訴訟がありますよねぇ。太ってしまったのは,その食品を食べると太るかもと書かなかった会社のせいだとか(笑)。
―マクドナルドの件ですね。今回は一応原告敗訴でしたけど(笑)。今日は,大変お忙しい中,貴重で楽しいお話を頂きまして,どうも有難うございました。
(後記)
中島みゆきさんのチャートイン記録は,ついに5月19日現在,「148週」という新記録,しかも全て「連続」という大記録を達成されました。この記録はまだまだ継続中です。「中島みゆきほのぼのしちゃうのね」(ニッポン放送月~金:午前10時から10分間)のパーソナリティも担当され,好評です。
今後も,7月から始まるフジテレビ系ドラマ「Dr.コトー診療所」(主演:吉岡秀隆さん)の主題歌を担当され,秋頃にアルバムリリース,冬に「夜会」公演,とのことであり,ますます御活躍が期待されています。お忙しい中,有難うございました。