従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。
劇作家・脚本家・演出家
さとうしょうさん
今回の「わたし」は,女歌舞伎「劇団 尚(しょう)」を主宰する一方,商業舞台脚本・演出,TVシナリオ等を手がけられている,さとうしょう さんです。
―「女歌舞伎」というのが大変面白いと思ったのですが,どのようなきっかけで,いつ頃から活動されているのですか。
さとうさん 1983年旗揚げです。父が海外の仕事が多く永住の話が持ち上がり,私も一緒にと言われたのですが,私は日本が大好きなのでとても迷いました。そんな時ふらっと足を向けた国立劇場で歌舞伎を見たんです。もともとお芝居が好きでしたが,悩んでいる最中だったせいなのか,もう,すごく感動してその場で一人日本に残る決心したんです。
その時からですね,歌舞伎にとても執着するようになって,なんとか歌舞伎役者になれないものかと思ったりして,でも女性には無理ですし,歌舞伎のお家の出身でもないし,私の家は芝居や歌舞伎とは全く縁のない学者の家なものですから。で,せめて国立養成所に入れないものかと思ったのですが,やはり女性はだめなんですね(笑)じゃあ自分たちで作ってしまおうかという単純な発想から始まったんです。好きだからやりたいという。
―その実行力は素晴らしいですね。
さとうさん 若かったから勢いがあったんですよね。活動開始から暫くしてお知り合いから梅幸先生(人間国宝七代目尾上梅幸)をご紹介いただいたんです。それで,じゃあ,僕が協力してあげようっておっしゃって,養成所に入れないのならあちらから出張してもらえばいいじゃないって,講師をご紹介くださって歌舞伎の基礎稽古から始めて下さったんです。今思えばラッキーだったんですがとても畏れ多いことで身の毛のよだつ思いです。本当にこわいもの知らずだったんですね。
―劇団を主宰されるだけでなく,脚本家として大活躍でいらっしゃいますね。脚本家の道に進まれたのは,どうしてですか。
さとうさん 実際に演じる,ということも嫌いなわけではないんですが,もともとお芝居を作ることの方が好きだったんです。女歌舞伎の劇団というとメンバーが少なく(笑)そこで三枚目のおやじ役とか立役(男役)などやり手のいないところは私が消化していたわけです(笑)。勿論台本も書いていましたし演出もしていましたので,全く何の迷いもなく,脚本家になりたいというか,なるつもりだった感じです。
―商業演劇からテレビドラマなど,お書きになっている分野も幅広いですね。
さとうさん 最近の劇場では,集客力がおありになるせいか演歌歌手の方が座長をなさるお芝居が多いようですね。ありがたいことに私も何本か脚本と演出をさせていただいているのですが,私としては舞台とかテレビとか,また,時代劇とか現代劇に限らず,頂けるお仕事は全て楽しくやらせていただいております。自分のテーマとしてはヒューマンをベースにしているのですが,女性が自立に芽生えていく過程に光を当てた作品が好きですね。特に昭和30年代のペーソスが好きです。いろいろなことに興味をもって調べたり勉強することが好きなんです。もちろんテレビの2時間サスペンスを見るのも大好きです。
―テレビドラマでは「新・細うで繁盛記シリーズ」はパート2も放映され,パート3を楽しみにしている方も多いと思います。テレビと舞台だと,脚本を書くにあたって,どのような点が違うんですか。
さとうさん はっきり違うんですよ。舞台は制約が多いんです。つまりは舞台ですと,一場,二場と移動するのに,舞台の装置も展開しなきゃいけし,物理的に人間がはけなきゃいけないっていうことがありますよね。でも映像の場合は,止めて,撮って,繋げていくので撮るのは順番になっていませんし,前後しますし,移動とかすぐにできますよね。だから描き方も自ずと変わってきます。制約が少ないですね。「にっこり笑ったマサコ。すぐ次のシーンで,寝ている一郎」ってなれるわけじゃないですか(笑)でも,舞台だと「にっこり笑ったマサコ」っていって,ちょっと待ってください,って道具をかえて(笑)
―原作物と,オリジナル物と,どちらが大変とか,お好きですとかありますか。
