従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
エスビー食品株式会社
スポーツ推進局陸上競技部・監督
瀬古利彦さん
今回は,世界的な一流ランナーとして活躍された後,エスビー食品株式会社陸上競技部監督として後進の指導にあたっておられる瀬古利彦さんです。現役当時のストイックなイメージとは異なり,大変気さくで笑いっぱなしのインタビューとなりました。なお,今回は,紹介者の高取芳宏弁護士にも同席して頂きました。
(今回のインタビューは,アテネ五輪前に収録されました。)
―瀬古さんは,現在,監督として後進の指導にあたっておられますが,自分で走っていたときと比べると,どういう点が違うのでしょうか。
瀬古さん 陸上は,基本的には個人種目ですから,自分が頑張れば,っていうのがあるじゃないですか。宗さんに勝つにはこういう練習しよう,とか。でも,監督だと,こっちが一生懸命やろうと思っても,やってくれる人がやってくれないと,なかなか思うようにいかないですよね。
それに,世代の違いがある訳じゃないですか。私が辛抱できたことでも辛抱できないというか。それと,私が中村監督についてたときよりも,選手との年齢差がないので,同じことを言っても重みが違うしね。
―アテネ五輪の代表になった国近選手については,どうでしたか。
瀬古さん 福岡国際の国近は,正直あそこまでやれると思ってなかったんですよね。何せ高岡は強いから。最後のスピードは勝負になるけど,それ以外は全部高岡の方が上だから。それに,安定してるし。でも,勝ってしまえばこっちのものだから(笑)。でも,いい勝負はできるな,とは思ってたんですよ。練習の量も内容も,完璧でしたから。
国近が入ってきたのが2000年だから,彼の習性だとか,性格だとか,すぐにはわからないでしょ。でも,国近は叩けば叩くほどやってくれるし,笛を吹くと踊ってくれるんですよ。でも,叩くと本人もできてしまうんですよ。そうすると,やりすぎてしまって,オーバーワークになって。それでなかなか成果が出なかった。五輪本番でも,うまく調整できると思いますよ。
―ところで,弁護士に事件を依頼されたことはありますか。
瀬古さん あちらこちらの講演会でも言ってるんですけど,土地を買おうとして詐欺にあったんですよ。あるところに家を建てようとして,チラシがあったんですけど,高かったんですよ。でも行ったら,チラシより安いのがあった。家内と相談して,それではということで,買うことにして。そうしたら,よくわからないのだけど,現金で払ってくれって言うんですよ。それでは半金だけ先に払いますって言って。そして,司法書士も付いてもらって,きちんと調べて,大丈夫ですっていうことで。それで,半金で権利書もくれてね。
そうしたら,警察から電話かかってきて。「あれ?何か悪いことしたかな。」って,過去3年くらい振り返りましたよ。何にも悪いことしてないのに,走馬燈のようにね(笑)。そうしたら,法務局から警察に,権利書が偽造だって連絡あったんだって。あっ,やられた,って思いましたよ。
それで,1週間後に残り払うことになってるからって言って,警察に張り込んでもらって,銀行の支店の中で。それで,目の前で5人くらい捕まったかな。そのときは手錠はしませんでしたけど,連行されて行きましたよ。警察では,自分たちも騙されたって言ってたらしいけどね。
で,彼らからは一銭も返ってこないから,弁護士に頼むしかないって。で,そのときアメリカ留学中の高取君にも日本にいる弁護士紹介してもらったんだけど,結局アメリカから戻った高取君がやってくれることになって。
―成果はありましたか。
瀬古さん ありましたよ。全額ではないけど,大半取り返してくれましたから。宅建業者の保証金の取り戻しとか,いろいろやってくれましたね。だけどこっち(高取先生)にも取られたからね(笑)。
高取弁護士 普通の弁護士報酬よりずっと友人割引したじゃないですか(笑)。瀬古さん,いつも,「いい弁護士いますよ,高いですけど。」って知人に私のこと紹介するんですよ。もう,高いって言うのやめて欲しいですよね(笑)。
瀬古さん でも,良かったですよ,ほんとに。大事な虎の子ですから。それまでは,高取君ともそんなに親しいわけじゃなかったけれど,それ以来だよな,よく飲んだり食ったりゴルフしてるのは。
高取弁護士 ええ,今はヱスビー陸上部の合宿にもおじゃましています。
―それ以外には,弁護士に依頼されたことはありますか。
瀬古さん 90年の事故(エスビー食品の選手たちが交通事故死した事故)のとき,労災の問題があったのだけど。合宿は仕事ではないって。昭和20年の頃は知らないけれど,今の時代は違うでしょう。でも,あれは会社がやってくれましたから,私が弁護士に依頼したのではないけどね。まあ,それくらいかな。あとは,離婚するときにまた頼むかな。冗談,冗談(笑)。
―弁護士に対して,どういう印象をもたれていますか。
瀬古さん そうですね,報酬ずいぶんとられますからね(笑)。というのは冗談で,世間一般の人には接点がないじゃないですか。だから,普通はよくわからない世界ですよ。ボクの場合は高取君と親しくしているけど,気さくで,弁護士って感じしないじゃないですか。今では親類とかかわいい後輩って感じですね。親しい弁護士だと安心して紹介できますよね。でも,私が紹介した友達と,飲みに行っちゃうんですよ(笑)。
高取弁護士 飲みに行ってるのではなくて,法律相談に乗ってるんです(笑)。
―陸上のプロ化に関しては,どう思われていますか。
瀬古さん 私の最後のころは賞金レース認められましたから,アマチュアからプロになる境目でしたね。私も賞品のベンツもらいましたけど,個人ではダメで,会社で使うならいいと。今は個人でもらえますけどね。でも,日本では,プロで食べていけるのは,高橋尚子と室伏広治くらいですよ。他は,会社から給料もらわないと食べていけない。まだまだプロっていう印象はないね。外国では,賞金だけではなくて,例えばナイキとかと契約して食べていける選手もいるけどね。
―では,現在の企業スポーツに関して,どう思われていますか。
瀬古さん 廃部に追いこまれたり,危ない所もありますしねぇ。寂しいですね。
日本は,スポーツ自体が企業スポーツで成り立ってますから,企業スポーツがなくては日本は闘えないと思うんですよ。企業には頑張ってもらわないとね。スポーツで金儲けというのではなくて,社会還元というか。金儲けて余ってるから使う,というのでは長続きしないからね。長い目でアマチュアスポーツ応援してくれたらね。
そうそう,日弁連にも陸上部作ってもらって。弁護士は走らなくていいから(笑)。そんなに費用かかりませんから(笑)。
―本日は,どうもありがとうございました。