従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
女優
竹下景子さん
シリーズ第4回は,女優の竹下景子さんです。
竹下さんはこれまでにも,坂本堤弁護士の救援活動や,当番弁護士を支援する市民の会,法律扶助の日のイベントに参加されるなど,司法の問題に関心を持って来られ,また震災遺児の心のケアのための運動に参加されるなど,社会的活動にも熱心に取り組まれています。
インタビューでは,聞き手の弁護士の緊張をほぐすようなやさしい笑顔で,市民感覚で司法に対して感じておられることを話して下さいました。
―竹下さんのお父さんは弁護士なのですね。弁護士という仕事にどういう印象を持っておられましたか。
竹下さん 父は私が小学校4年生まで国税庁に勤めていたので,当時は毎日決まった電車で通勤していましたが,弁護士になり事務所を構えてからは生活が一変しました。ともかく,家でゆっくりしているということがなくて,何て忙しい仕事なんだろうって思っていましたね。私が小さいころは父にずいぶん遊んでもらった記憶がありますけど,9歳下の弟はあまりそういうことがなかったようです。
私は子供のころ,裁判所に関わる人のなかでは裁判官が一番偉くて,困っている人の味方が検事で,なぜ弁護士は悪い人の味方をするのかと思っていて,どうしてお父さんは弁護士を選んだの,と聞いたことがありました。すると2つの答えが返ってきました。一つは,社会の中で恵まれない人,弱さから犯罪にかかわってしまった人のために働くのが弁護士の仕事なんだよと,もう一つは定年のある仕事は今からやりたくないんだと。私は,カッコいい方がいいのにと,ちょっと不服だったんですけど…
―なるほど。その後お父さんを見ていて弁護士という職業に対する見方は変わりましたか。
竹下さん そうですね。このあいだも不法滞在中の中国人の事件を引き受けたと言って,こういったケースを見捨てておけないというか,やはりどこかで愛情を感じているのではないでしょうか。
―弁護士役でドラマに出演されたことはありますか。
竹下さん 先生って言われる役って今まで避けてきたところがあるんです。医師の役もそうですけど,ドラマとしては割り切りが必要で,とても格好いいんですけれど実際とあまり違い過ぎると腰が引けてしまうというか…
―あえて,弁護士役をやるならどんな役を演じてみたいですか。
竹下さん 父を通して見ていると,弁護士の仕事は,はたで思うよりずっと地道で,依頼人との関係も,仕事だけでは片づけられない,同じ人として共感する部分がないとできないところがありますね。欧米の映画で見ると法廷でのパフォーマンスなど華やかさがありますけれど,日本の場合は,もう少しメンタルな部分の占める割合が多いかなって思います。
今年の1月,法律扶助の日のイベント(愛知県一宮市)に参加したとき,少年事件をよく担当される女性弁護士さんにお会いしました。彼女は,お母さんの感覚で少年事件に関わっていらして,この子はどうしてこんな事件を起こしてしまったんだろうとか,これからこの子がどういう風に大人になっていったらいいんだろうと考えながら仕事をしているということを聞いて,もし私が役としてやるとしたら,単なるスーパーウーマンではなくて,もっと自分自身が反映できるような仕事の仕方をしている弁護士さんを演じてみたいですね。
―それは素晴らしい。是非やっていただきたいです。
竹下さん でもそれじゃ,あまりカッコよくならないから,企画としてなかなか通らないんじゃないかと思うんですけれど,そういう役だったらやりたい,すごく。
―今,弁護士会では法曹一元を目指していますが,どう思われますか。
竹下さん 法曹一元って,弁護士として経験を積んだ人の中から裁判官や検察官になっていくということですか? それなら良いと思います。
今の子供達は以前と比べるとお互いの関係が希薄になってきていて,似たもの同士の小さなグループの中での付き合いにとどまりがちです。知識や情報とは別に,現実にはいろいろな立場やタイプの人がいて,考え方もまた様々だということを実際の体験として知っている人は少なくなっていると思います。弁護士としての豊かな経験を生かして広い視野を持った人が裁判に臨んで欲しいですね。
―陪審については。
竹下さん 子供のころにはあこがれましたね。でもテレビなどを見ていると,誰が選ばれるかがすごく大きい問題です。公正な判断ができる人がきちんと選ばれればよいけれど。最近では,やや不信感があって,ほんとうにリベラルな裁判ができるのかなあと。うまく機能すれば住民参加型でいいと思うんですけれど。
―最後に日本の弁護士達に対するメッセージを。
竹下さん 司法関係の方々とは日常ふれあうことが少ないですけれど,私たちが安心して生活する上で欠かすことができない存在ですね。私などは弁護士さん達の努力も聞こえてくる立場にいる方だとは思いますが,一般市民にとってはまだ遠い。ですから,お互いに歩み寄るというか,弁護士さんの側からもこんなところで頑張っているんだ,こんなにいい仕事をしてるんだということをアピールして欲しいし,こちらからももっと関心を持たなくてはと思います。裁判の迅速化も司法が身近になるきっかけになるだろうし,法曹一元化についても市民レベルで意見を言える場所があったらいいですね。
―ありがとうございました。