さとうさん どっちだと思います?(笑)
―自分の発想の方がやりやすそうな気がしますが。好きなものが書けそうで(笑)
さとうさん 私,どっちもどっちですけど,物理的に時間的なことを考えて早くできるのは,原作物ですね。なぜかというとロジックがはっきりしていて,そして事件勃発とか時代背景とか,全部そこに書きこまれているので,そこからアレンジするっていうことじゃないですか。でも「作(さく)」っていうことになると,そういうふうな構築していくものを最初から自分で考えなきゃいけないから,その分の時間はプラスされますね。時間的なことをいうと原作があった方が楽ですけど,どっちが楽しいかっていうと,どっこいどっこいですね。原作物を,原作に中に流れているテーマを一所懸命探し出して,そのテーマを崩さないで,もっと面白くできるかという自分の挑戦が楽しいですし,自分で作るときは,他の人がやっていないようなことを新しいものを自分で見いだして作っていくというのが楽しみでもあるので。
―原作物の場合,制約もありそうですね。
さとうさん ええ,あります。著作権者がここだけは絶対に譲れないと言う部分がありますし,書く前にみんなで会議をしますが,今回はこういうテーマでいこうということがあって,それに乗っ取った上で原作を崩さないように,ということはあります。
「細うで繁盛記」の場合は,時代背景が,戦中,戦後の話なので,とてもちょっと今に持ってくるのは難しく,昔のまんまこれをやるんだったらいいんですけど,これを現代に移行しましょう,というテーマだったんです。これを現代に持ってくるとなると,その当時の内容は,全然使えないですよね。
―かなりご苦労されたしょうね。
さとうさん あれは結構考えましたね。戦争で行ってしまった恋人が,実は生きて帰ってきたというところがあったり,戦争に行って心の傷を受けて,男性としての機能が機能しなくなってしまった,といった大きなテーマが流れていますが,それは使えないですからね。
今にそれを持ってくると淫靡な話になってしまいますし,使えないですよね。だとすると,どこに問題点,事件を持って行くかっていうことで,あれは考えましたね。
―そこがうまくいくと脚本家冥利につきるんでしょうね。これから書きたい題材とかおありですか。
さとうさん 学生の頃から泉鏡花がすきで,泉鏡花を題材にした卒業論文を書きましたので,泉鏡花の作品を題材にして壮大なロマンある作品を作りと思っています。
―法廷物も,ぜひお書き頂けたらと思うのですが。
さとうさん 題名はちょっと忘れてしまったのですが,向こうの映画で,親子で法廷で戦うという映画を見た記憶があるのですが,法律は難しいですね(笑)。判例を使って解決していく,それが,よく自分で理解できれば,ものすごい面白いと思いますが。それプラス,ロマンティックなものができればいいと思いますね。人間の暖かみとかを表現出来て,温情を感じられるようなものをやってみたいと思いますね。
―裁判をご覧になったり,弁護士と関わりを持たれたことはございますか。
さとうさん 裁判は見たことはないのですが,弁護士の先生には,お知り合いが何人かいらっしゃったり,遠い親戚にもおりまして,サスペンスを書くときなんかは教えて貰ったりします。
―今後の予定を教えて頂ければと思います。
さとうさん 大阪の新歌舞伎座で3月に天童よしみさんの公演,9月に川中美幸さんの公演,12月には神野美伽さんの公演をやらせて頂きます。
また,テレビドラマの脚本もやっていきたいですし,女歌舞伎「劇団尚」やイケメン若手俳優で結成された女形ユニット「MoMoe」のプロデュース活動もして行くつもりです。それから去年に引き続き,大阪芸術大学短期大学部の講義も担当させていただきます。
―日舞の教室も主宰されておられますね。
さとうさん プロの役者さんに演技や日舞の個人レッスンをさせていただく機会が多いのですが,一般の方々にも決まりことや年令にとらわれないで楽しんでいただけるように「楽々日舞」という教室を開いているのです。
―今年もお忙しいそうでうね。本日は貴重なお話ありがとうございました。先生の作品を今後とも楽しみにしています。