関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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歌手・作詞家
荒木とよひささん

とき
平成15年1月20日
ところ
東京都渋谷区
インタビュアー
鶴間洋平 会報広報委員会委員

 シリーズ第39回目は,作詞家の荒木とよひささんです。『時の流れに身をまかせ』テレサ・テン,『恋唄綴り』堀内孝雄等,数多くの歌謡曲・CMソングを制作され,日本レコード大賞・日本歌謡大賞・日本作詞大賞等,様々な賞を受賞されています。その他,イメージソング・社歌・校歌・音楽企画プロデュース・ラジオパーソナリティー・講演・ライブ活動・ナレーション・エッセイ等々多方面で活躍され,現在は映画制作にも取り組んでおられます。

現在までに,CMソングを2000曲以上,歌謡曲も2000曲以上制作されているということですが,これだけ多の作品を作られるために,日頃どのように仕事されているのでしょう。

荒木さん 40年やれば,そのくらいにはなるんじゃないですかね。売れない時分もありましたから,本当はもっと書いてるんでしょうね。一つは,作詞家でない時間を作るようにしています。夜は絶対仕事をしない。午前中から仕事する。普通のサラリーマンと同じペースで仕事してます。夜型って効率悪いんですよ。詞を書くというのは,言葉の魂というかね,神様を背中に呼びつけるのが仕事で,乗ってくれればいいものができるという感じですね。

『時の流れに身をまかせ』などを聞きますと,どうやったらああいう歌詞を作れるのだろうと思うのですが。

荒木さん この歌に限らないですけども,作詞家というのは,悲しいとか切ないとか面白いなとか,相手に伝わるかどうかというのが仕事なんですね。感動は書く方も受け手側も一緒なんだけれども,嘘をつかなくちゃいけないんですね。疑似体験を相手に考えさせる工夫がないと。純粋詩人といわれようが職業詩人といわれようが,多分大嘘をついてるんだと思います。
 一つの表現をするのに,いろんな言葉の言い回しがあるんですよ。頭にあるものを素直にすっと言葉にすると実に幼稚でつまらない。それを劇的にしなければいけない。何か工夫がないのかなぁといつも考えていなければならないんです。
 「もしも」が歌のヒントになるんですよ。女性の歌を書くときに,もしも自分が女性だったらと考えて,こういう女性だったら男性はどう思うんだろうな,と考える。こういうことをしたら男性は喜ぶんだろうなということを考えるんです。まあでも,別れの歌なんかでも,男性は想い出と明日に生きていて,女性は今という現在に生きてるんで,本当は僕が書くほど女性は男性のことを想ってないと思うんですけどもね。
 また,歌にもサスペンスを作ることがあります。例えば,「哀しみ本線日本海」という歌をつくったけれども,これはすぐに犯人がわかりますよね。ああ,サビで「哀しみ本線日本海」と出て来るな,と。逆に,中澤裕子の「カラスの女房」。なんだろう。派手に入ったはいいけどどういうサビが来るのかわからない。でも,最後まで聞いてみると,なるほどそうだったのか,とわかる。サビで無理矢理トリックを作る,そういう作り方もするんです。時間差を使ったり,遠近法を使ったり。
 ある歌手のために歌を書くときも,その人らしい歌も,えっと言わせる歌も作ります。いろんな切り口で書かないと,おもしろい歌は書けない。

荒木さんは,現在の日本において著作権を巡る状況について,どう思われますか。

荒木さん 私はJASRACの理事をやっていたんですが,やっとこ著作権という言葉が一般の人にも広がってくれたとは思います。ただ,まだ日本では形の見えない財産,無形の音とか言葉というものの価値を十分理解してもらえていない。音楽については外国と比べ,全体的にペイが低いです。テレビもラジオも。ホテルで流れてる音楽なんて,この間まではタダだったんですから。また,不法ダビングは深刻で,命取りになる問題ですね。
 著作権管理ビジネスについては,将来はどうかわからないですが,歌市場はせいぜいアジアをちょこっと浸食するくらいで世界的マーケットがなくて,回収できないというか,著作権を管理する能力という点でも組織が未熟で,まだ難しいんじゃないでしょうか。JASRACはその点伝統がありますね。手数料については,もうちょっと切りつめられるんじゃないかとか,法人として,経営方法をもう少しスリムにしてとか,効率的にとかは思いますけれども。

司法界をみて,何か感じることや,要望されるようなことはありますか。

荒木さん 私が絶対なりたくなかった職業が三つあるんです。一つは医者,一つは法律家,もう一つがお坊さん。医者は,愛する人を看ていて,自分の無能さを知ることになるんです。法律家は,例えば殺人者をかばう弁護士の場合,自分の正義と悪と闘うわけでしょう。ましてや判事になると,人を裁くわけでしょう。僕は死刑反対論者じゃないけれども,人を殺せるのか,答えが出ない。苦しいんでしょうねぇ。お坊さんは,自分が悟れないからね。僕なんか,やりたいことをやってお金もらえてますから,幸せですよ。
 一般人も,道徳や倫理的にみてやっちゃいけないことが何かはわかる。でも,それ以上の法の毛細血管の部分は,無知なんですよ。そのあたりを個人で気軽に相談できる弁護士というのがなかなかいないと思います。手術するときは名医がいいけど,ちょっとかぜひいちゃったから看てよというような町医者みたいな弁護士さん。NHKの生活笑百科でやってた,柿の実が木になってるときは取っちゃだめだけど,落ちたら食べていいとかね,そういう四コマ漫画的な相談をね,例えば1500円でいいよとか。みんなそう思ってるんじゃないですか。

本日はどうもありがとうございました。

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